2019年のテンタライブは、ひとつの完成形

ブキのモーションを入れた振り付け

――そのまま各曲の演出などもうかがっていきます。『イマ・ヌラネバー!』での4人の共演や『ナスティ・マジェスティ』でのテンタクルズの色変え、『フルスロットル・テンタクル』でのヒメの反復横跳びからのメガホンレーザーについての秘話はありますか?

橋口ハイカライブでは、シオカラーズとテンタクルズの両方が出演することが決まっていたので、ぜひ共演させたいっていう流れになったんです。任天堂さんから「『イマ・ヌラネバー!』がいいのでは?」という提案を受けて実現させました。『ナスティ・マジェスティ』での色変えは、ちょうどテンタクルズの新カラーが出るタイミングだったというのもあり、導入することになったんです。これも任天堂さんとの話し合いで出たアイデアでしたね。ヒメの反復横跳びは、めろちんのアイデアだったよね?

めろちんそうですね。ゲーム内でヒメが反復横跳びしながらくるっと回転しているんですが、それもしっかり再現して。ヒメを観察するために、何回も『オクト・エキスパンション』のボス戦をやりましたから。

橋口メガホンに関しては、ドワンゴの中野真(スプラトゥーン甲子園のスタッフであり、解説なども担当する)と話しているときに出てきたアイデアです。任天堂さんからも「何か大仕掛けがほしい」という要望をいただいていたので、メガホンレーザーのアイデアを話してみたら「いいですね!」という反応だったので、導入することにして。でも、どうやってメガホンレーザーを再現するかは悩みましたね。最終的には、すごく大きな扇風機を借りてきて、風と煙と光でメガホンレーザーを表現することになったんです。

――ああ、あれは扇風機を使っていたんですね!

橋口会場全体には風は届かなくて、会場の前方の方だけ風を浴びていると思います。ヒメの「マ゛ーーーーーーーーーッ!!!!」に合わせて、風が出ているんです。

めろちん収録のとき、ヒメの仕草を真似するのがすごく楽しかったですね。『ミッドナイト・ボルテージ』でテンタクルズが着替えて出てくるとき、ヒメが下から飛び出してくるのは、僕が熱望した演出です。

『スプラトゥーン』シオカラーズ、テンタクルズライブ振り付けの裏側。振り付け・めろちん&演出・橋口雄樹インタビュー_06
舞台下から飛び出すように登場するヒメ。会場の歓声もいっそう大きく。

“スプラトゥーン2 テンタライブ 闘会議2019”『ミッドナイト・ボルテージ』は20:15頃から。

――あの演出も盛り上がりましたね!

橋口すごくカッコよかったですよね。『ミッドナイト・ボルテージ』は、テンタライブで初出しの曲ですし、ライブでは初めて私服に着替えるということで、盛り上げたいなって思っていたんです。最初はふたりいっしょに下から徐々に出てくるようにしていたんですが、めろちんからの提案もあり、ヒメが飛び出してくる形になりました。

――ちなみに、とある曲にブキの動きを入れているとお聞きしたんですが、詳しく聞かせていただけますか?

めろちんフライ・オクト・フライ』ですね。意識して動画を観ていただいたら、1発でわかると思います。連続でブキのモーションをしているんですよ。マニューバー、ブラスター、スロッシャー、パブロ、ローラーの動きをした後、最後にナイスダマっていう流れです。

“スプラトゥーン2 テンタライブ 闘会議2019”『フライ・オクト・フライ』は29:40頃から。

橋口めろちんがその動きを持ってきたとき、めっちゃ感動しました。

――それは、めろちんさんのアイデアですか?

めろちんはい。シオカライブ、ハイカライブを経て、テンタライブの最後に振り付けした曲でもあるので、いままでの経験・知識を総動員しました。その結果、あえてベタに、直接的にゲームにアプローチしようと思って、ブキの動きを入れてみたんです。最初にこの曲のアレンジを聴いたとき、すごくテンションが上がって、なんとしてもいいものにしたいっていう思いがありました。

――すべての集大成というわけですね。

めろちん振り付け自体はすぐに思いつきましたね。たぶん10分くらいしかかかっていないと思います。

――めろちんさんのアイデアが随所に入っているんですね。細かい部分ですが、ハイカライブの最後にヒメが立ち去るときの振り返って両腕を上げるポーズが、闘会議版とニコニコ超会議版で腕を上げている時間が違いましたよね。

めろちんああ、あれも僕の悪ふざけですね(笑)。あのポーズは、マイケル・ジャクソンの“THIS IS IT”を意識して。

『スプラトゥーン』シオカラーズ、テンタクルズライブ振り付けの裏側。振り付け・めろちん&演出・橋口雄樹インタビュー_07
闘会議版ハイカライブの締めのシーン。超会議版はもっと長く背中を見せる。

――そのほか、注意して見てほしいところなどはありますか?

めろちん回数を重ねるごとに、ライブがより引き込まれるものになっているっていうところは注目していただきたいですね。すべての経験が活かされて、どんどんよくなっています。

橋口シオカライブから、観客と一体になるという試みは続けていました。ハイカライブ以降も、もっと臨場感のあるライブらしいものにしようと試行錯誤を続け、2019年のテンタライブは、ひとつの完成形を迎えたという手応えがあります。

めろちん具体例を挙げると、『フルスロットル・テンタクル』のイントロは、闘会議ではポージングを決めているだけだったんですが、ニコニコ超会議からは手拍子で煽っているんです。そういった変化は、もちろんお客さんの反応を見て決めているので、ライブのたびに勉強させてもらってます。

橋口ライブの経験は、必ずつぎの収録に活かされてますね。

めろちん僕もイイダと同じようにDJをしていることもあって、観客を煽りたい、盛り上げたいっていう気持ちが強いんです。ヒメは、ラップ中は自由に動き回っていることが多いんですが、その最中はイイダが手拍子で煽っているっていうのは、こだわりのポイントだったりします。

――ヒメは座り込んで観客を見つめたりして、芸が細かいですよね。

『スプラトゥーン』シオカラーズ、テンタクルズライブ振り付けの裏側。振り付け・めろちん&演出・橋口雄樹インタビュー_08
観客の前に腰を下ろし、視線を送るヒメ。

橋口緩急がついていて、カッコいいですよね。

めろちんヒメは動画で映っていないところでも、けっこう細かいことをしているんですよ。

橋口収録を見ているとおもしろいですよ。急に座り込んだりして、「めろちん疲れたのかな?」って思ったりもしました(笑)。あと、テンタライブでは、ライブ感をより強めるためにバンドの演奏からスタートさせたんです。

――バンドの演奏もすごく盛り上がりましたね。

橋口先ほども言いましたが、シオカライブのころからゲームのバトルBGMもライブに入れ込みたいと打診していたんです。ライブを重ねていく中で、そろそろ違った刺激を与えたいということで改めてバンド演奏の提案をしたら、任天堂さんからも「やりましょう」という話になって。だから、ハイカライブはフェス仕様のスタートだったのが、テンタライブはふつうのハイカラニュースから始めたんです。

――ハイカラスクエアから移動しているあいだに、バンドが盛り上げるっていう演出もおもしろかったです。

橋口バンドが演奏するナンバーは、任天堂の峰岸さん(峰岸透氏。『スプラトゥーン』シリーズのサウンドディレクター)といっしょに考えました。峰岸さんがピックアップしてくれた曲と僕の想定がほぼ同じで、そこはよかったんですが、曲数と分数をどうするかすごく悩みましたね。長すぎてもダレてしまうので……。最終的に少しずつ流すメドレー形式にする、という形に落ち着き、絶妙な長さに収めることができました。峰岸さんと「バッチリでしたね」って自画自賛していました(笑)。

――本当に最高でした! バンドのステージBGMだけでもライブが成立しそうですよね。

橋口今年からバンド紹介も入れられるようになり、テンタクルズとバンドがひとつのチームとしてステージに立っている雰囲気が出せてよかったです。

――一方で、ファンがライブに期待するハードルがどんどん上がっている気がします。

めろちんその点は、いつもみんなで話してますね。

橋口正直、2019年で完成した感はありますが、もしつぎがあっても超えるんでしょうね。

めろちん余裕ですよ!

橋口つぎもサクッと超えていけるよね。このチームなら。

編注:このインタビュー(2019年6月に実施)の後、京都・国立京都国際会館にて、2019年10月13、14日に開催される“Nintendo Live 2019”内で、“ハイカライブ KYOTO MIX”が行われることが発表された。詳細は下記の記事にて。

――心強い! でも、毎回新たなことに挑戦するのは大変そうですね。

橋口大丈夫です。天才のめろちんがいるんで。

めろちん何その上げかた(笑)。

『スプラトゥーン』シオカラーズ、テンタクルズライブ振り付けの裏側。振り付け・めろちん&演出・橋口雄樹インタビュー_09

橋口いや、本当に信頼しています。とくにめろちんと大山さん。そこに、任天堂さんの魂が入れば最強です!

――大山さんもおっしゃっていましたが、皆さんお互いの信頼感が強いですね。

橋口最初のシオカライブのときから、僕と大山さんで考えたライブアレンジを任天堂さんも信頼してくださっていましたし、ハイカライブ以降は、峰岸さんもエンジンがかかってきて、大山さんといっしょに曲構成を考えてくださるようになって。それからは、僕はほとんど音楽のディレクションはやっていないんです。もちろん、方向性の話し合いなどはしますが、大枠が決まったら、ほとんど峰岸さんと大山さんだけで完結していました。

めろちん振り付けに関しては、シオカライブのときは修正が多くて、ちょっとたいへんでした。でも、回数を重ねるに連れてほとんど修正はなくなっていきましたし、お互いの魂が近づいてきたという実感があります。

――まさに阿吽の呼吸になっていたと。

橋口全員が“こうすれば、こう応える”という信頼関係を持ったうえで、それぞれが高いクオリティーのパフォーマンスを出せているからこそです。

――皆さん持っている“『スプラトゥーン』愛”の強さゆえというところもありそうですね。

橋口そうですね。そもそも、僕とめろちんが『スプラトゥーン』の大ファンですから。

めろちんスプラトゥーン2』の発売日は僕の誕生日と同じなんです。これって、運命と言うしかないですよね!

橋口1週間ずれてたら僕の誕生日だったんだけどなー(笑)。

観客の反応が入って完成するライブ

――そもそも『スプラトゥーン』に興味を持ったきっかけは何だったんですか?

めろちん僕が遊び始めたのは、リリースから半年後くらいで、けっこう遅かったですね。食わず嫌いなところがあって、発売直後はやっていなかったんですが、友だちに誘われて遊んでみたらハマっちゃいました。

橋口僕は、発売日からガッツリです。E3で『スプラトゥーン』が発表されたときからのひと目惚れで、Wii Uごと買って遊んでましたね。

――おふたりの好きなブキは?

橋口僕はスパッタリーですね。最近はスパッタリークリアを使うことが多くなりました。ルールによって種類は変えるんですけど、基本的にはスパッタリー系しか使わないです。ほかのブキを練習すると、勝てなくなっちゃうんですよ。たまに練習してみるんですけど、勝てなくてウデマエが落ちるからけっきょくスパッタリーに戻る、っていうのをくり返してます。

めろちん僕は、スプラマニューバーベッチューですね。

――ふたりともマニューバーなんですね。

橋口『スプラトゥーン』のときはスプラシューターコラボじゃなかったっけ?

めろちんバケットスロッシャーが多かったかな。奥に行って、ひたすら蹂躙してました。

――おふたりが好きなルールは?

めろちんガチエリアとガチヤグラが好きですね。ガチアサリは苦手です。

橋口僕はガチアサリがいちばん成績がいいです。

――ちなみに、最高のウデマエは?

めろちんガチエリアがウデマエXですね。

橋口僕は、S+なんですよ。めろちんもそうですけど、まわりのドワンゴ社員もXが増えてきたので、時間を作って本気でXを目指そうかなって思ってます!

――そして最後になりますが、2019年7月24日には、テンタライブのライブCDが発売されますね。初回限定盤には、ヒメとイイダの振り付けが全部観られる“振り付けVer.”も収録されています。

めろちんこれが本当にうれしい! 動画では映っていないところまでこだわって振り付けをしているので、ぜひ細かいところまで見てほしいですね。

橋口今日お話した内容を思い出しながら、映像を観ていただけると、もっと楽しいと思います。

めろちんやっぱりカメラだともどかしいところはあるんです。「ここを映してしてほしかった」っていうときもありますので、今後機会があるのかわかりませんが、ぜひ生で観てほしいです。ライブでは、歌やボイスを担当されていたアーティストの方々もいらっしゃっていて、同じ関係者のところで観るのがエモかったですね!

橋口関係者の方々、みんなでいっしょに観ていて、みんなで子どもを見守るような感覚ですね。

――感動して涙を流している方も多かったですね。

めろちんパフォーマンスもそうですけど、お客さんの反応を見て感動しちゃうことが多いんです。

橋口観客の反応が入って初めてライブが完成するんだって実感します。リハーサルで何回もステージを観ていますが、お客さんが沸いているあの瞬間がやっぱりたまらないですね!

めろちんダンス振り付けピックアップ

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『スプラトゥーン』シオカラーズ、テンタクルズライブ振り付けの裏側。振り付け・めろちん&演出・橋口雄樹インタビュー_12
ゲーム内でも頻繁に目にする、シオカラーズがニュースを締めくくるときのポーズ。『キミ色に染めて』を始めとする、多くの曲でアクセントに使われている。
『スプラトゥーン』シオカラーズ、テンタクルズライブ振り付けの裏側。振り付け・めろちん&演出・橋口雄樹インタビュー_13
こちらも『シオカラ節』のサビの振りのひとつ。『シオカラ節』では、肘を前に出していたところが『濃口シオカラ節』では、肘を横に開いて二の腕を持つようになった。