●アンコールはサプライズだらけ!
そして、第2部は『ゼルダの伝説30周年シンフォニー』でスタート。これは、歴代『ゼルダ』の中から『リンクの冒険』、『大地の汽笛』、『ムジュラの仮面』、『夢を見る島』、『神々のトライフォース』(裏の地上)と、あまりオーケストラアレンジされていない曲のメドレーになっており、プレイした人にはなじみ深いBGMでありながら、新鮮なアレンジになっている曲だった。続いての『ゼルダの伝説小品組曲』は、フィールドやバトルの曲以外にも、いろいろとある『ゼルダ』の曲をメドレー化したもので、たとえば『ゼルダの伝説』でワープに使う笛(『スーパーマリオブラザーズ3』でもおなじみ)に始まり、『神々のトライフォース』の森、神殿、『時のオカリナ』の家の中、ミニゲーム、『ムジュラの仮面』のミルクバーなどの楽曲が、オーケストラで楽しめた。


『ゲルドの谷』に続いて登場したのは、『ゼルダの伝説』シリーズで楽曲を担当した近藤浩治氏。「オーケストラがすばらしく、私の曲に魂を入れていただいたようで、非常にうれしいです」とコンサートへの想いを語った近藤氏は、30周年という長い年月が経ったことを「30年も経ったのかと、月日が流れるのは早いなと感じるお話がふたつあって。個人的な話ですが、ひとつが住宅ローンが払い終わったこと(笑)。住宅ローンというと、非常に長いイメージがありますから。そして、もうひとつが、来月に長女が結婚するということ。そういう年になったんだなと」と、独特の感想で語ると、場内から大きな拍手でお祝いされていた。また、30年前の制作秘話については、「いろいろなところでお話をしたように、音楽もいろいろ苦労したんですが、そのころは効果音も自分で作っていて、そも苦労しました。たとえば、謎解きの正解音は非常に短いのですが、あれだけ短い音でそれを表現するのは、ほかのBGM1曲と同じくらいの労力がかかっているんですね。ほかにも、剣で刺した音など、ゲーム内で手応えのある音にするのが苦労するんです」と、曲の長さに関わらず生みの苦しみがあることを語った。

近藤氏が登壇されたまま演奏されたのは、『「時のオカリナ」ハイラル平原』。『時のオカリナ』のハイラル平原と言うと、雄大な曲のように思えるが、じつは同じメロディーが流れつつも、敵が近づくと曲が早くなったり、立ち止まると静かな曲調になったりと、場面に合わせてインタラクティブに変化する曲になっていたのはご存じだろうか。今回のコンサートでは、そのインタラクティブな曲調を生演奏で再現しようと、お客さんに聞きたい曲調をリアルタイムで選んでもらい、それを近藤氏が受けて、指揮者の竹本泰蔵氏に伝えて、演奏をすぐさま変化させる試みが行われた。なお、曲調は静かな曲、戦闘の激しい曲、通常時の雄大な曲の3種類があり、お客さんが入り口でもらったプログラムの表面(白)=静かな曲、裏面(緑)=戦闘曲、どちらでもない(プログラムを上げない)=通常時の曲の3種類で聞きたい曲調を意思表示し、その数の多さで判断するという。じつは、これは25周年コンサートでも行われた曲で、その際は、近藤氏がお客さんに意思表示してもらう際に、リンクのようにマスターソードを掲げていたのだが、「(マスターソードが)ガノンに取られたのか会社になかった(苦笑)」(近藤氏)とのことで、今回は風のタクトを振ることに。実際の演奏は、非常にスムーズに通常時から戦闘、そして静かなものへと変わっていったが、会場の意見が割れて、近藤氏が若干戸惑うような場面も。


『トワイライトプリンセスメドレー』の後には、宮本茂氏とともに、『ゼルダの伝説』シリーズの初期作を手掛けた手塚卓志氏が登壇。手塚氏は、30年前の思い出として、「初期のファミコンのゲームって制約が多いんですよ」と言いつつ、初公開となる当時の資料を公開。これは、宮本氏、手塚氏とともに開発をしていた、プログラマーの中郷氏が保管していたものだという(宮本氏、手塚氏、中郷氏による、初代『ゼルダの伝説』のお話は、任天堂公式ホームページの“社長が訊く『ゼルダの伝説 大地の汽笛』に詳細が載っているので、合わせてご覧いただきたい。記事は→コチラ)。
ちなみに手塚氏は、初代『ゼルダの伝説』でダンジョンマップを担当したのだが、何を勘違いしたのか本来使える容量の半分だけでダンジョンを作ったのだという。しかし、宮本氏は「それでも十分におもしろいから、もう半分を使って別のことをしよう」と話をして、そこから“裏ゼルダ”(ダンジョンの仕掛けが変わった、高難度モード)が生まれたのだという。
また、手塚氏、宮本氏は、これからの『ゼルダ』に期待することについてトーク。「最初の10年は『ゼルダ』を担当していたんですが、最近は青沼さんにお任せしていて。世界を探検することがすごく楽しくて、『ゼルダ』を作ったので、そういうことが忘れられないような世界をいっぱい作ってほしいし、『マリオ』と違ってお話が重要になりますので、みんなをワクワクさせるお話がどんどん盛り込まれていくのを楽しみにしています」(手塚氏)、「いま、『スカイウォードソード』の後に作っていた『ブレス オブ ザ ワイルド』がほぼできてきています。これが原点に返った、ひとりで試行錯誤しながらずっと遊び続ける、自分で工夫する遊びですので、これからもこういうものを『ゼルダ』の基本として作っていきたいです」(宮本氏)と話した後、宮本氏の話題は先日発表された“ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ”(記事は→コチラ)に。「最近発表した、ニンテンドークラシックミニ ファミコンに『ゼルダの伝説』や『リンクの冒険』が入っていて、途中セーブもできるので、ぜひこれで遊んでみてください。11月10日発売です(笑)」とアピールしていた。
本編最後は、『ゼルダの伝説メインテーマ』。おなじみの曲を、さらに荘厳なアレンジにした曲が披露された後、アンコールへ。アンコールでは、近藤浩治氏が再び登壇。アンコール1曲目の演奏終了後には、近藤氏から「今日の曲は、私ひとりではなく、『ゼルダ』の音楽スタッフ10人くらいで作っています。30年に渡って、そのスタッフと私で作ってきて、作曲作業はひとりでやりますが、ほかの世界を作るグラフィックや、個性豊かなキャラクターのデザイン、楽しいゲームを作ってくれるプランナーがいたからこそ、こういうジャンルに富んだバラエティーのある曲が作れたと思います。そういうスタッフと、これからもすばらしい『ゼルダ』を作っていきたいと思います」と感謝の言葉が語られると、会場中から大きな大きな拍手が贈られた。
そして、本公演最後の曲を終え、本日の登壇者が全員壇上に上がると、再び会場全体からの大きな拍手が贈られ、コンサートは幕を閉じた。
冒頭にも書いた通り、今回の『ゼルダ』のコンサートは、これまでに2011年の『ゼルダ』25周年コンサート、2015年の『ムジュラの仮面 3D』に合わせてのコンサートを受けつつ、さらに新しいものを入れた30周年にふさわしい内容になっていた。おなじみの『時のオカリナ』や『風のタクト』に留まらず、『リンクの冒険』や『夢を見る島』、『夢幻の砂時計』、『大地の汽笛』といった、これまでのコンサートではあまり演奏されなかったものや、携帯機向けのシリーズの楽曲も散りばめ、そして、2017年に発売予定の新作の曲で締めるという、まさに音楽で語る『ゼルダ』の歴史といった、非常に充実した構成だったように感じる。一部公演はすでにチケットが売り切れているが、先日決定した追加公演のチケットはまだ買える様子。もし、本記事を読んで興味を持った方は、ぜひ生の演奏で聴いていただきたい!