【セブンイレブンとDX・失敗の本質】(09) セブンDX受注ベンダー“人月単価”ランキング
『セブン&アイホールディングス』のDXバブルにITベンダーは群がった。内部資料を基に、各ベンダーの1人当たり月単価と、出向社員が出向元に発注していた実態を明らかにする。

セブン&アイのDXバブルを巡って、取引先のITベンダーやコンサルティング会社は激しい受注合戦を繰り広げた。どのベンダーがバブルの恩恵を享受したのかについては、セブン&アイの内部資料のリストを基に作成したランキング(※詳細は前回)で触れた通りだ。上位3社で200億円超をセブン&アイから引き出している。但し、リストはあくまで総額だ。実は、その総額を“何人で稼ぎ出したのか”という効率は、ベンダー各社によって異なる。つまり、“1人当たりいくらで受注していたのか”・“何人が関わったのか”には大きな差がある。それでは、セブン&アイから好条件で案件を受注し、最も効率的に稼ぎ出したベンダーはどこなのだろうか。通常、ITベンダーは案件を受注すると業務委託契約等を結び、社員を受注先に常駐・派遣させ、そのプロジェクトを進める。従って、受注額はプロジェクトの難易度や期間、人員数といった所謂工数等の要因で大きく変動することになる。本誌編集部が入手した内部資料には、セブン&アイに常駐するパートナー数に加え、社員相当のパートナーの1人当たり月単価の実額がベンダーの実名と併せて記されていた。今回はそのリストを基に、ベンダー別の常駐者数と1人当たり月単価のランキングを作成した。左画像で紹介しているのが、企業の実名と実額が入ったランキングである。先ずは、社員相当のパートナーの1人当たり月単価のランキングから見ていこう。月単価が352万3000円でトップとなったのは『アクセンチュア』だった。アクセンチュアはベンダー受注額ランキングでもトップだった。プロジェクトによっても異なるので一概には言えないが、セブン&アイはアクセンチュアの人員を最も“高価”だと判断していることになる。
2位は『PwC』の324万7000円だった。この上位2社が突出して月単価が高い。3位の『NEC』は205万3000円で、2社に大きく水をあけられた。4位にランクインしたのが『日鉄ソリューションズ』で182万4000円だった。同社は、セブン&アイのDX戦略を主導してきた元執行役員の米谷修氏の『リクルート』時代からの“お気に入り”ベンダーでもある。セブン&アイグループと長く蜜月関係を築いてきた親密ベンダー『野村総合研究所』は178万5000円で5位だった。『セブンイレブン』等の大型案件も手掛ける『NTTデータ』は6位で、178万円だった。次に人員数を見ていこう。常駐者が最も多かったのはNTTデータで221人だった。月単価が最も高かったアクセンチュアが103人で2位に食い込んだ。3位は日鉄ソリューションズの74人で、4位は野村総研の67人だった。月単価で2位に入ったPwCは、常駐者数のランキングでは5位(※60人)だった。常駐者数は昨年2月時点のものだ。その時点では常駐者数は計780人にも上った。うち3割近くをトップのNTTデータが占めた格好だ。内部資料によると、常駐パートナーと社員相当パートナーの定義は異なるという。しかし、常駐者数と月単価を単純に掛け合わせてみると、ベンダーの“稼ぐ力”の凄まじさが浮かび上がってくる。例えば、月単価のランキングでトップだったアクセンチュアは1ヵ月当たり約3億6000万円、常駐者数トップのNTTデータは同約3億9000万円を稼ぎ出していたことになる。勿論、データの時点が異なる為、これはあくまでも参考値だ。このリストが記された内部資料は、「突出して単価の高いベンダーへの委託内容について、より精査が必要」と指摘している。実際、BtoBの発注比較サービス『アイミツ』を運営する『ユニラボ』によれば、大手企業のプログラマーの人月単価の相場は50万~100万円で、上級システムエンジニアでも100万~160万円だ。“DX戦略本部内の統制”――。ベンダーの月単価や人員数に関連し、内部資料にはそう題したA4サイズのペーパーも存在する。それは、ベンダーからの出向社員による出向元への発注金額を部門別に示したものだ。例えば、グループDX戦略本部にはPwCから出向してきた2人が所属し、そのPwCに対して5億7000万円を支払っている。金額が大きいのが、IT統括部・GMSシステムという部門で、アクセンチュアから1人の社員を受け入れており、アクセンチュアに対して60億1600万円を支払っていた。他にもITインフラ部では、1人を出向で受け入れているNTTデータに26億5700万円を支払っていた。驚くべきはその総額だ。計10部門の31人で支払額を合計すると、127億5000万円にも上るのだ。同じペーパーには、直近の稟議の数と、RFPと呼ばれる、ITベンダーに対するシステムの導入や業務委託を提案・依頼する際の提案依頼書の実施の状況が記されている。内部資料の作成時点ではRFPの実施は任意だったとされ、610件の稟議数のうちRFPが実施されたのは、僅か18件程度にとどまる。実施率は僅か3%程度だ。これが意味するのは、出向してきた社員が、自分の出向元のベンダーにRFPのプロセスを経ずに案件を発注できてしまうということだ。「コンプライアンス上のリスクが懸念される」。内部資料はそう警鐘を鳴らしている。こうした資料が示すのは、ITベンダーにとって、DX大号令のセブン&アイが“上客”だったということだ。
2022年2月12日号掲載
セブン&アイのDXバブルを巡って、取引先のITベンダーやコンサルティング会社は激しい受注合戦を繰り広げた。どのベンダーがバブルの恩恵を享受したのかについては、セブン&アイの内部資料のリストを基に作成したランキング(※詳細は前回)で触れた通りだ。上位3社で200億円超をセブン&アイから引き出している。但し、リストはあくまで総額だ。実は、その総額を“何人で稼ぎ出したのか”という効率は、ベンダー各社によって異なる。つまり、“1人当たりいくらで受注していたのか”・“何人が関わったのか”には大きな差がある。それでは、セブン&アイから好条件で案件を受注し、最も効率的に稼ぎ出したベンダーはどこなのだろうか。通常、ITベンダーは案件を受注すると業務委託契約等を結び、社員を受注先に常駐・派遣させ、そのプロジェクトを進める。従って、受注額はプロジェクトの難易度や期間、人員数といった所謂工数等の要因で大きく変動することになる。本誌編集部が入手した内部資料には、セブン&アイに常駐するパートナー数に加え、社員相当のパートナーの1人当たり月単価の実額がベンダーの実名と併せて記されていた。今回はそのリストを基に、ベンダー別の常駐者数と1人当たり月単価のランキングを作成した。左画像で紹介しているのが、企業の実名と実額が入ったランキングである。先ずは、社員相当のパートナーの1人当たり月単価のランキングから見ていこう。月単価が352万3000円でトップとなったのは『アクセンチュア』だった。アクセンチュアはベンダー受注額ランキングでもトップだった。プロジェクトによっても異なるので一概には言えないが、セブン&アイはアクセンチュアの人員を最も“高価”だと判断していることになる。
2位は『PwC』の324万7000円だった。この上位2社が突出して月単価が高い。3位の『NEC』は205万3000円で、2社に大きく水をあけられた。4位にランクインしたのが『日鉄ソリューションズ』で182万4000円だった。同社は、セブン&アイのDX戦略を主導してきた元執行役員の米谷修氏の『リクルート』時代からの“お気に入り”ベンダーでもある。セブン&アイグループと長く蜜月関係を築いてきた親密ベンダー『野村総合研究所』は178万5000円で5位だった。『セブンイレブン』等の大型案件も手掛ける『NTTデータ』は6位で、178万円だった。次に人員数を見ていこう。常駐者が最も多かったのはNTTデータで221人だった。月単価が最も高かったアクセンチュアが103人で2位に食い込んだ。3位は日鉄ソリューションズの74人で、4位は野村総研の67人だった。月単価で2位に入ったPwCは、常駐者数のランキングでは5位(※60人)だった。常駐者数は昨年2月時点のものだ。その時点では常駐者数は計780人にも上った。うち3割近くをトップのNTTデータが占めた格好だ。内部資料によると、常駐パートナーと社員相当パートナーの定義は異なるという。しかし、常駐者数と月単価を単純に掛け合わせてみると、ベンダーの“稼ぐ力”の凄まじさが浮かび上がってくる。例えば、月単価のランキングでトップだったアクセンチュアは1ヵ月当たり約3億6000万円、常駐者数トップのNTTデータは同約3億9000万円を稼ぎ出していたことになる。勿論、データの時点が異なる為、これはあくまでも参考値だ。このリストが記された内部資料は、「突出して単価の高いベンダーへの委託内容について、より精査が必要」と指摘している。実際、BtoBの発注比較サービス『アイミツ』を運営する『ユニラボ』によれば、大手企業のプログラマーの人月単価の相場は50万~100万円で、上級システムエンジニアでも100万~160万円だ。“DX戦略本部内の統制”――。ベンダーの月単価や人員数に関連し、内部資料にはそう題したA4サイズのペーパーも存在する。それは、ベンダーからの出向社員による出向元への発注金額を部門別に示したものだ。例えば、グループDX戦略本部にはPwCから出向してきた2人が所属し、そのPwCに対して5億7000万円を支払っている。金額が大きいのが、IT統括部・GMSシステムという部門で、アクセンチュアから1人の社員を受け入れており、アクセンチュアに対して60億1600万円を支払っていた。他にもITインフラ部では、1人を出向で受け入れているNTTデータに26億5700万円を支払っていた。驚くべきはその総額だ。計10部門の31人で支払額を合計すると、127億5000万円にも上るのだ。同じペーパーには、直近の稟議の数と、RFPと呼ばれる、ITベンダーに対するシステムの導入や業務委託を提案・依頼する際の提案依頼書の実施の状況が記されている。内部資料の作成時点ではRFPの実施は任意だったとされ、610件の稟議数のうちRFPが実施されたのは、僅か18件程度にとどまる。実施率は僅か3%程度だ。これが意味するのは、出向してきた社員が、自分の出向元のベンダーにRFPのプロセスを経ずに案件を発注できてしまうということだ。「コンプライアンス上のリスクが懸念される」。内部資料はそう警鐘を鳴らしている。こうした資料が示すのは、ITベンダーにとって、DX大号令のセブン&アイが“上客”だったということだ。
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