親が不動産を所有している場合、相続が発生したときに考えなければいけないことが「誰が相続するか」です。
1人に決めることが難しい場合、2人以上の名義で登記することは可能ですが、兄弟姉妹で1つの不動産を共有するとどうなるでしょうか?「仲が良いから揉めることはない」と思っていても、後日トラブルを招く可能性があるのです。
そこで今回は、兄弟で不動産を共有するメリットとデメリットと、すでに不動産を共有している場合の解消方法などをあわせてご紹介します。
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■兄弟で「不動産を共有する」とは?
「不動産の共有」は、名義となっている人全員に所有権がある一方、お互いを制限している状態となります。また共有名義にする際には、共有持分を決める必要があります。
共有持分とは、1つの不動産を2人以上で所有している際に、それぞれが持っている所有権の割合のことです。
例えば、兄と弟で不動産を共有する際、兄の共有持分が2分の1・弟が2分の1だとしたら、半分ずつの権利を持つことになります。この「2分の1」とは、「建物の西側が兄のもの、東側が弟のもの」という物理的な考えではありません。あくまでも概念的なことになります。
■兄弟で不動産を共有するケースとは
兄弟で不動産を共有するケースとは、どのような状況があるでしょうか?
ここでは親からの相続をはじめ、他にも考えられるパターンをご紹介します。
・親からの相続
親名義の不動産を兄弟で相続することで、共有名義になるケースがあります。
遺言や遺産分割協議により、相続人を1人に決めると単有になりますが、兄弟2人以上で相続登記をすると共有状態となります。
また協議中で相続登記が済んでいない間は「潜在的共有状態」となり、法定相続人全員が共有しているものとみなされます。
・兄弟で住宅を購入
兄弟で一緒に住む家を購入するケースです。
夫婦で暮らす住宅購入とは異なり、ペアローンが組みにくい可能性がありますが、現金での購入や、一人が現金で頭金を支払いもう一人がローンを組むという方法を取れば不可能ではありません。
・兄弟で投資用物件を購入
マンションなどの投資用物件を購入し、兄弟で経営するケースです。
■兄弟で不動産を共有するメリットとデメリット
次に、兄弟で不動産を共有するメリットとデメリットについてご紹介します。
・メリットはない
夫婦であれば共有名義にすることで住宅ローン控除を2人分使える、というメリットはありますが、兄弟で不動産を共有するメリットは特にありません。
・デメリットは8つもある!
メリットがないのに対し、デメリットは色々あります。ここでは主な8つをご紹介します。
1.独断で売却できない
不動産すべてを売却するためには、共有者全員の合意が必要になります。
そのため兄が「売りたい」と思っても、弟が「売りたくない」と反対すれば、売却することができません。売却だけでなく、改築や大規模な修繕など、不動産の形を変えること(変更行為)や、処分行為は共有者全員の合意が必要です。
また抵当権設定も「処分行為」にあたるため、銀行からお金を借りる際に「持っている不動産を担保にしたい」と思ったとしても、独断で行うことはできません。
2.借主との契約を自由に変更できない
投資用物件の場合、借主との契約やその変更も、共有者全員で行う必要があります。
たとえ兄が1人でマンションを運営・管理していて弟がまったく関わっていなかったとしても、名義に弟が記載されていれば、弟の同意なしに変更することができません。
3.管理負担が偏るリスクがある
例えば、空き家の不動産を共有している場合、空き家管理には草取りや掃除など様々な手間がかかります。兄弟で平等に管理できる状態であればいいですが、実際には近くに住んでいる兄弟の方が多くの負担がかかり、不満が生じることがあります。
4.費用負担が偏るリスクがある
不動産を所有していると、固定資産税や管理費・修繕費などあらゆる費用がかかります。固定資産税などは共有者のうち1人に納付書が送られてくるため、受け取った人が全額支払い、持分に応じて他の共有者に求償する流れになります。
このとき兄弟からスムーズに徴収できれば問題になりませんが、支払いが滞ったり減額を要求されたりすれば、支払った兄弟の費用負担が増えることになります。
5.責任の所在がわからなくなるから
賃料収入を得られる投資用不動産を共有した場合、賃料や必要経費などの分配についてトラブルになることがあります。また借主と争いが起きたときや赤字になってしまったときなど、共有状態にしていると誰が責任を負うのかが不明確なため、責任の押し付け合いになってしまうこともあり得ないことではありません。
6.立ち退きを要求できない
少しでも共有持分を持っていれば「使用する権利」があります。
例えば、兄と弟で共有している不動産を兄が占有し、弟が使用できない状況であったとしても、無理やり立ち退きを要求することはできません。
裁判によって持分に応じた金銭請求をすることや、悪質な場合であれば明渡請求をすることは不可能ではありませんが、裁判を起こす労力などがかかってしまいます。
7.上記などのトラブルから兄弟仲が険悪に
上述したような問題によって、不動産共有前は良かった兄弟仲に亀裂が入る可能性があります。反対に、不動産のこととは別のことで兄弟仲が悪くなった場合、不動産管理にも影響が出る場合があります。
8.自分の子孫に影響を与える可能性がある
兄弟で共有名義にしていて問題がなかったとしても、自分や兄弟の死亡で相続が発生したときに自分の子供や兄弟の子供に迷惑をかけてしまう可能性があります。
相続を重ねるごとに共有者が増えていき、まったく知らない人同士で1つの不動産を所有しているという状態になることも考えられ、そうなると不動産を扱いづらくなったり共有者同士で揉め事が起こったりもします。
■相続によって共有状態となりそうな場合の回避方法
すでに「兄弟で不動産を共有するケース」をご紹介しましたが、誰にでも起こり得る「親からの相続」を回避するためにはどうしたらいいでしょうか?その方法をご紹介します。
遺産分割協議をする
遺産分割協議とは、相続が発生したときに相続人全員で遺産の分け方について話し合うことです。話し合いの中で、「不動産を相続する人は誰にするか」または「不動産自体を手放すか」などと決めます。不動産の分割方法は3パターンあるため、ご紹介します。
1.現物分割
相続した財産の形や性質を変えることなく、そのまま各相続人に分配する方法です。例えば、「兄には不動産、弟には預貯金」という分割や、土地を分筆して自分の持分を相手に譲る(交換)ことで、それぞれ単有の土地とする方法などがあります。
2.価格賠償
相続人を1人選び、その人が相続した代償として、他の兄弟にお金を支払う方法です。相続した財産が不動産しかない場合に行うことが多いケースです。遺産分割協議書に「代償分割により財産を支払う」という旨を記載しないと、贈与税がかかる可能性があるため注意が必要です。
3.換価分割
不動産を含む財産のすべてをお金に変えて、各相続人にお金で分配する方法です。
不動産を売却するためには死者名義では売れないため、相続登記をする必要があります。このとき、相続人2人以上の名義で登記をすると共有状態となり、売却時に共有者全員の合意や立ち会いが必要となります。代表者1人を選ぶようにしましょう。
また、「換価分割のための相続」であることを対外的(役所など)にわかるようにしておかなければ、贈与税課税を求められてしまう場合があります。課税リスクを回避するためにも、遺産分割協議書に「換価分割をするため」という旨を記載しておきましょう。
このように、遺産分割協議でどのような分割方法にするか決めることができます。しかし、遺産分割協議での決定には「相続人全員が同意した」という証拠が必要であり、相続人全員の実印が押された「遺産分割協議書」と、全員分の印鑑証明書が必要となります。
つまり、誰か1人でも反対の状態であれば成立することができません。
相続放棄をする
相続放棄とは、被相続人(亡くなった方)の財産または負債などすべてを承継せず、相続人である地位を放棄することです。
相続放棄をすると、はじめから相続人ではなかったことになるため、遺産分割協議に参加できず相続する予定であった財産などは他の相続人で分配することになります。
つまり、不動産の共有状態を避けることはできますが、他の遺産を受け取ることもできなくなるということです。
また、相続放棄をするためには「放棄します」と発言するだけでは成立せず、家庭裁判所に申述する必要があります。さらに期間も定められており、被相続人の死亡を知ったときから「3ヶ月以内」となっています。
相続前に遺言書を作成してもらう
兄弟間で協議することが難しいと想定される場合、相続が発生する前に親などに遺言書を作成しておいてもらうことも一つの方法です。
遺言書をもとに手続きをするためには、「有効な遺言書」が必要です。自分で書いたものは法的有効性をクリアしていない場合があるため、公証人が内容を確認して公証役場に保管をする「公正証書遺言」がおすすめです。遺言のいいところは、「遺産分割協議が不要になる」という点で、話し合いの必要がなくなるのが大きなメリットです。
相続人が決まったら登記をする
遺産分割協議や遺言書で不動産の相続人を誰にするか決まったら、必ず所有権移転登記(相続登記)をしましょう。そのままにしておくと潜在的共有状態が解消されず、法定相続人全員が所有していることになってしまいます。相続登記をすれば、はじめから登記をした人の単有とみなされます。
■兄弟で不動産を共有している場合の解消法
すでに兄弟で不動産を共有している場合、どのようにしたら解消できるのでしょうか?ご紹介します。
・分筆(土地の場合)
土地の場合、分筆によって分割する方法があります。
例えば、相続人が兄と弟だった場合、土地を2つの登記簿になるよう物理的に分けます。この状態ではまだ、2つの土地が兄と弟の共有状態となっているため、お互いの持分をそれぞれ譲り合うことで単有の状態にすることができます。
・交換(不動産が2つ以上ある場合)
兄弟で複数の不動産を共有している場合、交換することも可能です。
「固定資産の交換の特例」を使うことができ、本来であれば発生する譲渡税が免除されるというメリットがあります。
・不動産を全員で売却
不動産を売却し、売却益を兄弟で分配することで共有状態を解消できます。
ただし、上述した通り共有者全員の同意が必要です。さらに、売却時には印鑑証明書や本人の面会などもあるため、全員が手続きに協力してくれることが前提となります。
・贈与してもらう
他の兄弟が「贈与してもいい」と言っているのであれば共有持分をもらい、単有にすることができます。しかし、この場合贈与税がかかるため注意が必要です。
・持分を買い取る(または売却)
自分に資力がある場合、他の兄弟の持分を買い取ることで共有状態を解消できます。
また不動産を手放してもいいのであれば、他の兄弟に自分の共有持分を売ることも一つの方法です。持分の売買金額は、相場を確認し、共有者同士の話し合いによって決めることができます。
・共有物分割訴訟
もし兄弟間で話し合いができない状態であったり、自分たちでは解決に導くことができなかったりする場合、共有物分割請求をすることができます。
調停によって解決しなければ、裁判所が客観的に分割の方法(現物分割、価格賠償、換価分割)やその内容などを決めます。
・業者に自分の持分を売却
不動産を売却するためには共有者全員の同意が必要ですが、自分の共有持分のみの売却であれば、他の共有者の同意が必要ありません。一般の人に売ることは難しいですが、専門業者であれば買い取ってくれることがあります。一度相談してみることもいいでしょう。
・兄弟で共有する不動産に困っている場合はプロに相談を
話し合いで解決しない場合、最終手段は裁判となってしまうでしょう。
しかし、兄弟で裁判沙汰になることは好ましくありませんよね。早期解決や兄弟仲が悪化しないためにも、こうした問題解決ではプロに頼るといいでしょう。
また、まだ共有名義にしていない場合、単有での登記をおすすめします。
共有名義にするときには「仲が良いから大丈夫」と思っていても、将来的に意見が食い違うこともあります。自分の子供や孫に影響を及ぼす可能性なども考慮して、検討してみてください。