不動産の共有持分を得た場合、何も手続きをしないと所有していることにはならないため、「共有持分移転登記」をする必要があります。しかし、不動産の登記に慣れている方は少ないでしょう。そのため、いざ登記をしようとしても何から手をつけていいのかわからなかったり、ミスをしてしまったりする可能性があります。
そこで今回は移転登記をスムーズに行えるように、その方法や費用、また単有の場合との違いなどについて説明します。
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■共有持分移転登記とは?
不動産の名義変更を行う際に「所有権移転登記」という言葉を聞くことがあると思います。そこで、まず「共有持分移転登記」と「所有権移転登記」の違いを説明します。
・共有持分移転登記とは?
不動産が1人の名義(単有)ではなく、2人以上の名義で登記されていることを「共有」といいます。そして共有持分とは、それぞれが持っている所有権の割合のことです。
共有持分移転登記とは、共有持分が他の人に移ったときに名義変更をする手続きのことです。移転登記をすることで登記簿に載っている共有者の名前などが変更されます。
・共有持分移転登記と所有権移転登記の違い
不動産の所有権が移るときは「所有権移転登記」を行います。
所有権が移る不動産が共有名義である場合は、所有権移転登記に加えて「共有持分移転登記」が必要になります。もとの不動産が単有であれば所有権移転登記を、共有であればさらに共有持分移転登記が必要になるといえます。
■共有持分移転登記が必要となるケース
共有持分移転登記をしなくてはいけないケースとはどのようなときでしょうか?ご紹介します。
①共有持分を相続したとき
被相続人が不動産を他の人と共有していた場合、その共有持分が相続の対象となります。法定相続人の中から誰か1人、共有持分を相続する人を決め、移転登記を行います。
もし法定相続人の中から1人に絞ることができないのであれば、2人以上で相続することも可能です。その場合、もともと分割されていた持分をさらに分割し、共有することになるでしょう。
もとが単有の不動産を相続したときは「所有権移転登記」
被相続人が単有(名義人が自分のみ)の不動産を所有しており、遺言や遺産分割協議などの結果、2人以上で相続することが決まった場合、不動産は単有から共有状態になります。しかし、もとの不動産が単独名義であれば、共有持分移転登記ではなく所有権移転登記のみとなるので注意が必要です。
②離婚による財産分与で共有持分を得たとき
離婚した場合、夫婦共有名義の不動産を財産分与として、どちらか一方の単有にするケースがあります。その際、共有持分移転登記を行う必要があります。住宅ローンが残っている場合は、勝手に持分移転をしてしまうと契約違反になることがあるため、登記の前に金融機関に相談しましょう。
財産分与とは?
離婚をする際には、原則として、夫婦が共同生活を送る中で形成した財産は公平に分配しなければいけません。つまり登記されている共有持分とは関係なく、法律的な考えによって「2分の1ずつ」とされています。どちらか一方が不動産を取得した場合、同等の価値ある財産を相手に分配する必要があります。
③共有持分の贈与を受けたとき
親から子へ、または夫婦間や兄弟間などで共有持分の贈与が発生したとき、共有持分移転登記が必要になります。贈与の場合、贈与税がかかることもあります。
④共有持分を売買したとき
共有持分を買い取ったときや、共有している相手の持分を買い取って単独名義にしたときなどに、共有持分移転登記が必要になります。
⑤共有持分を放棄したとき
共有持分を放棄したときにも、共有持分移転登記を行います。共有持分放棄は、他の共有者の合意なしに行うことができますが、移転登記の際に他の共有者の協力が必要になります。そのため、合意を得られなければスムーズに移行することができないかもしれません。
共有持分放棄とは?
民法第255条において「共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する」と、定められている通り、共有者持分権者は持分放棄をすることができ、その放棄した持分は自動的に他の共有者に移ることになります。
⑥共有物分割請求により代償分割が選択されたとき
共有者の中の誰かが「共有関係を解消したい」と考え共有物分割請求をし、裁判所で代償分割の判決をされたとき、共有持分移転登記が必要になります。
共有物分割請求とは?
共有関係解消のためには、まず共有者同士で話し合いを行いますが、誰か1人が話し合いに応じなかったり、解決に導くことができなかったりした場合、裁判所を通して決めることができます。
民法第256条において「各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし、五年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない」と、定められている通り、共有持分権者に法的に認められた権利です。裁判所は、現物分割・代償分割(価格賠償)・換価分割の中からいずれかの判決をくだします。
代償分割とは?
共有者の誰か1人がすべての持分を買い取り、他の共有者に代償金を支払う方法です。
単有にすることで、共有状態を解消することができます。
■移転登記を行うタイミングと登記しないデメリット
共有持分の移転登記は、どのようなタイミングで行ったらいいのでしょうか?
また、もし移転登記をしないとどのようになるのでしょうか?ご紹介します。
・移転登記を行うタイミング
売主は売買代金を受け取る代わりに、買主に所有権を渡す必要があります。
そのため、残金決済日に司法書士が立ち会い、売主に残金が支払われたことを確認後、移転登記に必要な書類を預かる、ということが一般的な流れとなります。
売主が移転登記手続きに協力しなければ、債務不履行責任を問われる可能性もあります。
・移転登記に期限はない
現段階では、移転登記に法律上の期限はありません。しかし「費用や手間がかかるから、登記は後回しにしておこう」とすると、あらゆるリスクやデメリットが生じてしまいます。
・移転登記をしないと起こり得るリスクやデメリット
移転登記をしないままにしておくと、どのようなことが起こるのでしょうか?
考えられる一例をご紹介します。
1.固定資産税の請求が前の共有者に届いてしまう
固定資産税は毎年1月1日に所有している人に納付義務があります。
そのため、移転登記のタイミング次第では、前の共有者に納付書が届くこともありますが、移転登記をしないままでいると毎年そのような状態になってしまいます。
2.権利を主張できない
移転登記をしないと所有権も移行しないため、管理や売却などをすることができません。また、その不動産がマンションなど賃料収入があるものだった場合、賃料を受け取ることができなかったとしても移転登記をしていなければ請求できません。
3.不動産を担保にできない
銀行などからお金を借りたい場合、名義変更しておかないと不動産を担保にすることができません。
4.相続の場合、新たな相続人が増える
相続により共有持分を得たが登記をせずに放置し年数が経つと、新たな相続人が増えてしまうことがあります。協議により相続人が決まったにも関わらず、再度話し合いをしなくてはいけなくなったり、「気づいたら自分以外の相続人が登記をしていた」ということが起こったりするかもしれません。
・移転登記は早めに行いましょう
共有持分の移転が決まったら、すぐに移転登記を行いましょう。
共有者が協力してくれないなどの問題が起きたときは、裁判を起こすことができます。
■共有持分移転登記の方法
共有であっても単有であっても、名義変更の方法はほぼ同じとなっています。
ここでは申請場所や必要書類をご紹介します。
・申請場所
名義変更をする不動産の管轄の法務局
・必要書類
必要書類は下記の通りです。
登記原因の事情によって異なる場合もあるので事前に確認しましょう。
-登記申請書
-住民票
-登記原因書類(売買契約書など)
-印鑑登録証明書
-固定資産評価証明書
など。
・手続きの流れ
次に手続きの流れをご紹介します。
1.書類を準備する
上述した必要書類を準備します。
相続の場合には戸籍謄本が必要になることもあるため、ケースに応じた書類を用意しましょう。登記申請書は法務局のホームページからダウンロードできます。
2.登録免許税を準備する
移転登記をするためには、手数料のような税金が必要になります。
「共有持分移転登記にかかる費用」で詳しく説明します。
3.法務局に提出
書類とお金を用意したら、法務局に提出します。
4.登記完了書類を受け取る
法務局で確認したあと、問題がなければ「登記識別情報通知書」が交付されます。
これで登記が完了したことになります。
■単有と比べて気を付けなければいけないこと
共有持分の移転登記の際に、単有とは異なる点があるので注意しましょう。
・申請書の「登記の目的」欄に注意
共有持分移転登記の場合、登記申請書の「登記の目的」欄の記載の仕方に注意が必要です。
単有の場合、「所有権移転」と記載すればいいのですが、共有の場合は誰からどれくらい移転したかを記載しなければいけません。
例えば、Aの持分をすべてBに移転した場合、「A持分全部移転登記」と記載します。Aの持分の一部をBに移転した場合は、「A持分一部移転登記」と記載します。
・共有者全員の印鑑登録証明書が必要
3人の共有持分権者から共有持分を買い取った場合、その3人の印鑑登録証明書が必要になります。誰か1人でも協力してくれない人がいると、登記を進めることができません。共有者が多いほど煩雑になるといえるでしょう。
■共有持分移転登記にかかる費用
移転登記をする際には、あらゆる費用や税金がかかります。詳しくご紹介します。
・登録免許税
登記にかかる手数料のような税金であり、登記申請の際に法務局に支払う必要があります。
金額は不動産の「固定資産税評価額」に「登録免許税率」を掛けて算出されます。共有持分移転登記の場合、持分割合も計算に含まれるため要注意です。
登録免許税率は下記の通りです。
-相続人による相続の場合:1000分の4
-贈与の場合:1000分の20(2%)
-遺贈の場合:1000分の20
-離婚による財産分与の場合:1000分の20
・必要書類の取得費用
住民票や印鑑証明書を取得するためには、費用がかかります。また相続の場合、戸籍謄本が必要になることもあります。
-住民票:300円程度
-印鑑登録証明書:300円程度
-固定資産税評価証明書:300円程度
-戸籍謄本:450円程度
取得費用は自治体によって異なる場合があるため、確認しましょう。
・不動産取得税
贈与や売買によって共有持分を得た場合、不動産所得税がかかります。
金額は、「固定資産税評価額」に「不動産取得税率」と持分割合を掛けたものとなります。不動産取得税率は下記の通りです。
-宅地の場合:1000分の15(軽減税率。令和3年3月31日まで)
-住宅用建物の場合:1000分の30
-住宅以外の土地や建物の場合:1000分の40
この費用は登記時に必要なわけではなく、共有持分取得した翌年に納付書が送られてくるため、そのタイミングで支払います。離婚時の財産分与や相続の場合、この費用はかかりません。
・司法書士への支払い
共有持分移転登記は自分で行うことも可能ですが、司法書士に依頼する人も少なくありません。費用は依頼先によって異なりますが、相場は1件3~8万円となっています。複数の共有持分移転を行う際には、件数分の費用が必要になる場合もあります。依頼前に金額を確認しておくといいでしょう。
■スムーズに登記を進めたい場合は、プロに相談しよう
移転登記の中で一番大きな費用はおそらく「登録免許税」ですが、固定資産税評価額によって変わってくるため、一概に「いくらかかる」という算出ができません。
プロに頼めば、シミュレーションをして計算してくれることもあるため、事前に相談してみるといいでしょう。また登記自体も自分で行うことは可能ですが、書類ミス等があるとやり直しになるため、かえって面倒な事態になることがあります。
スムーズに進めたいのであれば、プロに依頼することをおすすめします。