不動産の名義を変更する際には、「とりあえず名義変更したいから」などといった曖昧な理由では申請できず法律的な理由が必要となります。
また、その理由によっては発生する税金も変わってきます。そこで今回は、不動産登記申請に必要な「理由」とその際に発生する税金や、共有名義を単独名義に変更する方法についてご紹介します。
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■不動産の名義変更とは?
まずは不動産の名義変更について説明します。
・不動産の名義変更とは?
不動産の名義変更とは、登記簿に載っている名義人を変えることです。
「所有権移転登記」とも言い、不動産が誰の所有であるかを明確にします。登記とは不動産や債権などの権利関係を社会に公示する制度のため、法務局が管理している登記簿は誰でも閲覧することができます。
・名義変更をしないと所有権を主張できない
名義変更をしないと第三者に対して所有権を主張することができません。
使用する権利や管理をする権利がないため、不都合が生じたとしても請求や訴訟ができず不利益を被ることになるでしょう。また抵当権を設定できないため、ローンを組むこともできません。
■登記申請のときには「理由」が必要
平成17年の不動産登記法改正により、登記申請の際には明確な理由が必要になりました。曖昧な理由での登記申請ができなくなったと言えます。共有名義を単独名義にするときも、単独名義の所有権を移転するときにも「理由」が必要となります。
・「登記原因証明情報」の提出が必要
登記申請の際には、名義を変更する理由を証明するための「登記原因証明情報」という書類を提出しなくてはいけません。どのような書類を提出すればいいのかは、後ほど詳しく説明します。
・名義変更ができる理由
名義変更できる理由はいくつかありますが、大きく2つに分類されます。
1.法律行為
「法律行為」とは、当事者同士が契約によって行うものです。具体的には下記のことが挙げられます。
【売買】
売主が買主からお金を受け取る代わりに不動産を渡すことです。
法律的には契約書は必要ありませんが、契約書を交わして成立することが一般的です。
売買によって名義変更をするためには、「対価を受け取った」などの売買の経緯を「登記原因証明情報」に記載する必要があります。
【贈与】
贈与とは、金銭を受け取らずに譲渡することです。
親から子へ、夫から妻へ、などの贈与の場合、契約書がないケースも多く口約束でも成立はしますが、登記申請の際には「登記原因証明情報」に贈与の事実を記載する必要があります。
【離婚による財産分与】
離婚後どちらか一方が住み続ける場合、名義人になっていない方が住むのであれば名義変更が必要になります。夫婦2人の共有名義であった場合も、住む方の単独名義に変更しなくてはいけません。ただしローンが残っている場合は、金融機関に相談する前に名義変更をしてしまうと契約違反となることもあるため、気をつけましょう。
【持分放棄】
不動産を2人以上の名義で登記をしている共有状態のとき、共有者の内の誰かが「持分放棄」をすると、その持分は自動的に他の共有者へ移行します。
持分放棄は、共有持分権者に法的に認められた行為で、共有者の合意なしに行うことができますが、移転登記の際に他の共有者の協力が必要になるため、事前に確認しておくことが一般的です。
【交換】
不動産を交換することで所有権を移転させることができます。
このとき、一定の要件を満たせば「固定資産の交換の特例」を利用することができ、本来であれば発生する譲渡税が免除されます。
【共有物分割】
共有名義の不動産を持っている内の誰かが「共有関係を解消したい」と思ったときに行える方法です。共有物分割の方法は、不動産を物理的に分ける「現物分割」か、共有者の誰か1人が持分をすべて買い取る「価格賠償(代償分割)」か、第三者に売却をする「換価分割」の3つがあります。
共有者同士の話し合いで決定しない場合は、「共有物分割請求」によって訴訟を起こすこともできます。
2.事件
契約等を伴わずに発生した法律事実のことを指します。具体的には下記ことが挙げられます。
【相続】
「不動産の相続」とは、家や土地を所有している人が亡くなった際に、その所有権が子供などに引き継がれることです。被相続人が不動産の共有持分を持っていれば、共有持分を相続することになります。
また、被相続人が単独名義で所有していた不動産を2人以上で相続して共有状態にすることもできますが、デメリットが多いためおすすめはしません。
【時効取得】
不動産を長期間所有している場合、所有権を持っていなくても所有権を得られる可能性がある「時効取得」という制度があります。時効取得するためには、あらゆる条件を満たす必要があります。
・「とりあえず」では名義変更ができない
このように、名義変更をするときには「法律的な理由(登記要因)」が必要になります。
「親の所有している家に住むことになったから名義変更したい」では、申請ができません。相続なのか、贈与なのか、売買なのか、で発生する税金も変わってくるからです。
それでは、次に名義変更のときに発生する税金について説明します。
■名義を変更するときに発生する税金
不動産の名義変更にはあらゆる税金が発生します。
また名義変更をする理由によっても発生する税金は異なるので、それぞれご紹介します。
・贈与税
名義変更の理由が「贈与」で、贈与される不動産などが一定金額を超える場合に必要となる税金です。基本的には、受贈者一人につき1年間で110万円を超えた場合に、税金がかかります。税率は下記の通りです。
【税率と控除額】
200万円以下:10%(控除なし)
400万円以下:15%(控除額10万円)
600万円以下:20%(控除額30万円)
1000万円以下:30%(控除額90万円)
「相続時精算課税」制度で贈与税を抑えられる
「相続時精算課税」制度とは、60歳以上の父母や祖父母から20歳以上の子や孫に財産を贈与した際に使える制度です。これを選択することで、大幅に贈与税を抑えることができる場合があります。しかし税務署に対して届出と申告をする必要があることと、「1年110万円まで非課税」の適用は受けられなくなります。
極端に安い売買は贈与とみなされる場合も
「贈与税が高いから、登記要因を売買にするために、低価格でお金を支払っておこう」と考えるケースがありますが、極端に安い売買は「贈与(みなし贈与)」と判断されてしまうことがあるので注意しましょう。
・相続税
「相続」によって名義変更をしたときに発生する可能税がある税金です。
相続した財産の合計金額が基礎控除額を超えた分に、税率を掛けて算出されます。下記で算出した数字を下回る場合は、納付も申告もする必要はありません。
ただし特例などを適用して税額が発生しない場合、申告が必要になることもあります。
【基礎控除額】
3000万円+(法定相続人数×600万円)
【税率と控除額】
法定相続分に応ずる取得金額1000万円以下:税率10%(控除なし)
法定相続分に応ずる取得金額3000万円以下:税率15%(控除50万円)
法定相続分に応ずる取得金額5000万円以下:税率20%(控除200万円)
法定相続分に応ずる取得金額1憶円以下:税率30%(控除700万円)
・登録免許税
登記申請の際に法務局に支払う税金です。
金額は、不動産の「固定資産税評価額」に「登録免許税率」を掛けて算出されます。共有持分移転登記の場合、持分割合も計算に含まれるため要注意です。
【登録免許税率】
-相続人による相続の場合:1000分の4
-贈与の場合:1000分の20(2%)
-遺贈の場合:1000分の20
-離婚による財産分与の場合:1000分の20
・不動産取得税
贈与や売買によって不動産や共有持分を得た場合にかかる税金で、名義変更後に受遺者や買主が1回だけ支払います。
金額は、「固定資産税評価額」に「不動産取得税率」を掛けて算出できます。共有持分移転登記の場合、持分割合も計算に含まれるため要注意です。
【不動産取得税率】
-宅地の場合:1000分の15(軽減税率。令和3年3月31日まで)
-住宅用建物の場合:1000分の30
-住宅以外の土地や建物の場合:1000分の40
・固定資産税
不動産を所有している場合、毎年支払う必要がある税金です。
共有名義の不動産の場合、代表者1人に納付書が送られてくるため、各共有者は持分に応じた固定資産税を代表者に支払う必要があります。税額は、不動産の「評価額」に対して基本的に土地・建物ともに1.4%の税率を掛けて算出されます。市町村によっては1.4%以上の税率に定められている場合もあるため、確認しましょう。
■名義変更の手続き
共有名義の不動産を単独名義に変更をするときも、売買によって名義を変更するときも手続きはほとんど同じです。流れと必要な書類をご紹介します。
・司法書士に依頼した場合の流れ
オンライン申請もあるため自分で手続きをすることは可能ですが、司法書士に依頼した場合の流れをご紹介します。
1.司法書士に依頼をする
費用は依頼先によって異なるため、事前に確認しておいた方がいいでしょう。
2.司法書士が法務局に登記申請をする
不動産の所在地によって申請をする法務局は違います。
管轄の法務局に登記申請書と必要書類を提出します。
3.法務局が審査・登記簿変更をする
登記官が書類を確認し、問題がなければ登記簿に記入をします。
4.法務局から完了書類の交付
法務局から司法書士へ、完了書類が交付されます。
5.司法書士から依頼人へ完了書類を渡す
司法書士から書類を受け取れば、完了です。
・必要書類
次に必要書類についてご紹介します。
司法書士が作成してくれる場合もあるため、依頼する際に確認するといいでしょう。
登記原因証明情報
上述したように、登記申請の際には理由を明確にしなくてはいけなく、それを証明するための書類が必要になります。登記原因証明情報は、大きく2つに分類されます。
【既存文書活用型】
既存の書類を提出する方法です。
売買契約書と代金領収書、抵当権設定契約書などがこれにあたります。書類作成の手間を省くことができますが、売買代金や特約など契約書に載っているすべての情報が公開されてしまうというデメリットがあります。
【新規作成型】
新たに書類を作成する方法です。登記に必要な情報のみを記載します。
権利証または登記識別情報通知
「権利証」とは、不動産の所有権保存登記が完了したことを証明する書類ですが、2005年に廃止されました。それ以降は「登記識別情報通知」となり、権利証に代わる登記確認書類となっています。
固定資産税評価証明書
「固定資産税評価証明書」とは、1月1日現在の所有者や所在地・評価額・課税標準額などが記載された証明書のことです。300円~600円ほどで、取得できます。
他にも、住民票や印鑑登録証明書が必要になることもあり、それぞれに発行手数料がかかります。
■共有名義を単独名義に変更するときの注意点
上述したように、不動産の名義変更をする際には、共有名義を単独名義にするときも、単独名義の所有権を移転するときも同じで、「理由」を明確にし、法務局に対して手続きをする必要があります。
しかし、単独名義の申請時と異なる点もいくつかあります。ここでは、共有名義を単独名義に変更するときの注意点をご紹介します。
・申請書の「登記の目的」欄の記入方法が違う
登記申請書の「登記の目的」欄の記載の仕方が、単独名義のときとは違うため気をつけましょう。単有の場合、「所有権移転」と記載すればいいのですが、共有の場合は誰からどれくらい移転したかを記載する必要があります。
例えば、Aの持分をすべてBに移転した場合、「A持分全部移転登記」と記載します。Aの持分の一部をBに移転した場合は、「A持分一部移転登記」と記載します。
・共有者の合意を得ておく
共有名義の名義変更をするときには、共有者全員の印鑑登録証明書が必要になります。
事前に伝えておかないと「聞いていなかった」となり関係が悪化し、協力を得られなくなる可能性もあるでしょう。登記申請の前に話し合いをしておくことをおすすめします。
■困ったときはプロに相談を
「名義を変更したいけれど、共有者が協力してくれない」など、登記申請がスムーズにできない場合、訴訟を起こすことも可能ですが、まずはプロに相談することをおすすめします。
裁判になり関係が悪くなることで、協力すれば高額で売ることができる不動産が競売になり安値で取引されてしまうケースがあります。
深刻なトラブルになる前に、専門知識のあるプロに頼ってみてはいかがでしょうか。