親などから不動産を相続した際、登記を1人ではなく兄弟姉妹など複数人で登記をすると「共有」となります。
不動産の共有は、売却や抵当権設定など何かをする際に共有者全員の合意が必要となるため、自由に活用できないことがデメリットです。
そこで気になるのが、後からその不自由さに気づいて「共有状態を解消したい」と思ったとき、共有持分を親族間で売買することができるのか否かです。
目次 [非表示にする]
■共有持分は親族間で個人取引できるのか?
結論から言うと、共有持分を親族間で個人的に売買することは可能です。
共有者それぞれが持っている所有権の割合のことを「共有持分」と言い、これを売買することで、1人の単有にすることができます。
不動産会社を通さずに共有持分を個人的に売買することはメリットもありますが、注意点もあります。
次より詳しく説明します。
■共有持分を親族間で売買するメリット
共有持分を親族間で個人的に売買するメリットをお伝えします。
・単有になることで活用しやすくなる
共有状態だと、売却や抵当権設定などの際に「共有者全員の合意」が必要になります。
誰か1人でも反対だと成立しないため、不自由さを感じるでしょう。また全員が売却に合意したとしても、全員が売主として関与しなくてはいけないため、煩わしさを感じることがあるかもしれません。そうした場合、共有持分を買い取って単有にすることで不動産を自由に活用することができます。
・費用や管理から解放される
買い取る方は所有権を独占できる一方、売る方にもメリットはあります。
共有持分を持っていると、何かと費用がかかります。固定資産税を共有持分に応じて支払う必要があったり、修繕費や管理費なども必要に応じてかかったりするため、負担を感じることがあるでしょう。また賃料収入のあるマンションなどであれば、管理や経営などをしなくてはいけません。
空き家や土地だけの不動産であっても、草取りなどの定期的なメンテナンスは必要です。これらの管理責任がなくなることもメリットと言えます。
・仲介手数料などがかからない
不動産会社を通さずに親族間で個人取引をすると、通常であれば不動産会社に支払う仲介手数料がかかりません。また共有持分の買い手を探す手間もないため、最小限の負担で共有持分を売買できます。
■共有持分を共有者(親族)に売買する流れ
不動産の共有持分を個人的に売買するにはどうしたらいいでしょうか?
兄弟姉妹などの親族と共有状態であることを前提に、流れをご紹介します。
1.共有相手(親族)と話し合う
不動産を共有している兄弟姉妹などの親族と話し合いをします。
共有持分を買い取りたいのか、売りたいのか、意見が一致しなければ成立しません。
あなたが買い取りたいのであれば、共有者が所有権を手放すメリットを伝え、あなたが共有持分を売りたいのであれば、共有者が単有になるメリットを伝えましょう。
2.売買金額を決める
不動産の共有持分の売買金額は、基本的に「不動産の時価×共有持分割合」で算出できます。相手と交渉をする際、不動産の時価を調べておきましょう。
しかし相手が買い取りに乗り気ではない場合、減額を要求されるかもしれません。自分がいくらまでなら妥協できるのか考え、お互いが納得いく金額になるよう話し合いましょう。
3.一括払いか分割払いか決める
売買金額が決まったら、それを一括で支払うのか分割で支払うのかを決めましょう。
親族間取引の場合、ローンが利用できないケースがほとんどです。つまり、現金一括で支払えない場合は分割払いしか方法がありません。この場合、途中で支払いが停滞しないように契約書を作成しておく必要があります。
4.契約書を作成する
「親しい兄弟間で契約書をつくるなんて」と思われるかもしれませんが、必ず「共有持分売買契約書」を作成しましょう。移転登記の際にも必要です。
5.移転登記をする
法務局で持分移転登記を行います。
登記手続きは自分たちで行うことも可能ですが、司法書士に依頼するとスムーズです。手続きの流れは下記のようになります。
・移転登記に必要な書類を準備
登記原因の事情によって異なる場合もあるので事前に確認しましょう。
登記申請書は法務局のホームページからダウンロードできます。
【移転登記に必要な書類】
-登記申請書
-住民票
-共有持分売買契約書(登記原因書類)
-印鑑登録証明書
-固定資産評価証明書
など。
・登録免許税を用意
移転登記をするためには、手数料のような税金が必要になります。
金額は不動産の「固定資産税評価額」に「登録免許税率」と持分割合を掛けて算出します。
【登録免許税率】
-相続人による相続の場合:1000分の4
-贈与の場合:1000分の20(2%)
-遺贈の場合:1000分の20
-離婚による財産分与の場合:1000分の20
・法務局に提出
書類とお金を用意したら、法務局に提出します。
司法書士に依頼する場合、司法書士が提出をしてくれるケースがほとんどです。
・登記完了書類を受け取る
法務局で確認した後、問題がなければ「登記識別情報通知書」が交付されます。
これで移転登記が完了です。
■共有持分を親族間で取引する時の注意点
共有持分を親族間で個人的に売買するメリットを上述しましたが、注意点もあります。
・強制的な売買はNG
共有者が売買を拒んだ場合、強制的に行うことはできません。
他人同士とは異なる間柄のため、無遠慮に自分の意見を主張してしまうことがあるかもしれませんが、相手の意見にも耳を傾けるようにしましょう。
また反対に、今後の付き合いを考えてしまい、自分の気持ちを素直に伝えられないというケースも考えられます。不動産売買は大きな金額が動くこともあるため、複雑な心境のまま取引が進まないように、自分の意向ははっきり伝えましょう。
・契約書がおろそかにならないよう注意
上記でもお伝えしたように「親族間で契約書なんて」と、おろそかになりがちなため、気をつけましょう。また表記方法などを間違えると、契約書としての効力を持たないことがあります。個人取引の場合、自分たちで作成しなくてはいけないため、不備が生じないよう慎重に行いましょう。
・分割払いの場合は公正証書作成がおすすめ
親族間取引ではローンが利用できないことがほとんどのため、分割払いになるケースがあります。そうなると「親族だし……」という気の緩みから、途中で支払いが停滞することも。
そのようなリスクを回避するために、法的効力を持つ公正証書の作成がおすすめです。
公正証書化しておくことで、いざというときに相手の預貯金などを差し押さえて回収することができます。そこまでしなくても「公正証書がある」という事実だけで、不払いのリスクを回避することにつながります。
・移転登記忘れに注意
移転登記をしなくても法的な罰則はありませんが、所有権が共有状態のままとなってしまいます。移転登記をしないことで結局は自由に活用できなかったり、所有権を手放したと思っていても固定資産税の納付書が届いてしまったりします。
期限はありませんが、取引が成立したらできる限り早めに移転登記をしておきましょう。
・親族仲が悪化するケースも
親族間で共有持分を個人的に売買する際、意見が合わなかったり、契約後に支払いが滞ったりすることで、親族仲が悪化してしまうことがあります。
また反対に、不動産とは別の原因で親族仲が悪くなった場合、共有持分の売買に影響を及ぼす可能性もあります。
■共有持分の親族間取引でリスクを背負わない方法
親族間で個人取引をすると、上述したように契約書がおろそかになったり、親族間が不仲になったりするリスクがあります。そこでリスク回避の方法をお伝えします。
不動産会社に仲介に入ってもらう
個人取引ではなく、プロである不動産会社に仲介を依頼するという方法があります。
メリットとデメリットをご紹介します。
・仲介のメリット
不動産会社が仲介に入ることで、契約書や登記までの流れを不備なく進めることができます。また親族同士で直接交渉すると亀裂が生まれやすい価格なども、第三者が入ることで折り合いがつきやすくなるでしょう。さらにローンが通りやすくなる場合もあります。
・仲介のデメリット
仲介手数料が発生します。
共有持分の売買金額によって手数料は異なるため、算出してから依頼するか検討するといいでしょう。
親族以外に共有持分を売却する
親族間取引でリスクがありそうであれば、親族以外に共有持分を売却することもいいでしょう。一般の人に共有持分を売ることは難しいですが、専門の業者であれば買い取ってくれることがあります。
・親族以外(業者)に売却するメリット
人間関係の煩わしさがなく、ビジネスライクに売却を進めることができます。
代金も一括で支払われる場合がほとんどです。「兄弟に共有持分の売買を言い出せない」や「交渉したけれどダメだった」というときに検討するといいでしょう。
・親族以外(業者)に売却するデメリット
共有持分を買い取った不動産会社は、共有者へ買い取りまたは売却の交渉をするために連絡をするケースがあります。共有者に売却の事実を伝えていない場合、「知らなかった」と怒りを買うことがあるかもしれません。また業者に共有持分を売るときは、市場価格を共有持分割合で算出した金額よりも低くなることがほとんどです。
■共有持分の売買以外で共有状態を解消する方法
共有持分を売買する以外でも、共有状態を解消する方法はあります。
兄弟で不動産を共有していることで困り事がある場合、このような方法もあることを参考にしてください。
・不動産を売却する
不動産自体を手放すことで共有関係を解消することができます。
ただし、共有不動産の売却には共有者全員の合意が必要で、手続きや立ち会い等にも全員が関与する必要があります。共有者の中に1人でも「売りたくない」という人がいれば、売却できません。その場合、その人に共有持分を買い取ってもらえないか交渉しましょう。
・持分放棄をする
民法第255条において、「共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する」と定められている通り、共有持分権者には持分放棄する権利が認められています。
例えば、兄と弟が共有名義で持っている不動産で、弟が持分放棄した場合、自動的に兄にその権利が移行します。兄の同意なしに持分放棄をすることはできますが、登記手続きの際には兄の協力が必要になります。
・共有物分割請求をする
共有状態を解消するために、共有者同士で話しがまとまらない場合は分割方法を決めるための訴訟を起こすことができます。分割方法は3つあり、下記の通りです。
—現物分割
不動産を物理的に分ける方法です。
兄と弟で共有持分が2分の1ずつの土地を持っている場合、その土地を半分で分けます(分筆)。しかし、ただ分けただけでは兄と弟それぞれの単有にはならず、両方とも兄と弟が2分の1ずつ所有している状態になるため、共有持分を譲り合い、登記上2つに分配します。
この方法は建築物が建っていない土地のみの場合に適用されることがほとんどです。
—価格賠償(代償分割)
共有者の誰か1人がすべての持分を買い取り、他の共有者に代償金を支払う方法です。
現物分割が不可能な場合や、共有者の中の一人が取得を希望している場合、または取得者に資力がある場合などに価格賠償が選択されます。
—換価分割
第三者に売却し、経費を差し引いて残ったお金を共有持分に応じて共有者全員に分配する方法です。
現物分割も物理的に不可能で、代償分割は資力がなく難しいと判断された場合、換価分割が選択されます。
「第三者への売却」とは「競売」です。競売となると、市場価格よりも低い金額で売却されたり、全国に公開された競売情報を確認するため、不動産会社が直接見に来ることでプライバシーを侵害されたりするおそれもあります。
■共有不動産でお困りの場合、プロに相談を
不動産の共有状態は厄介事が起こりやすいので、相続時には1人での登記をおすすめします。すでに共有で登記をして「やはり解消したい」と考えたときは、共有持分の売買をすることで単有または所有権を手放すことができるでしょう。
個人取引でスムーズにいけばいいのですが、大きな金額が動くためトラブルになりやすく、親族間の仲にも影響を及ぼす可能性があります。
そんなときは、第三者であるプロに依頼することで、プライベートな問題を絡ませずに滞りなく進めることができるでしょう。また書類作成等も不備なく行えるため、費用はかかりますが、時間や精神的ダメージをおさえることができます。