「共有状態」の不動産は1人名義の不動産と違い、あらゆる判断や行動を単独で行えないことがネックです。一方、「保存行為」の場合、他の共有者の合意が必要なく独断で行うことが可能です。
そこで今回は、単独で行える「保存行為」とは何か、具体例と注意点を紹介します。
また、何かと悩みを抱えやすい「共有状態を解消するための方法」もあわせてご紹介します。
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■共有持分権者の権利
共有名義の不動産を持っている「共有持分権者」には、あらゆる権利が与えられています。
しかし、一方で権利を制限されることもあります。
ここでは、共有持分権者が持つ権利と、単独ではできないことなどをお伝えします。
・共有持分権者とは
共有持分権とは、財産(不動産)を複数の人で共有している際、その共有持分やそれに伴って発生するさまざまな権利のことを指します。
不動産の共有持分権者は、共有持分に応じて権利を持っていますが、「共有持分が2分の1だから、建物の半分が自分のもの」という物理的な考えではなく、「不動産全体に対して2分の1の割合の権利を持っている」という概念的な考えとなります。
・共有とは
1つの不動産を2人以上で所有していることを「共有」と言います。
夫婦や兄弟、または他人同士であっても共有することは可能です。単有の不動産であれば、売却や抵当権設定など名義人の判断で何でも行うことができますが、共有状態の不動産はそうではありません。
次に、共有持分権者が独断でできることとできないことをご紹介します。
・共有持分権者が持っている権利
不動産の所有権を持つ人には使用・収益する権利の他に、変更(処分)行為・管理行為・保存行為をする権利が与えられています。しかし、それぞれ単独でできるかどうかが異なるため、注意が必要です。
「変更(処分)行為」は単独で「できない」
不動産を物理的に変えてしまう行為や法律的に処分する行為である「変更(処分)行為」は重大なため、共有者全員の合意がなければ成立しません。
共有者が複数人おり、大多数が賛成している場合でも1人が反対の状態であれば実行することができないのです。変更(処分)行為とは、下記のことが挙げられます。
【変更(処分)行為】
・売却
・贈与
・長期賃貸借
・増築、改築
・大規模な修繕
・抵当権の設定
・解体
・建て替え
・分筆・合筆
「管理行為」は共有者の持分価格の過半数の合意が必要
民法第252条で、「共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する」と定められている通り、「管理行為」は共有持分の価格の過半数が合意すれば成立します。
共有持分権者が3人おり、3分の1ずつの持分だった場合、3人のうち2人が合意すれば決行することができるというわけです。管理行為とは下記のことが挙げられます。
【管理行為】
・賃貸借契約締結
・共有物の使用方法決定
・賃料の減額
・賃貸借契約解除
「保存行為」は各共有者が単独で「できる」
他の共有者が不利益にならないことを前提として、共有物の物理的現状を維持する「保存行為」は、他の共有者の合意なしで行うことができます。
民法でも「各共有者が保存行為をすることができる」と認められている通りです。
【保存行為】
・修繕
・無権利者に明渡し請求・抹消登記請求
・法定相続による所有権移転登記
・共有者が権利を制限し合っている状態
不動産を共有している人は上記の権利を持っていますが、単独では判断できないこともあるため、各共有者がお互いに権利を制限し合っている状態だと言えます。
「保存行為」は、共有者に制限されることなく独断で行うことができるとされていますが、具体的にどのような行為なのでしょうか?
次で詳しくお伝えします。
■「保存行為」の具体例
保存行為とは、「不動産の現状を維持するための行為」のことを指します。
保存行為をすることで他の共有持分権者の利益にもなるため、合意が必要なく単独で行うことができます。
それでは保存行為の具体例をいくつかご紹介します。
1.不動産の修理や修繕は「保存行為」
壊れたり老朽化したりした不動産を修理・修繕する行為は「不動産の価値を保つため」にあたるので、「保存行為」となります。
1-1.「オシャレにしたい」という目的は保存行為ではない
壊れているわけではなく「オシャレにしたいから」「こうした方が見栄えが良くなるから」などといった理由で手を加えることは「保存行為」にはなりません。
「変更行為」とみなれる場合があるため、共有者の合意が必要になります。
1-2.大規模な修繕は保存行為ではない
「家が古くなったから、家全体を修繕しよう」とする行為は「大規模修繕」となり、「変更行為」とみなされる場合があります。
共有者全員の合意が必要になるため、気をつけましょう。
2.不法占拠している人への明け渡し請求は「保存行為」
第三者が不法に不動産を占拠している場合、単独で明け渡し請求をすることは「保存行為」として認められています。そのままの状態にしておくと、共有者全員にとって不利益になるからです。
2-1.共有者が独占している場合は明け渡し請求できない
占拠している人が共有者の場合、明け渡し請求はできません。
共有持分を少しでも持っていれば、使用する権利があるからです。しかし自分の持分に応じた使用が妨げられている場合は、その分の金銭を請求(不当利得返還請求)することができます。
3.無権利者名義の末梢登記請求は「保存行為」
不動産を所有する権利のない人が勝手に名義にしてしまっている場合、独断で抹消登記請求ができます。
4.法定相続登記は「保存行為」
不動産の相続が発生した際に、法定相続分に従った共有登記をする場合、法定相続人であれば1人で申請することができます。
そのため、法定相続登記は「保存行為」の一種だと言われています。
4-1.「とりあえず法定相続登記しておこう」はNG
共有状態はデメリットが多く、後々トラブルとなるケースがあるため、できる限り単有での登記をおすすめします。
「法定相続分での共有登記は1人で申請できるから、とりあえずしておこう」と、安易に行うことはやめましょう。あとから遺産分割協議で1人に決まった際に、登記し直す手間や費用がかかってしまいます。
4-2.相続登記を放置することもNG
相続人が決まらなかったり、決まったにも関わらず「面倒だから」と登記を放置しておいたりすると、後々厄介な問題に発展してしまうことがあります。
相続登記をしないと法定相続人全員の共有状態とみなされるため、1人の判断で不動産売却などができません。さらに、年月を経てまた相続が発生し、共有者が増えることで、権利関係が複雑化することも想定できます。
5.地役権設定登記請求は「保存行為」
地役権とは、自分の土地を利用するために、一定の範囲で他人の土地を使わせてもらうことができる権利のことです。
例えば、道路に面していない土地(袋地)を所有している場合、道路へ出るために他人の土地を使わせてもらう必要があります。他にも、水道を引くために他人の土地を使用したいケース(用水地役権)などもあります。
登記をすることで第三者に主張できるため、単独で行うことができる「保存行為」となっています。
■保存行為の注意点
上述したように、不動産の価値を維持するための保存行為は単独で行うことができますが、その際に注意しなければいけないことがいくつかあります。
・保存行為と他の行為の境界線に注意
保存行為の具体例を紹介しましたが、実際には他の行為との境界線があやふやなことがあります。自己判断で「保存行為だろう」と思って行ったことがそうではなく、他の共有持分権者の利益を侵害してしまった、ということになる可能性もあり得ないことではありません。
・迷ったら専門家に相談を
もし「これは保存行為なのか?変更行為なのか?」と迷ったら、決行する前に専門家に相談するのが一番です。
万が一保存行為ではなかった場合、他の共有者に損害賠償請求をされたり、元の状態に戻すよう原状回復請求をされたりしてしまうかもしれません。
■共有状態の解消方法
不動産を2人以上の名義で所有していると、あらゆる行為に対して共有者の確認・合意が必要になります。
独断で行える「保存行為」も、自己判断を誤れば共有者の怒りを買ってしまうかもしれません。このような煩わしさから「共有関係を解消したい」と考えた場合、どのようにしたら解消できるのでしょうか?
その方法をお伝えします。
1.不動産を売却する
不動産を手放すことで、共有関係を解消することができます。
ただし、売却は「変更(処分)行為」にあたるため、共有者全員の合意が必要です。共有者の中に1人でも非協力的な人がいれば売却は難しくなります。
2.共有者に共有持分を買い取ってもらう
自分の共有持分を他の共有者に買い取ってもらう方法です。
自分の所有権はなくなりますが、共有関係を解消できます。共有持分の買い取り金額は「不動産の時価」×「持分割合」で算出できますが、交渉で決めるため、この限りではありません。
3.自分が相手の共有持分を買い取る
相手の共有持分を買い取る方法もあります。
単有にすることで、売却や抵当権設定・増改築など、不動産を大幅に変更する行為も自分1人の判断で行うことができます。この方法を取る際、持分を買い取る費用や固定資産税・管理費などの維持費用が必要となるため、資力があることが前提となります。
4.持分放棄をする
共有者が話し合いに応じない場合などで所有権を手放したいときには、持分放棄をすることができます。
民法第255条において「共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する」と定められている通りです。
例えば、AとBが共有名義で持っている不動産をAが持分放棄した場合、自動的にBにその権利が移行します。Bの同意なしに持分放棄をすることはできますが、登記手続きの際にはBの協力が必要になります。
5.共有物分割請求をする
共有物分割請求とは、共有持分権者に法的に認められた権利です。
共有状態を解消するために、共有者同士で話しがまとまらない場合は訴訟を起こすことができます。
調停によって解決しなければ、裁判所が客観的に分割の方法やその内容などを決めます。分割の方法は3つあります。
①現物分割
不動産を物理的に分ける方法で、建築物が建っていない土地のみの場合に適用されることがあります。
例えば、AとBで共有持分が2分の1の土地を持っている場合、その土地を半分で分けます(分筆)。しかし、ただ分けただけではAとBそれぞれの単有にはならず、両方ともAとBが2分の1ずつ所有している状態になります。そのため、自分の共有持分を相手に譲り合うことで、登記上2つに分配することができます。
②価格賠償(代償分割)
共有者の誰か1人がすべての持分を買い取り、他の共有者に代償金を支払う方法です。
現物分割が不可能な場合や、共有者の中の一人が取得を希望している場合、または取得者に資力がある場合などに価格賠償が選択されます。
③換価分割
第三者に売却して、経費を差し引いて残ったお金を共有持分に応じて共有者全員に分配する方法です。
現物分割も物理的に不可能で、代償分割は資力がなく難しいと判断された場合、換価分割が選択されることがあります。
「第三者への売却」とは「競売」です。競売となると市場価格よりも低い金額で売却されたり全国に公開されたりするため、共有者全員にとって不利益なる可能性があるでしょう。
6.買取業者に買い取ってもらう
不動産全体を売るためには共有者全員の合意が必要ですが、自分の共有持分のみの売却であれば独断で行うことができます。
そのため、自分の共有持分のみを専門の買取業者に売ることもひとつの方法です。
市場価格の売却額よりは低くなるかもしれませんが、訴訟となって弁護士費用がかさんだり競売で売却益が低くなったりするよりは良いかもしれません。
■困った場合はプロに相談を
共有状態の不動産は自由に扱うことができないため、あらゆる問題や悩みが起きることがあります。不動産を維持するための保存行為であれば、独断で行うことができますが、判断を誤れば他の共有者の権利を侵害してしまうことがあるかもしれません。
「所有権を手放して煩わしい共有関係から抜け出したい」などと考えたときは、迷わずプロに相談することをおすすめします。