夫婦でペアローンを使って不動産を共有したり、相続で兄弟姉妹間で不動産を共有するようなケースが多くなってきています。
もし、何かしらのトラブルで共有不動産を売却したいとなった時に、どれくらいで売れるのか、気になるところではないでしょうか?
今回は、共有名義の不動産の評価方法と実際の売却価格についてご紹介します。
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■共有名義の不動産の評価は?
不動産の価値を評価するといっても、様々な不動産評価基準があり、絶対的な価格基準はないといっても過言ではありません。
例えば、固定資産税を課税するためには、「固定資産税評価証明書」に記載されている評価額が基準となります。
また、相続税などに使われる「路線価(相続税路線価)」や、売却価格の基準となる「市場価格(不動産業者が物件の立地や条件をもとに査定した金額)」などがあります。
遺産分割の際にどの価格を使うかについては、法律上の定めはなく、法定相続人(民法の範囲内の相続人)全員が納得する基準であればよいとされています。
しかし、明確な基準がないからこそ、これが紛争のポイントになりやすいのです。
遺産分割が裁判になった場合、評価方法を決めるまでに多くの時間を要することになります。
特に、不動産が共有名義の場合、評価方法は単純ではありません。
「不動産の価格」×「共有持分の割合」であれば、難しい話ではありませんが、実際に共有持分だけを市場で売買しようとすると、それよりもずっと低い価格になると考えなければなりません。
実際の価格は、その土地の立地条件や広さ、形状など、さまざまな要素に左右されます。
というのも、「共有不動産の法的処分」を行おうとすると、非常に難しいことがあるからです。
不動産が共有されている場合、具体的にどのような制限が生じるのか確認してみましょう。
■共有不動産は資産価値が極端に低い
共有不動産の資産価値が低くなってしまう具体的な理由は以下の通りです。
・共有者が占有している場合は住めない
不動産が共有状態にある場合、共有者全員がそれぞれの持分に応じて不動産全体を使用・享受する権利を有しています。
ただし、持分の比率によって、行使できる権利の範囲が異なる場合があります。
| 行為の種類 | 合意が必要な共有者の数 |
| 変更(処分)行為 | 共有者全員の合意が必要 |
| 管理行為 | 共有者の持分比率の過半数で可能 |
| 保存行為 | 各共有者が単独で可能 |
行為が重要であればあるほど、それを決めるためにはより多くの共有者の同意が必要となります。
例えば、所有権の100分の1しか持っていない共有者だからといって、占有することができないわけではありません。
また、物理的に「この部分を誰が所有しているか」という問題ではなく、「全員が全体の権利を持っている」というのが共有名義の特徴です。
とは言え、現実には「共有者のうち一人だけがその不動産に住んでいる」という状況も多々あります。
そうなると、他の人が占有することは事実上不可能ですし、自分の持分に見合った賃料を要求しても払ってもらえないこともあります。
裁判をしてまで請求する費用や手間が割に合わないと考えるなら、共有関係そのものを解消してしまうのも選択肢の一つです。
ただし、不動産全体を売却してお金に換えて分割したいと思っても、自分だけが売りたいという場合は不動産全体を売ることができません。
・勝手に不動産を売却することができない
上の表にあるように、共有者全員が「変更(処分)行為」に同意しなければ実行できません。
不動産の売却は、変更(処分)行為になります。
不動産の売却や抵当権設定は、不動産を処分する最も重大な行為であり、他の共有者の意向を無視して強引に行うことは許されません。
その意味で、共有者の当事者になることは非常にリスクが高いと考えられます。
・勝手に不動産を貸すことができない
また、不動産を貸すことにも制限があります。
不動産を賃貸することは管理行為になり、持分の過半数の同意が必要になります。
ただし、長期間の賃貸借契約の場合は、変更(処分)行為となり、共有者全員の同意が必要になります。
・税金を支払わないといけない
評価額が一定額以上の不動産を所有している場合、毎年「固定資産税」を支払わなければなりませんが、これはその不動産を占有している人だけでなく、共有者全員に課せられた義務です。
もちろん、誰が支払うかは共有者同士で決めることができますが、すべての共有者に納税通知書が届くわけではなく、一人の共有者に届くことになります。
では共有者の誰に届くのでしょうか?
これは、その自治体によって基準が異なるようです。
・最も多くの共有持分を持っている人。
・最初に物件を取得した人
・その物件がある自治体に住んでいる人
基本的には、複数の共有者に別々に納税通知書を送ってもらうことはできませんが、人口の少ない自治体などでは、納税者が希望すれば、そのような申請書を提出して、別々に納税してもらうことが可能な場合があります。
ご希望の場合は、不動産が所在する自治体にご確認ください。
■不動産の評価基準と売却方法
では、共有不動産はどのように評価されるのかを考えてみましょう。
・共有者へ売却
実務的には、共有物件の自分の持分だけを売却するケースでは、共有者の一人に売却するか、親族に売却することが一般的です。
個人売買であれば、合意があればもちろん好きな価格を設定することができますが、相場よりもはるかに低い価格を設定した場合、「みなし贈与」とみなされて贈与税が課税されてしまうので注意が必要です。
つまり、ある程度客観的な基準を知っておく必要があるのです。
前述のように、不動産には様々な価格基準があります。
| 決定者 | 目的 | 概要 | |
| 市場価格(実勢価格) | 不動産業者、売買当事者など | 売買 | 実際の市場取引から形成される価格 |
| 相続税路線価 | 国税局 | 相続税、贈与税の計算 | 国税庁が発表する相続税、贈与税の目安となる価格 |
| 固定資産税評価額 | 市町村 | 固定資産税、都市計画税、不動産取得税、登録免許税の計算 | 市町村が発表する固定資産税の基準となる価格。3年に一度評価替えがある |
市場価格を100とすると、「相続税路線価」は市場価格の80%程度、「固定資産税評価額」は市場価格の70%程度となります。
持分については、もちろん持分割合を乗じた金額となります。
主に市場価格を参考にして価格を決めれば、相場と大きく乖離することはありません。
・第三者に売却
次に、第三者に売却する場合を考えてみましょう。
前述の通り、「処分行為」としての売却には共有者全員の同意が必要ですが、これはあくまでも不動産全体を売却する場合の話です。
「自分の持分だけを売りたい」というのであれば、自分の判断で売却することができます。
しかし、そもそも共有状態の不動産が売れるかどうかはまた別の話になります。
本来であれば、このような物件は身内以外には買われないので、売却は諦めるべきでしょう。
しかし、共有名義の不動産など、訳あり物件を専門に購入する不動産業者が存在します。
彼らは、購入後に他の共有者と話し合い、最終的に単独所有にするために、わざわざそのような問題のある物件を購入するのです。
例えば、両親から相続で引き継いだ家を兄弟で1/2ずつ所有している場合で、兄が家を占有し、賃料なども弟に渡してくれない場合、弟にとっては、共有状態であること自体が負担となってしまいます。
しかも、共有者である以上、勝手に不動産全体を売却することはできません。
そのため、兄が自分の持分を買ってくれることも叶わない場合は、第三者に売却できれば将来的に負担を減らすことができるということになります。
・いくらで売却できるのか
では、いくらで売却することができるのでしょうか?
市場価格が3000万円の家を兄弟で1/2ずつ所有している場合で考えていきます。
前述した通りで、共有不動産は市場価値が著しく低くなってしまいます。
そのため、単純に3000万円の不動産が持分1/2の1500万円で売れることはありません。
その不動産の共有者の状況、占有しているのは誰か、住宅ローンが残っているかどうかなど、状況によって価格が変動しますので、一概には言えませんが、市場価格の持分割合から40%から60%ほどの掛け目がかかった金額になるでしょう。
例)市場価格3000万円 持分1/2の売却査定の計算式
1500万円×60%=900万円
市場価格よりも低い金額で売却することにはなりますが、自分だけが税金を払わされていたり、共有者から正当な利益が支払われていなかったりする場合は、早急に対応する必要があります。
家族の場合、話がしにくいからといって未解決のままにしておくと、子どもの世代にまで負担を強いることになるかもしれません。
また、相続に関わる人が多ければ多いほど、当事者同士の話し合いは難しくなります。
共有不動産の処分について悩んでいる方は、必ず早めに専門家に相談するようにしましょう。
■おわりに
不動産の価格を評価する方法には、市場価格、路線価、固定資産税評価額などがあり、計算目的に応じて使い分けることができます。
共有持分だけを売買することは理論的には可能ですが、共有不動産の処分や利用には制限があるため、不動産全体で売却した場合よりも、自分の持分だけの売却はかなり低い価格になると考えた方が良いでしょう。