XLRコネクタの歴史を調べてみた | 音響・映像・電気設備が好き

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「キャノンコネクタ」と聞けば音響・映像関係の方にはマイクコネクタである事が伝わるはずです。型式名XLR。このXLRコネクタにどのような歴史があるのか調べてみました。

 

本記事の最大の目的は、後に調べる人に資料を残す事です。途中途中脱線しますが、ITT CANNON & XLRの歴史、Neutrikの歴史と合わせて記述します。

 

 

1915年、James H. Cannonがカリフォルニア州ロサンゼルスにCannon Electric Co.を設立。1920年初頭にType Mコネクタを開発し、肉挽き機の電気モータ、映画撮影用の同期モータの接続に使用されました。これが「キャノンプラグ」との愛称で呼ばれたそうです。

 

 

Cannon Electric Co. & CANNON PLUGSのトレードマーク。筆者が再描写したもの。

 

 

Cannon Electric M Series(下記リンクのPDFより)

 

●【PDF】ITT CANNONの公式サイトよりCANNONの歴史

https://www.ittcannon.com/Core/medialibrary/ITTCannon/website/Literature/Catalogs-Brochures/Lo-Res-History.pdf?ext=.pdf

 

●XLRの歴史(リンク先にPDF版もあります)

http://www.soundfirst.com/xlr.html

 

上記2記事には大変助けられました。

 

 

XLRの基礎となるコネクタの接続方式は1931年、ベル電話研究所から特許出願されています。

 

●United States US1933272A Electric connecter

https://patents.google.com/patent/US1933272A/en

 

コネクタのロッキング方式こそ違いますがXLRのルーツをたどる上で最古の特許がこれです。後にSwitchcraftが出願する特許の引用元にもなっています。

 

 

United States US1933272A Electric connecter

 

 

オス側のピン(状態としてはガワ)が少し回転しロッキングを行う方式です。(図中 40が可動ミゾ)可動時、半田づけ部にかかる力をプレート穴に一端通すことで逃がしています。

 

1930年頃、Cannon ElectricはType Xを開発。これはロック機構が無く、お互いに差し込むだけの方式です。想像ですが、先述の特許と同時期でロック機構を有さないあたり、意図的に特許回避を行ったのかもしれませんね。

 

 

Cannon Electric Type X(Cannon RJC-8-1955 catalog表紙より)

 

 

1948年、Cannon ElectricはType UAを特許出願。これが差し込むだけでロック、ラッチレバーを押してロック解除・引き抜けるという構造で、XLRの原型です。

 

●United States US2502303A Electric connecter

https://patents.google.com/patent/US2502303A/en

 

 

 

United States US2502303A Electric connecter

 

 

Cannon Electric Type UA-3-11のパーツ構成。ほぼXLRの原型があります

 

 

Cannon Electric Type UA-3-11のカタログ

 

 

 

Cannon Electric Type UA-3-11はElectro-Voice 666に採用されていました。仕様を見ると、3番ピンがグランドなので、このコネクタはXLRの様に1番が先にコンタクトする構造ではない模様(後述するリンク先に資料があります)

 

 

ebayでUA-3-11を検索していただけると現在でも入手が可能な事が分かります。

 

この後、Type UAでのラッチロック機構を応用し、1954年、Cannon Electric Type XLRが発売します。この年がXLRの誕生年と考えて良いでしょう。当時とパーツ構成が変わらず、ITT CANNONから今日まで販売されているという大変歴史のあるコネクタです。同時に、この時点からITT CANNONはXLRに大幅な改良を加えません。

 

 

 

写真は現在のITT CANNON XLR。神奈川県の座間工場で生産されている為、JAPAN表記がある

※1981年よりITT CANNONの音響コネクタは日本国内生産

 

 

Cannon Electric Type XLRは発売と同年の1954年に特許出願されています。これは1976年まで有効です。

※XLRコネクタに「PAT.2869095」刻印があるものは日本国内生産に入る前の貴重なモデルです。

 

 

Twitterのフォロワさんが「PAT.2869095」表示付きXLRを送ってくださいました。感謝!マイナスネジです。

 

 

「PAT.2869095」表示

 

 

内部パーツ構成。絶縁用チューブが茶色の紙製?です。

 

 

●United States US2869095A Electrical connector with positioning ribs

https://patents.google.com/patent/US2869095A/en

 

 

 

United States US2869095A Electrical connector with positioning ribs 

 

 

Cannon Electric Audio Plugsのカタログ。1965年。XLRは5ピンまである

 

 

そもそも、型式「XLR」とは何でしょうか?

ヒントはこちらのカタログにありました。

 

●【PDF】Cannon RJC-8-1955 catalog(下記2リンク同じものです)

casa.co.nz/electrics/rela

https://rtellason.com/catalogs/Cannon.pdf

 

Type X = Xシリーズの始祖、ロック機構無し

Type XL = Xシリーズにラッチロックを加えたもの。恐らくXシリーズのラッチ付きだからXL。

Type XLR = XLシリーズのメス側に弾力性のあるゴムを採用したモデル。恐らくXLシリーズの弾力(Resilient)モデルだからXLR。

ITT CANNONのラインナップとしてはXLRはXLシリーズの派生として存在します。よって、カタログ上はXLシリーズと表記されます。過去にはXLA、XLPなどがありました。

但し、「XLR」は2004年にIEC-61076-2-103-2004で定義されており、本来の型式の意味は失われています。よって、ラッチ無しでも、ゴム素材でなくてもXLRはXLRです。

 

 

Cannon Electric Type X

 

 

Cannon Electric Type XL

 

 

Cannon Electric Type XLR。当初は3ピン、4ピンというラインナップ

 

 

~1968年くらいまではマイクコネクタ戦国時代で様々なメーカのコネクタが採用されています。この辺りは下記リンクのカタログを見ると面白いと思います。

 

 

●昔のプロオーディオ機器のカタログアーカイブサイト
http://www.technicalaudio.com/pdf/

※このアーカイブも凄まじい情報量です

 

こちらの

http://www.technicalaudio.com/pdf/Electronics_Catalogs/
ここに総合カタログがあります。

 

●Preservation Sound information and ideas about audio history

Tag: vintage microphones ビンテージマイクロフォンのカタログサイト

http://www.preservationsound.com/category/microphones/

※もはやマイクコネクタ見本市です

 

 

総合カタログやビンテージマイクロフォンカタログを見て見ると、1965年のSHURE製品ではアンフェノールマイクコネクタが主流でXLRが選択式なのに対し、1967年のカタログでは徐々にXLRに移行していく様子が見れます。歴史はこうやって作られるのですね。

 

 

1965年SHUREカタログ。リングロック式のアンフェノールマイクコネクタが採用されている。Shure Model 578は578SというCannon XLコネクタモデルがあるとの記載がある

 

 

Shureに採用されていたリングロック式 Amphenol シリーズ91 91-MC3F マイクロホンコネクタは下記で紹介しています。

Blog内参考リンク:

 

 

 

 

1965年SHUREカタログ。SM57は直にXLRが差し込める

 

 

1967年SHUREカタログ。SM58が登場している、こちらも直にXLRが差し込める

 

 

こうした経緯から日本にもXLRコネクタが輸入されるようになり、1971年に社団法人 日本民間放送連盟 NAB技術規準 R005-1971 キャノン形コネクタの接続に関する推奨規準NHK放送技術規格(BTS) 4116 丸形ラッチ式コネクター接続方法でXLRの配列とピンアサインが定義されました。

※両規格で2番がホットと指定されています。ちなみにNHK放送技術規格(BTS) 0041(1965) 音声線路の極性、で黒白以外の色をホットとするとしています。

※昭和51年(1976)にNHK放送技術規格(BTS) 4116 丸形ラッチ式コネクター接続方法は0302 丸形コネクターの接続方式に統合され、メタコンとXLRは同規格定義になります。

 

 

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ホット・・・・黒白以外の色、端子番号:小さい番号
コールド・・・白、端子番号:大きい番号
アース・・・・黒、端子番号:末尾の番号

参考呼称:ホット=ライヴ、コールド=デッド、アース=グラウンド

(但し、1番が他のピンより先にコンタクトをするためGNDと決まっているXLRが加わる前の規格である)

 

NHK放送技術規格(BTS) 0041(1965) 音声線路の極性、より引用

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NHK放送技術規格(BTS) 4116 丸形ラッチ式コネクター接続方法、より引用。コンタクト数3の場合の接続方式種別(1976年に0302 丸形コネクターの接続方式に統合)

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解説
2. 主たる点の説明
(3) コネクタの使用方法
音源からみて、米国では入力にメス形、出力にオス形、欧州では、入力にオス形、出力にメス形を用いているが、昭和41年に取り決めた「マイクコードの接続についての申し合せ」があり、さらに各社ヘアンケートの結果、入力にオス形、出力にメス形を用いている社が多く、またキャノン形コネクタの多様性を利用できることから、入力にオス形、出力にメス形を採用した。

 

社団法人 日本民間放送連盟 NAB技術規準 R005-1971 キャノン形コネクタの接続に関する推奨規準、より引用

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会館(演奏所を含む)および中継車に関するおす形コンタクトと、めす形コンタクトの配置は次の例による。

 

・普通のスタジオ・・・めす(F)出力、おす(M)入力

・※ファントム化スタジオ・・・おす(M)出力、めす(F)入力

 

※多数のコンデンサーマイクを卓電源によって動作させそれ以外のマイクロホンを使用しないスタジオのことをいう。

(副調整室、中継車は全てめす(F)出力、おす(M)入力と記載されている)

 

NHK放送技術規格(BTS) 4116 丸形ラッチ式コネクター接続方法、より引用

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但し、1971年に定義されたNHK放送技術規格(BTS) 4104 丸形コネクターで、通称BTSメタコンのレセプタクル側はピン、ケーブルに取り付けるものはソケットの通例からファンタム電源を多数使用しない普通のスタジオではXLRのメスが出力、オスが入力とされました。これが原因でNHKではかつてXLRのオスメスが逆転していた様です。(そもそもBTSメタコンはレセプタクル側をメスにする事が構造上不可能)

※2021年2月追記 社団法人 日本民間放送連盟 NAB技術規準 R005-1971 キャノン形コネクタの接続に関する推奨規準でも「入力にオス形、出力にメス形」が定義されている事が分かりました。NAB技術規準 R005-1971は昭和46年2月制定、NHK放送技術規格(BTS) 4116は昭和46年4月7日制定です。これはNHKに限った事ではなく、XLRコネクタは「入力にオス形、出力にメス形」が採用されていたという証拠でしょうか・・・

 

 

主要な歴史は以上です。XLRの歴史を以下に年代別に箇条書きします。

 

海外

日本国内

 

1915年    Cannon Electric Co. 設立
1920年    
International Telephone & Telegraph創業、ITTの前身
1932年    
Amphenol設立
1937年    
ヒロセ電機株式会社設立
1946年    
Switchcraft, Inc.設立
1948年    Canon XLの原型、UAタイプの特許出願。Electrical connector
1953年    Cannon Type D subminiatureを開発。(D-sub端子はCannonが作りました)
1953年    
日本航空電子工業株式会社設立
1954年    Cannon Type XLR誕生
1964年    
USA特許で出願会社名がCannon Electric Co.からITT CANNONに変わる

1971年    NAB技術規準 R005-1971 キャノン形コネクタの接続に関する推奨規準メス出しオス受け2番ホット

1971年    NHK放送技術規格(BTS) 4116 丸形ラッチ式コネクター接続方法。メス出しオス受け2番ホット
1975年    
Neutrik 設立、XLR販売
1976年    US2869095A XLRの特許が失効
1978年    日本へのノイトリック製品輸出が始まる
1979年    
株式会社キャノンJAE設立。米国ITTCannon Electric社と日本航空電子工業株式会社との合弁会社として、発足
1981年    Neutrikがオスメスも開口寸法が同じXLRレセプタクルの特許を出願

1981年    株式会社キャノンJAE、音響機器用のコネクタXLシリーズの販売・国産化を開始

1985年    株式会社キャノンJAE、株式会社アイティティキャノンに社名変更。日本航空電子工業株式会社の所有する当社株式の譲与を受け、米国ITTCannon社の100%子会社となる
1992年    AES14-1992、XLRのオス出しメス受け2番ホットを制定
1996年  
 日本法人ノイトリック株式会社を設立

1999年   EIAJ RC-5236 音響機器用ラッチロック式丸形コネクタ。(旧:RCX-5232)

2004年   IEC 61076-2-103:2004 。IECでXLR定義

※各社の沿革を参考にしています。

 

 

上記年表のいきさつから、ITT CANNON XLRは「CANNON表記」、「JAE表記」、「CANNON JAE表記」、「ITT CANNON表記」があるようです。皆さんのお手持ちを確認してみてください。

 

 

2020年現在確認が出来ているXLRコネクタのピン配列をまとめてみました。

 

XLRコネクタのピン配列

※XLR LNE ACという電源専用コネクタがかつては販売されていました。現在では販売終了しています。これはITT CANNONだけではなく、Neutrikからも販売されていました。こちらも検索してみるとebayにあります。(ebayなんでもあるな・・・)

 

 

XLRコネクタの歴史はここでおしまい・・・と行きたいところですが、現在のXLRを語る上ではNeutrikの貢献を外す事が出来ません。下記からはNeutrikの話です。

 

 

Neutrikは、は1975年にBernhard Weingartner(元AKGエンジニア)とNeuElektrik AGの所有者、Gebhard SprengerおよびJosef Gstoehlによって設立されました。社名のNeutrik(ノイトリック)はNeuElektrik(ノイエレクトリック)から取られているのでしょう。NeuElektrik AGは現在もリヒテンシュタインに存在する会社で、2020年現在、Neutik AGと隣接しています。

※ Neue(ノイエ) = 新しい、Elektrik(エレクトリック) = 電気、ドイツ語。余談ですがNTi Audio AG(旧 Neutrik Test Instruments)も元々Neutrikの為、NeuElektrik、Neutrik、NTi Audioは本社が400m圏内に存在します。

 

驚くべきはXLRコネクタを作るために設立された会社で、設立と同時にプロトタイプのXLRコネクタを作成します。翌年の1976年はUnited States US2869095A(Cannon Electric Type XLR)特許失効のタイミングですのでこれを狙っての事でしょうか。Neutrikの目的は Our main objective is to be „one step ahead“ で、「一歩先を行く」事です。

 

 

参考リンク:

●Reportage 40 Jahre Neutrik AG(Neutrik AGの40年間のルポルタージュ)

https://www.myownmusic.de/Professional_Audio/news/show?newsid=3717

 

 

Neutrik創業当時のXLRコネクタ、Type Cシリーズ(2015年のカタログより)

筆者は元々ピュアオーディオ店で働いていましたが、このコネクタを見た覚えがあります。

 

 

Neutrikの1980年頃のXLRコネクタラインナップ

 

 

●【PDF】1980年頃のNeutrikのカタログ

http://lcweb2.loc.gov/master/mbrs/recording_preservation/manuals/Neutrik%20Connectors.pdf

 

Neutrikは1983年に、ITT CANNON社製品では不可能だったXLRのオス・メスレセプタクルの取り付け開口穴の統一を行います。これが販売されるまで、XLRのレセプタクルの開口穴はオスとメスで変えなければなりませんでした。

 

 

ITT CANNON XLR-3-31とXLR-3-32を使用したパッチ盤の背面。両者は開口寸法が違うため、オスメスをひっくり返すことが容易ではない(筆者撮影)

 

 

Neutrik Dシリーズレセプタクル。オスメスの開口寸法を統一した

 

 

ITT CANNON XLRレセプタクル開口寸法。F77はNeutrik Dシリーズの後に作られた規格

 

 

以下がNeutrikのDレセプタクルの特許出願です。

 

●United States US4392699A Electrical connector
https://patents.google.com/patent/US4392699A/en

 

 

 

United States US4392699A Electrical connector

 

 

このレセプタクルは筐体の前面だけではなく背面からの取り付けもが可能です。

IEC-61076-2-103-2004ではITT CANNONをSize 1M、1F、NeutrikをSize 2として両方が開口寸法として定められている。ITT CANNON F77は国際規格であるIEC-61076-2-103-2004に含まれていません。反対に日本国内規格であるEIAJ RC-5236にはNeutrikのDレセプタクルは含まれていません。

 

 

Neutrik XLRの歴史。2015年のカタログより。ビス不要のXシリーズは1983年発売で時間をかけ、業界を一変させた。

※maxCONは次世代マイクコネクタ。2014年特許出願、意匠:USD755720、詳細:US9401565B2。

 

 

2004年にIEC-61076-2-103-2004「電子機器のコネクタ-第2-103部:円形コネクタ-多極コネクタ(タイプ'XLR')のレンジの個別規格」でXLRが定義された際は、1954年からXLRの改良を一切行わないITT CANNONではなく、絶えずXLRの改良・音響映像コネクタの発展を行っているNeutrikがほぼ主導権を握っています。

※ITT CANNON側の事情としては、XLRの急速な標準化(規格化すると細部を変更できない)、航空・宇宙開発への事業移行などがあるようです。ただ、あれほどの熱量で音響用コネクタを開発しシェアを獲得、現在も日本で生産されているのになぜ・・・とも思います。

 

規格名称:IEC-61076-2-103-2004 電子機器のコネクタ-第2-103部:円形コネクタ-多極コネクタ(タイプ'XLR')のレンジの個別規格

IEC規格はこちらで購入が可能です。

https://webdesk.jsa.or.jp/books/W11M0090/index/?bunsyo_id=IEC+61076-2-103+Ed.+1.0%3A2004

 

 

Cannon Electricが作ったXLRコネクタをNeutrikが未来に繋げる。以上がXLRの歴史です。

 

 

本記事を書くにあたり、 東京光音電波株式会社様、株式会社Aizaki様、株式会社日本ビデオシステム様、株式会社NHK出版様、質問回答、資料提供ありがとうございました。

 

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