弾薬不足のうえに最前線に届けられないダブルパンチ

 以上はあくまでも南部戦線への補給路が、南部戦線の横断ルートに限られると考えた場合で、実際はクリミア半島経由のルートがある。

 南部戦線との間には幹線道路3本、鉄道路線2本がそれぞれ走り、南部戦線西部のドネツク、ザポリージャ両州への物資補給はむしろこのルートを使うはずだ。鉄道はヘルソン左岸部分やメリトポリなど中心都市までほぼ直線で通じているため、貨物列車輸送もかなり効果を発揮しているだろう。そしてこれらを総合的に考えれば、前述したような南部戦線への補給物資輸送の困難さはある程度軽減できそうである。

 ただしクリミアとロシア本土を結ぶクリミア大橋(鉄道橋と自動車橋が並行して架かる)がアキレス腱で、実際今年10月上旬にウクライナ軍の攻撃により大破し一時通行不能に陥っている。

 さらに世界屈指の産油国でウクライナとは陸続きという利点を生かし、前線への燃料輸送はM14国道に沿う形でパイプラインを埋設して輸送の効率化を図っている可能性もある。これなら補給物資の相当部分を占める燃料をトラックや鉄道が運ぶ負担も軽くなり、輸送資源を他の補給物資輸送に振り向けることができる。

 このように最前線で戦うロシア軍部隊を支えるには、どれだけの物量と手間暇やコストが必要か、ある程度理解できるかと思う。

 しかもNATO軍の兵站部門や日本の物流業界では今や常識のFRID(非接触で貨物データが読み取れるICタグ)や、GPSを使った貨物のトレーサビリティ(追跡システム)といったDX、デジタル化もロシア軍の兵站部門は大幅に遅れており、それ以前に輸送が効率的なコンテナやパレットの普及率も相当低いだろう。

弾不足も深刻なロシア軍(写真:Russian Defense Ministry Press Service photo/AP/アフロ)

 さらに今回の計算はあくまでも「南部戦線」だけで、実際はこれに東部戦線の補給物資輸送も重くのしかかる。巷間噂される弾薬そのものの不足に加え、その弾薬が最前線に届きにくい弾不足のダブルパンチを受けている可能性も高い。

 果たしてロシア侵攻軍は今後まともに戦い続けられるのだろうか。