「鉄道」「船」による輸送も役に立たず

 では「鉄道」の利用はどうか。最も効率的な40フィート・コンテナ1個を積載する貨車を使用したと仮定してみよう。シベリア鉄道では100両編成の列車も普通だが、ここでは半分の50両編成で計算する。

 貨物列車1本の輸送量は「15トン×50個=750トン」なので、1日に必要な「補給物資1万5000トン」に応えるには毎日20本の貨物列車が必要。同じく往復を考えればこの2倍、40本は欲しいところ。前線から比較的離れた拠点の貨物駅まで運ぶ「拠点間輸送」に徹し、ここから前線までの「ラスト・ワンマイル」は前述の軍用トラックがリレーする方式が無難だ。

 だが、残念なことに南部戦線を海岸に沿って東西に横断する線路は実は存在しない。内陸を走る路線はあるにはあるが、ウクライナ軍と対峙する前線近くをくねくねと蛇行し、しかも途中で寸断されているようで、役立ちそうにない。陸続きの本国から直接鉄道輸送できればロシア軍もかなり楽なのだが、現実はそう思い通りにはならないようだ。

 では船による輸送はどうか。基本的にロシアの事実上内海・アゾフ海を貨物船で横断して南部戦線に補給物資を運ぶという発想で、これなら大量の荷物を効率よく輸送できるだろう。貨物船はロシア国内の河川・運河で多数活躍する細長の内航用貨物船(貨物積載量5000~1万トン)を10隻も徴用してピストン輸送すれば事足りそうな気がする。

 だがこちらも実際は厳しい。南部戦線側は港が極端に少ないのが「玉に瑕」で、砂州と砂浜が延々と続き天然の良港に乏しいため、まともな貨物船が入港できる港は2~3カ所しかない。しかも埠頭やクレーン、フォークリフト、倉庫といったインフラも脆弱で鉄道や道路とのアクセスもいいとは言えない。

 つまり港に荷揚しても補給物資は野積み状態で滞留する可能性が高い。なお黒海まで出張っての海上輸送は、ウクライナ軍の脅威が格段に増すためさすがのロシア軍も敬遠しているようである。

 一方、前述した港湾インフラの貧弱さ以上にロシア軍にとって悩ましいのが、ウクライナ軍による対艦ミサイルやドローン攻撃を使った貨物船へのピンポイント攻撃の脅威で、このため貨物船による輸送はあまり活発に行っていないようだ、との指摘もある。

ロシア軍の戦艦「アドミラル・マカロフ」(写真:Abaca/アフロ)

 実際、港に停泊中のロシア海軍揚陸艦が攻撃を受けて大破した他、黒海艦隊の旗艦だったミサイル巡洋艦「モスクワ」がウクライナ軍の対艦ミサイル攻撃で撃沈。さらに今年10月には同艦隊の拠点・セバストポリがウクライナ軍の水上ドローン攻撃に遭いフリゲート「アドミラル・マカロフ」(「モスクワ」亡き後旗艦に昇格)がダメージを受けている。「貨物船を使って軍需物資を輸送したらどうなるか分かっているだろうな」との、ある意味ウクライナ側の“無言の警告”のようなものだ。