陸軍兵士1人が戦場で必要な「1日分の物資量」は?
ではロシア軍は一体どれほどのボリュームの補給物資が必要なのか。これを具体的に提示するメディアはほとんど見かけない。実際の数字は極秘なので推測かつ大雑把にならざるを得ず、もちろん部隊の規模や種類(兵種)、武装や気候・季節、展開地域などの条件で補給物資の必要量は大きく上下する。そのためこれから提示する数値は、あくまでも目安程度に捉えていただきたいのだが、その数字が想像する以上に膨れ上がることに驚くだろう。
「陸軍兵士1人が戦場で1日に必要な物資の量」については、防衛大学校・防衛学研究会が「現代の兵士の場合90~100kg/日で、うち食糧は2.9kg、水は9kgを占める」と定義している。
水は飲料用のほか炊事や洗濯、入浴、各種洗浄などにも使われ、その分も加味している。また全体の約6割は「燃料」で兵士1人が毎日54~60kgの化石燃料を消費する計算だ。近代的な欧米型の陸軍部隊は戦車・装甲車、各種車両を多数保有するからで、キャタピラ(装軌)式の戦車・装甲車は恐ろしく燃費が悪い。
また別の資料によれば、戦車や装甲車を多数従えたロシアの機械化師団(自動車化狙撃師団)が攻撃態勢に入る時に必要な補給物資は2000~2200トンと指摘する。1個師団が概ね1万5000人とすれば、兵士1人あたり「130~150kg/日」となる。
次にロシア軍の総兵力を推測すると、陸軍、海軍歩兵部隊、空挺軍の正規軍兵力は「15万人」との観測が一般的で、これに別組織のロシア国家親衛隊や親ロシア派民兵、民間軍事会社ワグネルの傭兵、チェチェン・カディロフ部隊などが加わる。これらを総合するとロシア軍は20~30万人だと考えられる。仮に「25万人」だとすれば、
・東部戦線(ドンバス方面)/15万人
・南部戦線のヘルソン地区/7万人(ドニプロ川西岸のヘルソン市に展開していた兵力を欧米は3~4万人と推計)
・他の南部戦線全般/3万人
といった配置が当たらずとも遠からずだろう。補給で最も苦労しているのは、恐らくロシア本土から離れた南部戦線だと思われる。
そこでシミュレーションとして仮に「1人150kg/日」を当てはめると、南部戦線計10万人(7万人+3万人)で必要な補給物資は「1万5000トン/日」となる。南部戦線はアゾフ海沿いに幅100~150kmのベルト状で西のヘルソン州まで伸びる。つまり150km内陸に入った辺りが最前線だ。
そしてここに補給物資を届けるには、アゾフ海の最奥部にあるロシア領内の港湾都市ロストフナドヌが一大拠点となるはずで、ここからウクライナに入り、マリウポリ~メリトポリ~ヘルソンとアゾフ海沿いに走るM14国道が幹線道路となるだろう。全長は約550kmだ。なお東西に走る道路は内陸にも何本かあるが、ウクライナ軍砲兵部隊の射程内のため頻繁には使えないだろう。
M14国道から枝分かれし内陸へと北上する道路のうち、まともなものは10本程度で、これが事実上の主要補給ルートとなるはずだ。「Google Earth」を見れば分かるが、ウクライナは地平線が拝めるほど平原が広がっているものの、西欧と比べてまともな道路が極端に少ない。高速道路の総延長も200kmほどにとどまるお国柄だ。