目次
本マニュアルの目的
まずはじめに知ってほしいこと
本サービス運営における絶対防衛ライン
相談事業におけるリスクについて
相談受け手としての姿勢
受容
共感的理解
自己一致
「今、ここで」起きていることへの集中
ユーザーとのやりとりの流れ
〜やりとりの始まりまで
やりとり開始〜会話
やりとり終盤
終わりの挨拶
緊急時の対応について
緊急事態とは?
対応の流れ
相談を受ける上での参考となる補足資料
SNS相談事業の事例
ゲートキーパーについて
メールカウンセリングの心理的な機能
1. 本マニュアルの目的
本マニュアルは「メンヘラせんぱい」を運営するにあたって、ユーザーから相談を受ける方(以下、相談受け手)に持っていただきたい心構えや実際の運用の流れなどをまとめたものになります。よくお読みになった上で、本サービスでの業務を進めていただくようお願いします。大きく目的は以下の二点です。
1. サービス運営における絶対防衛ライン及び相談事業におけるリスクの認知
2. 悩みを抱えた人(=ユーザー)と接する上での姿勢とある程度の流れのインプット
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2.まずはじめに知ってほしいこと
本節では、相談の受け手の皆さんが実際に本サービスで相談を受ける前に、知っていただきたい項目を記載しています。
2.1.本サービス運営における絶対防衛ライン
本サービスでは、社名やサービス認知において「メンヘラ」というワードを用いていることもあり、メンタルに何らかの不調を抱えたユーザーが利用する可能性が想定されます。したがって、必ずしも起こるわけではありませんが、本サービスの利用によってユーザーの心や身体に何らかの影響を与え得ます。最悪の場合、自殺の助長ということも無いとは言い切れません。最悪の事態が発生すると、社会的信頼の失墜のみならず、補償のために多大な損失をうむ可能性もあり得ます。
ここまでを踏まえて、本サービスは、
本サービスを利用することによる自傷他害を起こさない/促進しないこと
を絶対防衛ラインとして定めています。
[補足]マイナスな感情にユーザーが触れることについて
行動としてのマイナスな出来事(自傷など)は起こしてはいけませんが、思考や感情としてのマイナスな出来事は必ずしも悪いこととは限りません。後述しますが、思考や感情で負の方向へとユーザーが捉え出している時は、そのことは闇雲に否定せずに、そのままを受け入れるというワンクッションを挟みましょう。
2.2.相談事業におけるリスクについて
現在、オンラインでの相談を受ける事業やサービスは広まりつつあります。本サービスは、相談を受け入れる体制および緊急時の他機関への接続などにおいて十分とは言い切れない点があります。相談受け手である皆さんと運営側とで、相談事業のリスクなどを考えられたら、と思っています。本サービス運営におけるリスクをいくつかの観点から並べましたので、どういった影響を与え得るのか、把握のほどよろしくお願いします。
<対ユーザー>
ユーザーが自傷他害をはじめとした、生死や法に触れる行動を助長する可能性がある(詳しくは2.1.参照)
<対相談受け手(せんぱい)>
自身の精神的健康への悪影響を及ぼし得る(特に、十分に訓練されていない場合)
<対社会>
相談受け入れサービスとしての位置付けを考慮した際、他サービスなども含めて社会的な信頼を失墜させ、社会レベルでの精神的健康における不利益をもたらし得る
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一部の記載ですが、まだまだリスクは潜んでいます。こうしたリスクを踏まえた上で、相談受け手としての責任感を持って臨んでいただけますと幸いです。以上が相談受け手としてまず最初に知っておいていただきたい「守り」となります。
3.相談受け手としての姿勢
本サービスはカウンセリング事業ではありませんが、悩みを抱えた人が相談にくるという点において、カウンセリングやそれに類する場と同じ接し方がある程度効果的であることが予想されます。そこで、本節では相談受け手として持っていただきたい姿勢をご紹介します
3.1.受容
目の前のユーザーが感じていること、体験していることをそのままに受け入れましょう。その際、相談受け手の方自身の善悪の判断基準などは一旦考えず、常に肯定的な関心を持ちながら話を聞く姿勢を持ってください。
🙆♂️良い会話例
ユーザー
「どうしても彼氏が私を置いて遊びに行く(=体験) のが許せない(=感情・思考)!」
せんぱい
「許せないと思っているんですね」
「どうして許せないとお思いになるのか、詳しく教えていただけますか?」
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3.2.共感的理解
相手の立場に立って、ユーザーの話を聞いてください。これは「ユーザーの話や体験に100%共感しろ」という意味ではなく、もし相手の状況を自分が経験したとしたら、それは辛いだろうな...という共感「的理解」を心がけてください。
例えば、仕事も全くうまくいかず、誰に相談しても「お前が悪い」と言われ、大好きな彼氏もちょっと浮気めいている女性がいたとしたら、「それは誰かに相談したくもなるよな...」と思うことでしょう。そうした、ユーザーの体験をベースに共感的理解の姿勢を持ってください。
🙆♂️良い会話例
ユーザー
「最近彼が構ってくれない。嫌われてるのかも」
せんぱい
「そうだったんですね。それはすごく辛いですよね」
「彼のどんな態度が自分を嫌っているかも、と感じさせたのですか?」
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[補足]友達への悩み相談との違いについて
一般に、(知り合いなどとの)悩み相談とカウンセリングの違いは「自分の体験の引用があるか否か」にあると言われています。悩み相談の場では、聞き手が自分の経験を元にアドバイスすることが多く、これは「共感」に分類されます。(例:「あ〜それ分かる!私の場合だと〜〜〜!」のような、自身の経験を元にした頷きと会話の展開)
相談受け手のみなさんには本サービスでは、ユーザーに近しい立場でありながら第三者の視点で傾聴したり問題行動を減らしたりといった行動をとっていただきたいため、すぐに自分の経験に照らし合わせないスタンスを持ち、「共感」ではなく「共感的理解」の態度を持って接していただくようお願いします。
3.3.自己一致
平たくいうと、真摯な態度でユーザーに接しましょう、ということです。例えば、わかっていないことを放置したままとりあえず相槌だけ打つ、自分をよく見せようと適当なアドバイスだけを伝えるなどといったことは、自己一致に反します。あくまでも、一人の人間として目の前のユーザーに接しているという感覚を忘れないでください。相談の場において、上下関係は存在しない、と心がけると良いかもしれません。また、当然ではありますが、丁寧な言葉遣いをするといったことも忘れないようにしましょう。
ユーザーの中には、すぐアドバイスを求める人もいると思われます。「〇〇さんはどう思いますか?」と相談受け手に聞いてきた時には、素直であること(=自己一致)を前提とし、必要最低限のことだけ返しましょう。ここでいう必要最低限のこととは、相手の出している話題や世界観を保持したまま話しましょう、ということです。具体的には、受け手の話にすり替えてはいけない(私の場合は〜〜だったから、〇〇したら良いと思う!など)ということです。
🙆♂️良い会話例
ユーザー
「すぐリスカしてしまうのですが、〇〇さんはこのことをどう思いますか?」
せんぱい
「そうですね・・・率直にいうと、リスカという行為自体は望ましいとは言いにくいです。ですが、リスカするほど苦しい状況なのはうかがえます。何に対してお辛い思いを抱えているのか、少し具体的にお聞きしても良いですか?」
🙅♂️良くない会話例
ユーザー
「すぐリスカしてしまうのですが、〇〇さんはこのことをどう思いますか?」
せんぱい
「私がリスカしていた時は、とても辛い時だったから別に悪いことじゃないと思うかな。」
→自分の話題に変えている上に、絶対防衛ラインに反する返しとも言えます。
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3.4.「今、ここで」起きていることへの集中
悩みを解決したりユーザーがより心的に安心したり成長したりするためには、今この場でおきているユーザーの状況をしっかりと把握することが大切です。しかし、不必要な情報収集は時間的コストも莫大になる上、ユーザーへの負担も多くなってしまいかねません。そこで、目の前のユーザーさんが「今、ここで」苦しんでいることや課題についての質問や情報収集を心がけるようにしてください。
🙆♂️良い会話例
ユーザー
「とにかく苦しい。どうしたらいいのか分からない。」
せんぱい
「苦しくてたまらないんですね。どんなことに苦しいと感じますか?」
🙅♂️良くない会話例
ユーザー
「とにかく苦しい。どうしたらいいのか分からない。」
相談受け手
「苦しいんですね。いつから苦しいと感じるのですか?」
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コツとしては、「時間軸をすぐに過去にずらさない」「客観的なデータの収集に安易に走らない(相談の場は診断の場ではない)」ことなどが挙げられます。
4.ユーザーとのやりとりの流れ
ここからは、実際のユーザーとのやりとりにおける一連の流れをご紹介します。あくまでも核となる部分のみですので、実際の会話の場における臨機応変なご対応をよろしくお願いします。
4.1.やりとりの始まりまで
リクエスト時のアンケートを確認し、ユーザーがどういった人なのか、どんなことで悩んでいるのかの想定したり、質問したい点を考えたり(※3.4.の観点を忘れずに!)してください。
相談データは以下のような構成となっています。
年齢(※ユーザーによっては非公開の場合もあり)
特に一番話したいことはこの中でどのジャンルですか?(恋愛/雑談/人間関係/仕事・勉強/その他)
具体的な相談内容や事前に共有したいことがあれば記入してください
せんぱいの話し方について(タメ口/敬語)
チャット中の雰囲気について(楽しい/落ち着いた)
顔文字・絵文字について(あり/なし)
返信のスピード(すぐに/普通/ゆっくり)
求める対応(肯定して欲しい/率直な意見が欲しい)
相談以外の話について(相談以外も話したい/相談のみしたい)
触れて欲しくない話題やつかってほしくない言葉があれば教えてください
4.2.やりとり開始〜会話
① 挨拶メッセージ
相談時間が始まったら、簡単な挨拶と自己紹介を行ってください。
② ユーザーの悩みについて会話を始める
アンケートにある「聞いて欲しい話」から悩みや相談したいことを改めて確認しながら、ユーザーとのやりとりを本格的に始めてください。確認と同時に、もし他にもっと困っていることがあればそちらを話しても良いことも併せて送信をお願いします。その後、もし取り扱うことが変わった場合にはそちらへの対応に専念してください。
メッセージ例
「リクエスト時のアンケートの**(アンケートに記載)について聞いてもいいですか?」
「もし、**よりも〇〇さんが話したいと感じることがあれば、そちらについてお話する時間にもできますが、どうでしょうか?」
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悩みの確認後は、3.でご紹介した観点を元にユーザーの悩みを聞いていってください。変に焦って解決を目指そうとせずに、「今、ここで」ユーザーが悩む事柄をどっしりと構えて気長に応対してください。
[補足]やりとりを進める上で抑えて欲しいポイント
ユーザーとのやりとりを進める上で重要なポイントをいくつかご紹介します。
① 共感的理解を元にした返事の後には、具体的な状況を尋ねてみる
「辛い経験をされたんですね。」などといった共感的理解を元にした返事をすると、そのままチャットが止まってしまう可能性も考えられます(特にチャット初期段階)。そのため、上記のような返しをした後には、「具体的にどのように辛いと感じていますか?」というような、ユーザーが抱える悩みを深めるための質問をしてみるように心がけると、会話がピタッと止まるのを防げることが多いです。なおその際には、「今、ここで起きていることへの集中」を忘れずに!
② ユーザーが話した内容からキーワードを拾い、メモしておく
ユーザーの話が一体何に関するもので、何に悩んでいるのかを整理するためにどこか目に付くところにメモしておきながら話を進めると、一貫してユーザーの「今、ここで」に集中できます。(※特に悩んだ人は、話が右往左往しがちなので、その場合は一旦言いたいことを全部言ってもらった上で、一体どこに悩んでいるのかをトーク履歴を見ながら1つ選んでもらうように促すと効果的です。)
③ 「はい」「いいえ」で答えられる質問はあまりしない
ユーザーからあまり多くの情報を得られず、会話が膨らまないのでオススメしません。
④ 人の悩みの大半は「人間関係」であることが多いということを押さえておく
おそらくユーザーの大半が恋人や夫婦問題などの男女関係について悩みを抱えていると想定されます。ですが、その悩みの現れとして「自分の性格に悩んでいる」などといった、自己の内面について悩むケースも少なくありません。悩みを深めていく場合には、「そこに誰が関係しているのか」を大きな観点の一つとして持っておくとより効果的なサービス提供に繋がり得ます。
⑤ 精神疾患などの心の病について専門的助言をしない
ユーザーによっては、病院・クリニック等でうつ病などの診断を受けている、または今後診断を受けようとしている人もいるかもしれません。そういった人から、「うつ病について教えて!」のような専門的な意見や助言を求められる可能性も考えられます。本サービスはそういった専門的意見を提供するものではないので、そういった意見や助言などをしないようにお願いします。特に精神的な病は「人によって現れ方がそれぞれである」ということを大事な観点として踏まえた上で、下記のような返答をお願いします。
メッセージ例
「〇〇さんはうつ病だと診断されているんですね。そのうつ病というのは、どういう形で普段〇〇さんに現れていますか?例えば、〜〜のことを考えると動悸が激しいとか、頭が痛くなる、とか・・・」
「〇〇さんはうつ病かもしれないとお考えなんですね。その背景にどんな経験があるのか、お聞きしてもよいですか?」
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4.3.やりとり終盤
相談終了5分前になったら、感想を聞き、最後に話したいことなどがないかを確認してください。簡単に自分の感想も添えたり、話した内容をまとめられると良いです。
メッセージ例
「あっという間に残り時間5分となってしまいました。残りわずかですが、話足りないことなどはありませんか?今日は、〇〇さんとお話にできて良かったです。」
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4.4.終わりの挨拶
相談終了後、感謝の気持ちを伝えてください。話の流れによっては、相談時間終了までに4.3のようなやりとりが行えない場合があるかと思いますが、その際はこのタイミングで、感想なども一緒に伝えてもらえると良いかと思います。
メッセージ例
「短い時間でしたが、今日はお話していただきありがとうございました。
〇〇さんが**できるよう応援していますね!
普段は平日の23時ごろから待機していることが多いので、よければまたお話しにきてくださいね。」
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5.緊急時の対応について
ここでは、緊急事態における対応としてお願いしたいことを挙げています。しかし、どのような事態が起こるのかはその時々によって大きく変動し得るため、ある程度相談受け手の方の臨機応変さが求められることにもなる点は踏まえてください。
5.1.緊急事態とは?
社名やサービス名等で「メンヘラ」というキーワードを使用しているため、メンタルに不調を抱えているユーザーの利用を少なからずあると考えられます。万が一の事態ではあると思いますが、ユーザーが感情に振り回され、正しい判断力・行動を失い、自傷行為や自殺をほのめかす発言を行った場合は以下の対処を行なってください。
5.2.やりとりの流れ
まずは下記の対応を行っていただき、チャット終了後運営までご連絡ください。
心配していることを伝える
率直に自殺や死という言葉を出して心配している気持ち、死んでほしくない気持ちを伝えましょう。
メッセージ例
「あなたが自殺してしまうのではないかと本当に心配です」
「死ぬことを考えていらっしゃるのではないかととても心配です」
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自殺願望について率直に尋ねる
自殺願望があるかどうか、少し表現を足して尋ねてください。
🙆♂️良い会話例
「自殺をしてこの苦しみから解放されようと考えていますか?」
「自殺の方法について考えていらっしゃいますか?」
🙅♂️良くない会話例
「自殺したいですか?」 →直球すぎます。
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絶望的な気持ちを傾聴する
どうにもならないような深い絶望感、無念、後悔、苦しみなどを傾聴し、受け止める。ネガティブだからといって反論しようとしたり、ポジティブな考え方を性急に押し付けたりしないように注意しましょう。この場合は、解決しようとせず「ただ寄り添う」姿勢を忘れないようにお願いします。
以上、簡単ではありますが、緊急時に最低限お願いしたいことになります。
6.相談を受ける上での参考となる補足資料
6.1.SNS相談事業の事例
上記は実際のテキストベースでのカウンセリングの事例紹介です。
各ケースの資料の、左半分が相談者と相談員のやりとりになるので、そちらをお読みの上、どのような対応をするのか、どのようなスタンスでいるのが望ましいのかを学んでいただけると幸いです。
また、もし余裕があれば右半分のガイドラインとの対応について、自殺対策におけるSNS相談事業ガイドラインを参照して読んでみると、さらに深まると思います。併せて、本資料も参照するとより良いと思われます。
6.2.ゲートキーパーについて
メンヘラせんぱいでの活動中はもちろん、実生活でも周りの人を助けるきっかけになり得る、厚生労働省の「ゲートキーパー手帳」をご紹介します。
ゲートキーパーとは、自殺の危険を示すサインに気づき、適切な対応
(悩んでいる人に気づき、声をかけ、話を聞いて、必要な支援につなげ、見守る)を
図ることができる人のことです
※厚生労働省ホームページより引用
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まずは、悩みを抱えている人に気付いて声を掛け、心配していることを伝え、話せる環境を作って傾聴すること。専門家に相談するよう促し、専門家につないだ後も温かく見守ること。これがゲートキーパーの主な役割です。
専門的な知識がなくても、これらを実践することで、誰かを助けることができるかもしれません。
より詳しい内容は、以下のリンク先にある「誰でもゲートキーパー手帳 第二版」から確認することができます。
6.3.メールカウンセリングの心理的な機能
メールカウンセリングのメリット
①文章を作成すること自体が相談者にとって自己の感情表現を促進するカタルシス機能を有する
②問題を整理して客観的に見つめなおすことができる
③文章化することで自己の気づきが得られる
④自分が書いた文章を読み返して自分の思考過程を追跡できる
⑤文章化それ自体が自己開示の役割を果たす
メールカウンセリングのデメリット
①相互にやり取りできる情報量が少ない
②非言語的なコミュニケーションが取れない
参考:福島裕人(2012)メールカウンセリングの現状と可能性