19世紀生まれの巨匠ピアニスト達





  ケンプ  1895~1991  KEMPFF  A  ドイツ

 ドイツに生まれたケンプは、やはりドイツの作曲家、バッハベートーヴェンブラームスな  どを主なレパートリーとし、詩的感興に溢れた明晰な演奏が高く評価された、20世紀を代表  する名ピアニストです。演奏もそうですが、1960年にシューベルトのピアノ・ソナタ全曲  を録音し、それまであまり知られていなかった作品を一般に広めた功績も高く評価されていま  す。また、ベートーヴェンにおいては、ピアノ協奏曲、ピアノ・ソナタ、ヴァイオリン・ソナ  タ、チェロ・ソナタに全集を残しているという功績も大きいです。  しかし本来は完全な実演派のピアニストでして、好調の時には奇跡的な名演を聴かせたと言わ  れています。よって、録音ではあまり本領が伺えないようです。  ケンプは同じベートーヴェンの大家であるバックハウスと比較されました。聴衆へのサービス  精神が旺盛でしたので、逆に、芸術家として厳しく、大衆に媚びないバックハウスに対して、  「腕ではバックハウス、サービス心ではケンプ」と言われ、日本ではケンプの方が人気があり  ました。  
ベートーヴェン「ピアノ・ソナタ第14番『月光』」全楽章
 ☆推薦盤☆  ・ベートーヴェン ピアノ三重奏曲第7番「大公」/           シェリング(Vn)フルニエ(Vc)(70)(グラモフォン)  A  ・ベートーヴェン チェロ・ソナタ全集/フルニエ(Vc)(65)(グラモフォン) A   <ロマンティック><実演派><伴奏派>
  コルトー  1877~1962  CORTOT S  スイス

 「20世紀で最高のピアニストは?」という質問には多くの回答がありそうですが、「音楽史  において、20世紀最大のピアニストは?」という質問の回答としては、コルトーが最有力候  補の1人であるのは間違いないほどの「レジェンド」です。 コルトーはショパンを語る上で欠かせない存在であるとともに、リパッティハスキルらを門  下にもつ、20世紀の大巨匠ピアニストです。「ピアノの詩人」と呼ばれた自らの演奏と共に、  音楽学校を設立し、教鞭をとるなど、後世に与えた影響も計り知れません。  コルトーはステレオ時代まで生きたのですが、晩年はテクニックの衰えが激しく、現在お薦め  できる名盤となりますと、音質の悪い録音しかありません。新しい録音が増えるに従って名盤  の評価が下がる一方であるのは残念ですが、歴史的名盤としての価値は永遠に色あせることは  ないでしょう。ショパンの「別れの曲」は今もってコルトーの演奏が最高という人も多いです。  特に、現代のピアニストのショパンしか聴いたことのない方には、是非ともコルトーの演奏を  聴いて頂きたいと思います。曲を演奏するという行為が、単に指の運動の結果だとしたら、コ  ルトーはとても現代のピアニストはおろか、アマチュアにでさえ及ばないかもしれませんが、  演奏行為というものがどういうものであるのか、あるいは、なぜ「ピアノの詩人」と呼ばれて  いたのかが解り、クラシック音楽の聴き方の幅が拡がるはずです。
ショパン「練習曲」作品10-3「別れの曲」 ショパン「練習曲」作品69-1「別れのワルツ」、69-2(超貴重映像)
 ☆推薦盤☆  ・ショパン 前奏曲集/(33、34)(EMI)                   ・ショパン 即興曲集/(33)(EMI)                      ・ショパン 練習曲集/(33、34、49)(ワーナー)               ・ドビュッシー 子供の領分/(53)(EMI)                 A  ・ベートーヴェン ピアノ三重奏曲第7番「大公」/           ティボー(Vn)カザルス(Vc)(28)(ワーナー)       <ロマンティック><芸術主義><テクニック劣><レパートリー狭>
  バックハウス  1884~1969  BACKHAUS  S  ドイツ⇒スイス

 どの分野でもそうですが、「匠」と名の付くほどの人物ともなれば、その道を極めただけあっ  て、威厳にあふれ、他人に厳しい傾向にあります。バックハウスもそうでした。  バックハウスはベートーヴェンの大家として知られますが、20世紀を代表する大ピアニスト  です。最晩年はベームとウィーン・フィルと組んでよくコンサートを行いましたが、この3者  の競演は、当時のヨーロッパの最高の聴きものだったそうです。  芸術家としては非常に厳しく、笑顔一つ見せないなど大衆に媚びないため、一般受けはしませ  んでしたが、その品格の高さは別格でした。  タッチがどちらかというと武骨な印象を与えるため、初心者の方受けはしないタイプです。  と言いますのも、色彩感がなく、華がないタッチですので、演奏効果があまりないからです。  初心者の方には、美しい音色の方が聴き映えがするでしょう。  ですが、モーツァルトショパンには不向きでも、ベートーヴェンやブラームスの場合はむし  ろバックハウスのタッチの方が真実の鏡となります。かなり耳が肥えてこないとそこまでは分  かりにくいでしょう。  ベートーヴェンの「3大ソナタ」はギレリスと比較されてきましたが、バックハウスの演奏の  良さが本当の意味で分かる方はかなりの上級者だと思います。ギレリスの芸風はタッチが鋭く、  音の輪郭がはっきりとしていますので、演奏効果に富んでいます。まるでバックハウスと正反  対で、大衆受けするのは明らかにギレリスの方だろうと思うのです。  バックハウスはベートーヴェンのピアノ協奏曲とピアノ・ソナタの全集を録音として遺してい  ます。ファンならずとも、まさにお宝と言っていい二大遺産となっています。
ベートーヴェン「ピアノ協奏曲第4番」(超貴重映像)
 ☆推薦盤☆  ・ブラームス ピアノ協奏曲第2番/ベーム(67)(デッカ)          A  ・ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第8番「悲愴」/(58)(デッカ)      A  ・ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第14番「月光」/(58)(デッカ)     A  ・ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第23番「熱情」/(59)(デッカ)     A  ・ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第17番「テンペスト」(63)(デッカ)   A  ・ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第21番「ワルトシュタイン」(60)(デッカ)A  ・モーツァルト ピアノ協奏曲第27番/ベーム(55)(デッカ)          *ベートーヴェンのピアノ・ソナタ「悲愴」「月光」「熱情」は同じCDです。  *ベートーヴェンのピアノ・ソナタ「テンペスト」「ワルトシュタイン」は同じCDです。  *ブラームスのピアノ協奏曲第2番とモーツァルトの第27番は同じCDです。   <音色渋><芸術主義><ベートーヴェン◎>
  ルービンシュタイン  1887~1982  RUBINSTEIN  A  ポーランド
 
 ルービンシュタインは、19世紀の生まれながら、評価の高い演奏はほとんどステレオ録音と  いう晩成型のピアニストで、主にショパンに名演を残しました。  若い頃はタッチに色彩感があり、迫力があり、華やかな演奏スタイルが持ち味でしたが、19  60年以降、自分の演奏スタイルに常に変化を求めていきました。  真価が発揮されるようになったのは晩年、表現に深みを増してからです。  若い頃は「遊び人」のレッテルが貼られていたほど自由奔放なピアニストだったそうです。  演奏活動に怠惰な面があったり、コンサートで稼いだお金をカジノやお酒につぎ込んだり、女  性問題が絶えなかったり、武勇伝にはことかかなかったと言われています。  そんなルービンシュタインも、さすがに落ち着き始めたのが、47歳の時と言われています。  この頃からは自分の立場を自覚し、演奏活動に真摯に取り組むようになりました。そして演奏  に磨きがかかり、巨匠ピアニストとして名盤を残すこととなったのです。   晩年に「停滞やマンネリズムは芸術家としての滅亡を意味する」と語っていたほどの芸術家タ  イプのピアニストで、80歳を過ぎてもなお日々進歩を目指していた大巨匠です。まるで人が  変わったようです。  全盛期の芸風は、いかにも巨匠スタイルと言っていい、堂々とした、スケールの大きい演奏で  す。スケールの雄大さという点では、他のどのピアニストよりも、ルービンシュタインが格段  に優れているのではないでしょうか。
ショパン「英雄ポロネーズ」
 ☆推薦盤☆  ・ショパン 即興曲集/(64)(RCA)                  SS  ・ショパン 夜想曲集/(65、67)(RCA)                S  ・ショパン ポロネーズ集(7曲)/(64)(RCA)            SS  ・ショパン ワルツ集/(63)(RCA)                   A  ・ショパン マズルカ集/(65、66)(RCA)              SS  ・ショパン バラード/(59)(RCA)                   S  ・ショパン スケルツォ/(59)(RCA)                  A  ・ベートーヴェン ピアノ三重奏曲「大公」/           ハイフェッツ(Vn)フォイアマン(Vc)(41)(RCA) A    *ショパンのバラードとスケルツォは同じCDです。   <雄大><芸術主義><ショパン◎>


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