断腸の思い
はらわたがちぎれるほどの悲しくいたましい思い。
[使用例] 少しく仔細を知れる者は中将の暗涙を帯びて棺側に立つを見て断腸の思をなせしが[徳冨蘆花*不如帰|1898~99]
[使用例] まことに断腸のおもいですが、とはいえ不幸を悲しんでばかりもいられません[李恢成*死者の遺したもの|1970]
[由来] 「[世説新語]―黜免」に見える話を背景にしたことば。四世紀の中国でのこと。長江の下流を支配していた東晋王朝の武将、桓温は、蜀(現在の四川省)へと兵を進めるため、長江をさかのぼっていました。その途中、「三峡」と呼ばれる渓谷地帯にさしかかったとき、ある兵士が、猿の子どもを捕まえました。母猿は悲しそうな声で鳴きながら、岸伝いにずっとついてきます。数十キロも進んだところで、母猿は船の中まで飛び込んできて、そのまま息絶えてしまいました。そのお腹を裂いてみると、「腸、皆寸寸に断えたり(腸がずたずたに断ち切れていた)」。桓温はそれを聞いて怒り、子猿を捕まえた兵士の職務を解いてしまったということです。
[解説] ❶動物であっても、子どもを奪われた母親はこれほど悲しむのですから、まして人間だったら……。それがわからないこの兵士がクビになったのも、当然のことでしょう。❷中国文学では、猿の鳴き声といえば、悲しい響きがするものと相場が決まっています。そのことを加味すると、さらに味わいが深くなるでしょう。❸実際には、「たいへんな悲しみ」を指す「断腸」ということばは、これ以前の中国の文献にも使用例が見られます。とすれば、この話は、逆に「断腸」ということばにぴったりだったから、有名になったのかもしれません。
出典 故事成語を知る辞典故事成語を知る辞典について 情報
だんちょう【断腸】 の 思(おも)い
はらわたがちぎれるほどの悲しくいたましい思い。
※俳諧・猿蓑(1691)序「猿に小蓑を着せて、
誹諧の神を入たまひければ、たちまち断腸のおもひを叫びけむ」
※不如帰(1898‐99)〈徳富蘆花〉下「少しく仔細を知れる者は中将の暗涙を帯びて棺側に立つを見て断腸(ダンチャウ)の思(オモヒ)をなせしが」
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
だんちょう‐の‐おもい〔ダンチヤウ‐おもひ〕【断腸の思い】
出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例