セブルス=スネイプの啓蒙的生活   作:亜希羅

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 前回は、評価、お気に入り、しおり、ここ好き、誤字報告、ありがとうございました。

 お辞儀ディメンターと、ビビられるセブルスさん。

 第1ラウンドはセブルスさんの不戦勝でしたが、第2ラウンドはどうなるでしょうね?

 というわけで続きです。

 原作読み直して思いました。これ、シリウス、無実を証明できても、ハリーと一緒に暮らせないのでは?


【4】セブルス=スネイプ、『必要の部屋』に頭を抱える

 

 セブルスが元のコンパートメントに戻ってみれば、真っ青な顔をした一同がハリーJr.を心配しているところだった。

 

 「どうしたのかね?」

 

 「吸魂鬼(ディメンター)が来たと思ったら、ハリーが気を失ったんです。

 本当に大丈夫だろうな?」

 

 「うん、心配かけてごめん」

 

 ドラコの言葉にハリーJr.は笑ってうなずいたが、硬い表情と死人のごとき顔色では説得力は微塵もない。

 

 ため息を吐いて、セブルスは手に持っていたままにしていた箱から、丸いトリュフチョコを取り出し、ハリーJr.の唇に押し付けた。

 

 一同、ルーピンからもらったチョコを手に持ったまま、食べていなかった。

 

 「チョコレートは吸魂鬼に遭遇した後の後遺症に役立つ。覚えておきたまえ」

 

 「スネイプの言うとおりだ。さあ、食べた食べた」

 

 自分の元の位置についたセブルスとルーピンの言葉に、ハリーJr.は押し付けられたチョコレートをモグモグと食べた。

 

 市販の板チョコをそのまま割って渡してくれたルーピンのそれより、セブルスがくれたチョコの方が美味しい、と思った。

 

 生クリームが混ぜてあるのか、普通のチョコよりも甘くまろやかだが、ココアパウダーでほろ苦さのアクセントが付けられている。

 

 そして大人二人の言うとおり、チョコレートを飲み込むや、ぽかぽかと体が温かくなった。

 

 真冬の冷水で水浴びをさせられた後に飲まされる温かなココアに近いありがたみを感じた。

 

 ハリーJr.は好物が糖蜜パイという甘党だ。チョコレートも好きだが、この時食べたチョコレートは格別の味わいだった。

 

 「スネイプ、それもチョコレートかい?」

 

 ハリーJr.に負けず劣らずというか、それ以上の甘党のルーピンが目ざとくセブルスの持っている箱の中身について尋ねる。

 

 「メアリーと厨房のハウスエルフたちに頼んで作ってもらったものだ。

 板チョコをいちいち割るよりも、小分けにしていた方が手間もかからんからな」

 

 物欲しげにするルーピンの視線を無視して、セブルスは箱をインバネスコートの懐にしまう。

 

 やがて、列車の車内灯が点灯し、再び列車が動き出した。

 

 ホグワーツ城はもうすぐだ。

 

 

 

 

 

 さて、そんなこんなのハリーJr.達にとっては3年目の学生生活がスタートした。

 

 前記したが、この年からいろいろ変更になっており、“闇の魔術に対する防衛術”の担当がルーピンとなっている以外に、

 

 魔法生物飼育学教授がシルバヌス=ケトルバーンに代わってグラブリー=プランクが、

 

 森番がアズカバンに収容されたハグリッドに代わって魔法省から派遣された職員チーム(魔法生物管理部や魔法法執行部の下っ端数十名で構成。その代表が闇祓い見習のニンファドーラ=トンクス)が、

 

 それぞれ担当することになった。

 

 森番の魔法省からの派遣については、無理もないというあきらめ半分の意見と、無能な魔法省の手先なんて、という好ましからざる意見に大体二分されている。シリウス=ブラックの脱獄で危ういだろうホグワーツに、ナイスタイミングで来てくれた!という意見はごく少数だった。

 

 代表となるトンクスは闇祓いであれど見習いであるし、何より魔法省が有能であれば、シリウスはさっさと牢獄に逆戻りしているだろうし、吸魂鬼が校外滞在なんてことにもならなかっただろうと思われていたからだ。

 

 当のトンクス(彼女は自身のファーストネームを好んでおらず、愛称のドーラ、あるいはトンクスと呼ばれたいらしい)は、入学式で風船ガムのようなピンクの髪を揺らしながら、よろしくお願いします!と元気よく挨拶してきた。

 

 危険生物を連れ込まなければ、ハグリッドより数倍真っ当である。

 

 

 

 

 

 話を変えて、ハリーJr.達の様子について述べておくならば、ハリーJr.が吸魂鬼に遭遇したことで気絶したことはあっという間にホグワーツに広まっていた。(ついでにセブルスが吸魂鬼を退散させた後、チョコを配り歩いたことも噂になっていた。やっぱり怖い先生だ!)

 

 そのせいで、ハリーJr.は周囲にからかわれまくっていたが、本人はのほほんとドラコたちが一緒にいた時でよかったよ、と笑っていた。

 

 なお、おふざけ半分で吸魂鬼の真似をしてきたとある上級生が、そのままハリーJr.の逆鱗である家族をからかってきたため、吸魂鬼ってわりにこんなに弱いんだね?と黄金の右足で蹴飛ばされていた。

 

 学習方面で言うならば、新しく始まった選択科目も極めて順調である。

 

 グラブリー=プランクは至極真っ当で授業も面白くわかりやすかった。

 

 別に初回にいきなりヒッポグリフについてやらなかったし、それでドラコが引っ掻かれて裁判沙汰にもならなかった。

 

 ついでに教科書も、噛みついてくる『怪物的な怪物の本』でもない。

 

 きわめてまとも且つ平穏に授業を進められていた。

 

 

 

 

 

 もう一つ、今年から変わったこともあった。

 

 「おはよう」

 

 「うん、おはよう、ウィーズリー」

 

 「吸魂鬼に襲われて倒れたって聞いたけど・・・本当?」

 

 「アハハ・・・まあね。あんまり覚えてないんだけど」

 

 たまにだが、ロナルド=ウィーズリーとハリー=メイソンJr.は話すようになった。

 

 

 

 

 

 きっかけは、去年の秘密の部屋騒動であろう。妹助けたさに突っ走っていたロナルドを助けようと、ハリーJr.も一緒に秘密の部屋に続く地下の道へ滑り落ちたことだろう。

 

 ロックハートのせいで分断された後、セブルスがジネブラ救出のためにバジリスク相手に死闘をしている間、ロナルドとハリーJr.は道を塞ぐ岩を崩しながらあれこれと話した。

 

 ロナルドからしてみれば、何でこんな(まともな)奴がマルフォイの腰巾着でスリザリンなんだ、という感想がもっともだった。

 

 一方のハリーJr.は、何でこの子、こんなに向こう見ずに突っ走りまくるんだろう?ドラコやルシウスさんのことだって一方的に悪く言って。何で?という疑問が尽きなかった。

 

 そこで、作業がてら、いろいろ話し合ったらしい。

 

 完全に和解、とまではいかずと、お互い色々ある、くらいには妥協できるようになった・・・らしい。

 

 これを聞いたドラコはハリーJr.に対して、物好きな、とため息を吐いた。

 

 一度は敵視した相手でも、家族(ハリーJr.には姉がいるし、ロナルドにも妹がいる)が大事なのは一緒だと、ハリーJr.が菩薩級寛容さを発揮したのだ。

 

 ついでに、この時話したことをきっかけに、ロナルドは長兄のウィリアム=ウィーズリー(愛称はビル)にいろいろ相談したらしい。

 

 本学期開始ごろ、マクゴナガルに今まですみませんでしたと謝罪に訪れ、一番目の敵にしているだろうセブルスにすら、妹を連れて謝罪と、改めて助けてくれたお礼を述べに来たほどだ。(ご両親の方からも、改めてお礼と、誤解に対する詫びの手紙をもらった。根は素直なのはウィーズリーの特徴であるらしい)

 

 彼の学生生活は、これからだ。

 

 

 

 

 

 「新聞見たよ。ガリオンくじ当選おめでとう」

 

 「うん!おかげで、見てよ!」

 

 エジプトに兄に会う旅行に行ったウィーズリー一家の記事を読んだのを思い出して言ったハリーJr.の言葉に、ロナルドは嬉しそうに懐から杖を取り出した。

 

 去年、ロナルドは学期始めに杖を折ってしまい、途中からスペロテープでくっつけて使うという暴挙に及んでいた。挙句、ロックハートの忘却術の暴発に耐え切れず、残骸すら残らない粉々にされてしまったのだ。

 

 今、ロナルドの手にある杖はピカピカの新品だった。オリバンダーの店で新しく、今度こそお古ではない自身の杖を購入したのだろう。

 

 「次の授業こそ、ギャフンと言わせてやるからな!」

 

 「おあいにく様。ボク、実技は結構得意だからね。去年はお流れになったけど、今年もスリザリンが優勝だよ」

 

 「言ってろよ」

 

 杖をしまって自信満々に言ったロナルドに、ハリーJr.は肩をすくめた。

 

 1年次から続いていた険悪さは完全にとは言えずとも、ある程度は払しょくできたらしい。

 

 「おい、ハリー。次はルーン文字だ。そろそろ教室に行くぞ」

 

 「今行く!またね、ウィーズリー」

 

 「ああ」

 

 ここでトイレから戻ってきたドラコに呼ばれ、ハリーJr.は手を振って踵を返した。

 

 ロナルドもそれに頷きを返す。ドラコの姿に軽く眉をひそめたが、それでも何も言わずに踵を返した。

 

 なお、そんな様子を見ていた学生たちが、問題児のロナルドも成長するんだな、とひそかに感心していた。

 

 

 

 

 

 一方で、3年といえば、選択科目のほか、ホグズミード村への外出が解禁となる。

 

 ドラコはもちろん、ハリーJr.もちゃんと両親から許可を取っており――ただし、ハリーJr.に関しては例の黒犬の動物もどき(アニメーガス)のこともあって相当心配され、決して一人で行動せず、人目のない場所にはいかないこと、と強く約束させられた。

 

 ハリーJr.の方も両親の心配を素直に受け取り、できるだけドラコやハーマイオニーと行動を共にすることにしたそうだ。

 

 許可証もちゃんとマクゴナガルに受け取ってもらった・・・のだが、ここでもアクロマンチュラショックの余波があった。

 

 禁じられた森にいるだろう、アクロマンチュラの生き残りや森番前任者(ハグリッド)によって持ち込まれた危険生物の概要が把握できない限り、ホグズミード村も危険ということで村民たちの避難生活が継続となったのだ。

 

 魔法省の魔法生物規制管理部によると、禁じられた森ではすでに本来なら生息しないはずの肉食や毒持ちの危険生物によって、かなりの数の魔法生物がその数を減らし、絶滅も危惧されるほどなのだとか。

 

 一応、村民たちは定期的に帰宅して、家の管理や必要なものの出し入れなどをしているらしいが、避難命令の解除と安全な帰宅が許されるのは、まだまだ先のことになるだろう。

 

 これによって、今年のホグズミード行きは中止となり、3年生以上の学生たちは許可証があってもホグワーツ城から出られないとなってしまったのだ。

 

 それを凶悪犯がいるだろうから出なくてかえって安心と受け取るべきか、それでも行きたかったと不満がるかは、学生たちの自由であろう。

 

 

 

 

 

 さて、学生たちはそんな感じに生活していたのだが、セブルスはといえば、ようやく判明した最後の分霊箱のあるだろう場所――『必要の部屋』の捜索に取り掛かっていた。

 

 人目を避けて、教わった通りの手順で『必要の部屋』のドアを出現させようとしたが、これがどうしたことか、出てこないのだ。

 

 

 

 

 

 セブルス=スネイプは上位者である。見た目こそ人間だが、その中身は啓蒙と冒涜的な記憶に満ち溢れ、血も獣・上位者・狩人問わずに取り込みまくったごった煮状態である。

 

 そんな男の中身を読み取ったものがどうなったのか。

 

 “蘇りの石”は砕け、“みぞの鏡”は割れた。さらには、開心術をかけた術者は発狂しかけた。

 

 まっとうな人間が利用することを前提としたその部屋は、そもそも読み込み不可であったのか、出現しなかったのだ。

 

 

 

 

 

 そんなことを数度繰り返し、ようやくセブルスは自身の特異性に思い当たり、要求の気持ちだけ表層に出して、他の部分を閉心術で押し込めるという器用な真似を思いつき、実行。

 

 そうしてようやく、『必要の部屋』に入り込むことができたのだ。

 

 が。

 

 「・・・想定以上に時間がかかるな、これは」

 

 出現した『必要の部屋』の真鍮のドアノブ付きの扉を押し開けて、セブルスはため息を吐いた。

 

 凄まじいの一言に尽きた。

 

 だだっ広い部屋の中には、手書きの詩集や秘蔵と思しき酒瓶から、いつからあるのか不明の金銀財宝、見事な彫刻、他意味不明ながらくた、出所不明の魔法道具が一緒くたに埃をかぶって、いっそ芸術的なバランスをもって山脈をなしていた。

 

 この部屋の中から、たった一つの髪飾りを探し出す。呼び寄せ呪文(アクシオ)もなしに。

 

 時間をかけて一つ一つ検分するわけにもいかない。

 

 何しろ、今年のセブルスは長時間姿を消すのが許されてないような状態なのだ。

 

 とにかく、今すぐ何とかするのは無理だ。一度仕切り直した方がいい。

 

 ため息を飲み込んで、セブルスは部屋を出た。ドアはセブルスが後ろ手に閉めるや、ふっと消え失せる。

 

 「ああ、スネイプ!そこにいたのか!どこに行ったか、捜してたんだ!」

 

 「・・・私がどこにいようと、私の勝手だろう」

 

 廊下を曲がって間もなく、セブルスはルーピンに遭遇した。

 

 これだ。セブルスの気のせいかもしれないが、ルーピンは妙にセブルスに構いたがる。監視されているような気分になるのは、セブルスの考えすぎかもしれない。

 

 分霊箱のことをルーピンに知られるのも面倒なので、できるだけ悟られないように行動していたのだ。

 

 青い秘薬は便利だ。

 

 「そんな寂しいこと言わないでくれ。そうだ!ハウスエルフたちに頼んでお菓子を作ってもらったんだ!一緒にどうだい?」

 

 「いらん」

 

 あれこれ話しかけてくるルーピンに短く答え、セブルスは自分の領域である地下牢へ向かう。

 

 別に他意はない。ホグワーツ伝統のレシピの菓子よりも、メアリーの手作りの菓子の方がいいだけだ。お茶だって彼女が淹れた方が美味しい。

 

 「そうか・・・」

 

 しゅんと肩を落としたルーピンに、セブルスは首をかしげた。お茶の相手が欲しいなら、生徒でも何でも好きに誘えばよかろうに。

 

 そういえば、とセブルスは思い出す。

 

 実は、学期準備期間にセブルスだけマクゴナガルに通達された事柄があった。

 

 他でもない、ルーピンの脱狼薬製作である。

 

 

 

 

 

 リーマス=ルーピンは人狼である。

 

 学生時代は満月の夜のみ寮の自室を離れ、今は“叫びの屋敷”と呼ばれる廃屋に閉じこもっていたらしい。当時脱狼薬は開発されてなかったので、そうやってやり過ごしていたそうだ。

 

 そして、寮の部屋は4人部屋だったので、同室だった他3名(ジェームズ、シリウス、ピーター)にばれたそうだ。なぜルーピンだけ個室にしなかったのだろうか?持病の関係と言い訳もつけられただろうに。

 

 

 

 

 

 本当は自分で調合するべきなんだろうけど、と申し訳なさそうにするルーピンは、頼むよと頭を下げてきた。

 

 脱狼薬はダモクレスオリジナルのレシピでも複雑な調合工程を経る上、セブルスの改良版レシピは錠剤化呪文を前提にした調合なので、液状のままだとオリジナル以上に苦くてえぐいらしい。

 

 改良版レシピでもたまに失敗するんだとルーピンはひどく悄然としていた。

 

 まあ、仕事ならば仕方がない。

 

 

 

 

 

 その考えを、セブルスは翌週撤回したくなった。

 

 “闇の魔術に対する防衛術”の教師としてルーピンはうまくやっているらしく、授業は面白いと評判らしい。

 

 だが、初回のマネ妖怪(ボガート)の授業で、セブルスのことを怖がるハッフルパフ3年生に入れ知恵して、セブルス姿のボガートにみょうちきりんな女装を(セブルスに無断で)させたらしいのは、いかがなものか。

 

 おかげで廊下を通るたびに、くすくす笑われる羽目になった。

 

 別にセブルスは格好自体はあまりどうとも思わない。

 

 一時期ヤーナムでやけくそになった挙句、貴族のドレスに墓守の仮面をつけて、他世界の狩人狩りに専念したこともあったし、全裸に頭装備だけの珍妙な格好をして回ったこともあったわけで。あの当時は本当にどうかしていたのだ。

 

 事前に話くらい通しておけ。まあ、後で「ごめん、つい・・・」と謝ってきただけ良しとする。(学生時代と比べればだいぶマシだ)

 

 これで謝罪の一つもなかったら、臨時の治験を実施してその被験者に大抜擢していたところだ。

 

 なお、メアリーにまで「スネイプ先生、ああいう格好のボガート出されたらしいけど、どう思う?」と聞いた猛者がいたらしい。それに対するメアリーの返答は、「何かおかしいですか?どのような格好をされていても、セブルス様はセブルス様です。私は、あの方を愛しています」という、とてつもないものだった。

 

 それを聞かされた生徒は、果たしてどんな気分になったのだろう。セブルスはとりあえず、メアリーの頭を撫でくり回すことを決めた。

 

 

 

 

 

 ところで、“闇の魔術に対する防衛術”におけるマネ妖怪退治の授業だが、もちろんハリーJr.とドラコも受講した。

 

 ドラコに関してはよほど怖かったのか、マネ妖怪は幾分かサイズ違いとは言え怪物邸に変身して太い腕を振り上げて、巨大な口で襲い掛かってきた。これにはスリザリンのほか生徒たちもそろって悲鳴を上げた。

 

 が、それもドラコの「バカバカしい(リディクラス)!」の退散呪文に応えて、クッキーやウエハース、チョコや生クリームで飾り付けられて、子供にたかられるお菓子の家に変身させられてしまった。

 

 そして、肝心のハリーJr.だが、彼の番になる前にルーピンがマネ妖怪を退治してしまった。

 

 ハリーJr.本人は後日、多分、吸魂鬼(ディメンター)が出てきたと思う、と話している。

 

 この点は正史同様、最も恐ろしいものを恐怖そのものと定めたわけである。

 

 

 

 

 

 さらなるどうでもいい余談だが、以前セブルスはホグワーツ城内でマネ妖怪に出くわしたことがある。退治しておこうと思ったのだが、マネ妖怪がタンスから飛び出そうとした直後、ぱあんっ!という破裂音とともに、キラキラした光の粒となって姿を消してしまった。

 

 マネ妖怪は、相手が最も恐れるものに変身する。つまり、開心術と変身魔法の合わせ技のような特技を持っている。

 

 そんなものが、ヤーナムで狂気と啓蒙と冒涜をたっぷり身につけたセブルスを目の当たりにすればどうなるか。

 

 目の当たりにしたくない狂気と啓蒙を山と詰め込まれ、発狂&変身魔法の暴走による不定化による蒸発を起こしても無理はない。

 

 開心術自体が禁忌状態のセブルスに対し、魔法界にある魔法生物にしろマジックアイテムにしろ、相性最悪のものが多すぎる。

 

 

 

 

 

 さて、そんなこんなで比較的平穏無事に済んできたホグワーツ3年目も、ハロウィーンに入っていた。

 

 ちなみに、ここ数年、セブルスが経験するハロウィーンは割とろくでもなかった。具体的には、下記のとおりである。

 

 1年目・・・メイソン夫妻に呼び出され、怪物邸と爆発金鎚で対決。

 

 2年目・・・闇の帝王に寄生されたクィレルによって持ち込まれたトロールが大暴れ。

 

 3年目・・・石化したフィルチの飼い猫(ミセス・ノリス)が発見され、秘密の部屋事件が発生。

 

 今年こそ平穏に済めばいい、というセブルスのひそかな懇願は、いっそ見事なまでのフラグであったのかもしれない。

 

 ハロウィーンパーティーを終えた夜。

 

 グリフィンドール勢が寮の前で立ち往生する羽目になった。

 

 出入り口にしている太った婦人(レディ)の肖像画が、ナイフか何かでズタズタにされているのを発見して彼らが絶句している中、ポルターガイストのピーブズがにやにや笑いながら、その一報をもたらした。

 

 この惨状を作り上げたのは、シリウス=ブラックである、と。

 

 とりあえず、他の寮生もあわせて大広間に皆で集まり、ブラックの再捜索の必要と絵画の中を逃げ回っているだろう“太った婦人”の安否確認を話し合った後、急遽用意された寝袋でそのまま大広間に泊まり込むことになった。

 

 やっぱり馬鹿だな、あの男は。

 

 メアリーに大広間の見張りを任せ(いくら破壊されても元に戻る人形といえど、抵抗のすべを持たないなら捜索に加えさせるわけにはいかない。今後は単独行動もできるだけ控えさせなければ)、携帯ランタンを腰に提げて消灯によって真っ暗な廊下を歩きながらセブルスは内心でため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 ブラックがバカなのは知っていたが。知っていたが、10年以上経って迷惑をかけるな。万歩譲ってセブルスのみならば、あるいは狙いであろうなにがしかのみならばまだわかる。だが、そのほかのグリフィンドール生にまで迷惑をかけるな。あいつは自分の後輩を寮から締め出したとわかってやっているのか?

 

 ・・・わかっていたら、最初からやらないだろう。

 

 他の教授たちは、寮がパーティーで無人でよかったと安堵しているようだが、どこがよかったのやら。

 

 万が一侵入されて、目くらまし呪文などで姿を誤魔化して待ち伏せされていたら、とは考えなかったのだろうか?

 

 そもそも。

 

 

 

 

 

 なぜ、今、ブラックは脱獄したのか?

 

 

 

 

 

 セブルスの疑問はそれに尽きる。

 

 シリウス=ブラックの無実を、セブルスは知っている。

 

 が、助けてやる義理も義務もないし、奴が死のうが生きようが(こちらに関わってこない限り)どうでもいいので、放置している。

 

 シリウスをはめたであろう、ピーター=ペティグリューの行方にしてもそうだ。

 

 こちらに危害を加えてこないならば、どうでもいい。かかわってこなければ、それでいい。

 

 そもそもかかわること自体面倒でたまらないのだ。

 

 いかに優秀なシリウスといえど、アズカバンと吸魂鬼(ディメンター)はどうにもできなかったのだろう、とセブルスは思っていた。

 

 が、今の彼は脱獄して見せている。さすがなんとやらと紙一重のブラックである。

 

 しかし、セブルスはふと思った。脳についている瞳がささやいてきたというべきか。

 

 なぜ、今なのか。脱獄できる目途がついた?否、最初から脱獄できたのだとしたら?

 

 ハリー曰く「物事には必ず理由がある」。シリウス=ブラックが脱獄したのには、必ずきっかけがあったはずだ。

 

 ブラックを突き動かす動機など、たったの一つ。

 

 あのハロウィーンの後、ポッター母子を放り出してまで優先したのと同じく。

 

 復讐だ。

 

 ポッター一家を売ったペティグリューを追い詰めてその息の根を止めるまで、シリウス=ブラックは止まらないに違いない。

 

 だとすれば、シリウスはペティグリューの潜伏先をどうにかこうにか突き止めたということになる。(情報収集源が限られるアズカバンでどうやって突き止めたのかは定かではない)

 

 そして、そのシリウスがホグワーツを訪れた。

 

 つまり、ホグワーツにはシリウスのみならず、ペティグリューもいる。その可能性が高い。

 

 だが、どこに潜伏し、どうやって潜入したというのか。

 

 シリウスにしろ、ペティグリューにしろ、成人した大の男二人が、どうやって隠れているというのか。魔法があるにしろ、それにも限度がある。

 

 ホグワーツには禁じられた森という身を隠すにはうってつけの場所があるが、あそこは現在、魔法省が総ざらいで調査中である。主に、森番前任者(ハグリッド)のやらかしの全容把握と後片付けのために。

 

 あそこにいるのはかえって危険だろう。アホでもわかる。

 

 ならば、避難生活で無人のホグズミード村か?いや。魔法省の方もそれを視野に入れて、吸魂鬼(ディメンター)たちを定期徘徊させているのだ。

 

 あそこもないだろう。

 

 

 

 

 

 廊下を歩きながら、とりとめなく考えるセブルスは軽くため息を吐いた。

 

 まだ足りない。まだ、思考を補完する情報の断片が足りない。

 

 何か、見落としている気がする。

 

 これ以上考えても仕方がない。セブルスは一度思考を打ち切って、改めて夜闇に満ちた城の廊下に歩を進めた。

 

 

 

 

 

続く

 




【トレローニーのシェリー酒】

 占い学の担当教授、シビル=トレローニーが酩酊状態のまま必要の部屋の一角に隠した、秘蔵のシェリー酒。

 予言者カッサンドラの子孫とうたわれるトレローニーだが、彼女に占いの才覚はない。

 ホグワーツ就職の面接においても、彼女は見えもしない未来を必死に読み上げたはずだった。

 記憶が欠落しているその面接の瞬間が、魔法界の運命すべてを揺り動かすことになったと、彼女は知らない。

 その隠されたシェリー酒の行方と、同じように。





 次回の投稿は、来週!内容は・・・ハリーJr.の個人授業!ハーミーも大変だけど、ハリーJr.も大変だ!そして、第2回突撃☆脱獄犯シリウス!
 クリスマスのファイアボルトショックも添えて!お楽しみに!

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