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救済されない旧「2ちゃんねる」の中傷被害者とひろゆき氏の賠償金不払い

Qアノンと日本発の匿名掲示板カルチャー【7】

清義明 ルポライター

プロバイダ責任制限法の免責条件を度外視

 読む方々は多少億劫になるかもしれないが、プロバイダ責任制限法について、2ちゃんねるの問題点とあわせて少しだけまとめてみよう。私は法律の専門家ではない。概略までにしたい。難しいと思った場合はしばらく飛ばしてもらってもかまわない。

 プロバイダ責任制限法では、違法な書きこみがあって、それをサイト運営者はその被害者から指摘された場合、削除する必要がある。また要望があれば、訴訟用のリモートホスト情報を開示する必要がある。ただし、それは書きこんだ本人に許可を得て同意された場合だ。それを書きこんだ本人は拒否することもできる(もちろん、明らかに違法とサイト運営者が判断すれば、本人の許可なく削除することもできる。その場合、投稿者になぜ投稿を消したのかと訴えられるリスクもある)。

 投稿者本人が拒否した場合は、その後の責任は書きこんだ本人となる。こうしてはじめてサイト運営者は違法行為に加担していないことになる。あとは、被害者と書きこんだ本人の争いになるわけだ。プロバイダ、つまりサイト運営者が責任を免れるのは、このように正当な手続きをすればいいだけなのだ。

 このルールは、サイト運営者が自分の知らないうちに書き込まれた違法な情報によって損害賠償などの責任をとらなくてもいいように、いわばネット社会の言論の自由にも配慮した思想のもとにつくられており、同時に被害者救済も可能なルールとなっており、そういう意味でたいへんよく出来ている。すくなくとも言論の自由至上主義が行き過ぎて、サイト運営者がまったく免責される(通信品位法230条)、ネット無法地帯のアメリカなどよりは、はるかにマシである。

 だが問題はある。特に2ちゃんねるの場合は完全匿名というサイトの売りの部分が致命的であった。ネットの人権問題に早くから取り組んできた、弁護士の田島正広氏は、2004年に総務省の政策懇談会で、2ちゃんねるの特徴を次のようにまとめている。

・匿名投稿可,発信者情報・IPは画面上には一切表示されず,これをたどる手段は(法的対応を採らない限り)ない。

・低俗・差別的な表現が多く見られる。

・陰湿ないじめ,集団攻撃の多発,特に正義の勘違いによる攻撃が見られる。(悪を滅ぼすための正義の行動であるかに勘違いし,そのためにはいかなる人権侵害があっても構わないという歪んだ価値観の下集団攻撃を行い,その人物の社会的地位や名誉などを奪い去る)

・画像情報のリンクによる掲示可
(顔写真や場合によってはヌード写真などのやり取りも行われ,プライバシー侵害が横行することとなる)

・100万PV/日(自称)
(いったんアップされた情報は瞬く間に拡散→サイト管理者が情報を削除しても,既に情報を入手している者が別のサイトにアップロードの上,リンクを張るなどの行為がゲリラ的に横行(いわゆるミラーサイト)=被害拡大の防止困難)

「誹謗中傷・違法告発と法的対処の限界」

 この中で、もっともプロバイダ責任制限法に関して引っかかるのは、2ちゃんねるが完全匿名性であり、投稿者が誰かはサイト管理者(つまり西村氏)ですらわからないということだ。そうすると、違法な投稿だと書き込み者に伝えることができない。そのため、その書きこみの責任は、被害者に投稿者の情報がわからない限りはサイト運営者、つまり西村氏の責任になる。このことは改正を重ねたプロバイダ責任制限法の現在でもかわらない原則である。そして、そのことを西村氏は当然知っていた。そして知りながら放置しつづけてきたのである。

 被害者は、被害を止めるための手段がない。そのためにリモートホスト情報を手に入れて、それをもとに身分照会して裁判を起こす必要がある。

 だが、当時の2ちゃんねるは、リモートホスト情報(IPアドレス)を保持していないと説明していた。これが当時の西村氏の逃げ口上だったことは、先の被害者の当時の証言でもわかるが、逆にこのことが意味するのは、すでにこの法律施行以後、違法な書き込みがあれば、西村氏側に責任がくるのは自明の理だったということである。

 被害者救済が行われる対象がないのだから、それ止める人間はただ一人しかいない。それはサイト運営者である(ただし、本当に2ちゃんねるがIPアドレスを保持していなかったかについては何人かの識者の疑義がある。IPアドレスは記録としてあるが、それを単に管理していなかっただけ、つまり探そうとすればサーバーに残っているはずというところなのでは、というのが筆者の推測である)。

 そのような掲示板が弱者救済ができないばかりか、法にもそぐわなくなっているということをまったく西村氏は聞き入れることがなかった。そればかり現在でもこのように裁判に負けてきた原因を言い訳している

 投稿者の行為をサービスプロパイダーが無限に責任を負うという間違った法律構成になってたのが原因です。

 法律が間違ってたので、その後、プロパイダー有限責任法案が出来ました。

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 この発言がいかに間違っている(西村氏風にいえば「ウソ」)かは、前述のとおりこの法律施行後も多数……というかむしろそちらのほうが多く訴訟を起こされてきたことがまずひとつ。

 さらにもうひとつは、仮に2002年以前に、この法律があったとしてもどうだったのかということが、すでに判例で早々と示されていたのである。2ちゃんねると匿名掲示板を考えるうえで画期的な判断となった「ペット大好き掲示板」事件の裁判例である。

【8】へ続きます。

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筆者

清義明

清義明(せい・よしあき) ルポライター

1967年生まれ。株式会社オン・ザ・コーナー代表取締役CEO。著書『サッカーと愛国』(イースト・プレス)でミズノスポーツライター賞優秀賞、サッカー本大賞優秀作品受賞。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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