旅の女が襲われている。それを偶然通り掛かった男が助ける―。いかにも物語の幕開けのようだが、実際にはその後、どうなるのだろうか。

 享和2(1802)年2月21日、長左衛門は信州から江戸への旅路を歩んでいた。彼は信州高遠古見村(現長野県朝日村)出身で、10年ほど前から江戸へ奉公稼ぎに出ていた。この時信州から江戸への旅であったのは、一時帰省していたためだったろうか。

 信州の伊那谷の辺りで、2、3人の男が女を捕まえて「飯盛女(宿場の売春婦)に売り飛ばそう」などと話しているところに出くわした。女の難儀をみた長左衛門は、