イーロン・マスクのTwitter大ナタで思わず表に出たキラキラIT系外資の「裏側」とは
イーロン・マスク、いきなりの豪腕
電気自動車(EV)メーカー大手のテスラ社や、宇宙開発で世界をリードするSpaceX社など、各方面で快進撃を続けていた連続起業家のイーロン・マスクさんが、自らの「ツイ廃」ぶりを拗らせ、すったもんだの末、10月27日にTwitter社の買収を成功させて早2週間。
イーロン・マスク by Gettyimages
マスクさんの「英断」のもと、経営不振に陥っていたTwitter社の全世界の社員のおよそ半数が解雇されるという強烈な事態に陥ったことは、ネット中の話題となりました。
とりわけ、現在この大ナタを振るっているマスクさんとまともにコミュニケーションが取れるTwitter幹部や社員が極めて少数で、解雇を免れたTwitter本社の技術者に取材すると「マスクさんが正直何を考えているのかまったく分からないし、社内のコミュニケーションツールで流れてくる一斉連絡が何であれ、その中身の詳細や真意をマスクさんに確認することができず、途方に暮れている」と話しています。
他方で、マスクさんがTwitterの経営再建において、ファイナンスからサービスまでご意見番的に起用している筆頭格が、投資家でポッドキャスト使いのジェイソン・カラカニスさんです。話を聞く限り「(浮上する力が乏しくなった気球から)砂袋を落とし、試行錯誤をしている。新しいことをどんどん試すつもりだから期待していて欲しい」と語るほど、この新しく手に入れたTwitter社のポテンシャルを高く評価し、すべてのインターネットサービスの真ん中にSNSを置く構想を練っているものと見られます。
中でも、一度は利用者の伸び悩みで不振のためクローズしたショート動画サービスの「Vine」を復活させたり、アメリカ金融当局にTwitterアカウントを利用した国際送金サービスを展開するプランを提示したりするなど、極めて野心的に展開しようとしているのは間違いありません。Twitter社の金融サービス化を担っているのはいわゆるPayPal創業者を中心としたマスクさんの腹心たちとされています。
Twitter社では11月4日に解雇通告したとみられる約3800人は、Twitter社の全世界従業員7500人あまりのほぼ半分に当たるため、指パッチンで増えすぎた生物の半数を消し去る設定で人気を博したMarvelスタジオの名物キャラクター「サノス」にさえ例えられる大規模リストラ劇となりました。
ただ、実際には解雇と言っても、過去に創業者のジャック・ドーシーさんが踏み込んだ企業規模の拡大路線で社員数は2倍になりながら2021年12月期の連結最終損益は、2億2140万ドル(約290億円、当時)の赤字を計上しており、社員数の増大に比べて利益を生み出す体質になっておらず、必然的に収益化を図るためには事業転換と同時に社員解雇を伴うリストラをしなければどうにもならなかったことをも意味します。
一連の決定は日本も無縁ではなく、Twitter社本社が説明するには、270人ほどいた社員のうち約200人にはすでに解雇を通告し、まだ決定ではないと言いながらも残る人員も解雇を検討する見通しのようです。この方針が投資家・証券筋に伝えられると、今年9月に日本の法務省からの要請で、やっとこ会社法に基づきTwitter アメリカ法人とその日本における代表者が登記されたはずのTwitter日本法人を、クローズするのではないかという憶測も流れたのは無理のないことです。
なぜ?キュレーション・ツイートがバッタリ止まる
ここで問題になるのは、多くの日本人も集まるTwitterユーザーに対してどのような影響を及ぼすのかという点です。海外でもリバタリアンの権化みたいなマスクさんを嫌悪して、人権派ユーザーがTwitterを離れようと騒ぐ図式が出ていましたが、一方で、マスクさんが就任して矢継ぎ早な対策を打っている間に、どうやらTwitterはサービスとしての利用者が過去最大を記録した模様です。
日本では特に、広報部門が中心になって実施していたとみられるキュレーションチームほぼ全員の解雇が伝えられると同時に、Twitter公式のニュースフィードやモーメントが完全停止するという事件が発生しました。ここでTwitter日本法人のキュレーションチームが優先して朝日新聞やテレビ朝日、ハフポストなどの記事を配信するだけでなく、ユーザーのタイムラインにおいてこれらの記事やトピックス、単語を含むツイートを勝手に挟み込む仕様を実装していたのではないかという懸念が表面化しました。
Twitter内部の有力な複数の関係者によると、英語圏でも日本語圏でも、これらのキュレーションチームは担当ごとに関心分野が異なり、誰がその日にキュレーターとして活動するかを見込んで各メディアが担当者の好む記事をニュースフィードやモーメントに押し込むことが、TwitterからのPV流入を狙うコツと広く認識されてしまっていたとのことで、つまりはネットニュース編集部側がTwitter社の仕組みをとっくにハックしていたことになります。
実際これらのサービスが止まってみると、見事にタイムラインにはこれらのトピックスや記事が流れて来なくなりました。
これらの源流は2016年、朝日新聞系のネットメディアであるハフポストにおいて、特定の野党と協同してネット内で拡散させたハッシュタグ運動「#保育園落ちた日本死ね」が一大ムーブメントになったことのようで、きっかけは問題提起、善意だったと見られますがネットで問題の一部を切り取って煽る技法が良いかどうかは動機の善悪とは無関係に感じます。
ただ、キュレーションチームではこの成功体験が「善意で、インターネットで問題となっているエコーチェンバーやクラスターの分断に役立ち、社会問題を多くの人に知ってもらう機能となり得るのではないかと話あっていた」ことが基点であったとされます。
実際に、今回解雇されたキュレーションチームのメンバーの中には、SNSにおける言論の分断と流れる情報の品質を深刻に心配し、彼らなりにTwitterでのツイートが悪い方向に向かないよう試行錯誤する内容と議論が、社内のコミュニケーションツールのログに残されています。
今後、マスクさんを含む経営陣がこの問題に関して何が起きていたのかを調査することになれば、かなりの部分が明らかになるのではないかとも思います。これらの状況については何をしてきたか、どういう効果があったのかを再検討する方針をもっている新しいTwitter社幹部もいると伝えられています。
マスクが怒ったTwitterの不透明な部分
ただ、これらの問題は、ニュースを配信するプラットフォーム事業者がコンテンツを選別する体制と透明性をどう確保するかという課題を持つものでもあり、シャドウバンと呼ばれる誰からも拡散されず、場合によっては検索も引っかからない仕様をTwitter日本法人が悪用した疑いが持ち上がっています。
自身の表現と同好の士の間での告知を行っていたにすぎないイラストレーターやコスプレイヤーが、優先的に手動でシャドウバンされていたことも明らかになっています。
これらも、特定のTwitter社員が目視し手動でバンをしていたことなどから、マスクさんの新体制では、かなり早期にシャドウバンの仕組みを撤回する方針の実施と共に、不透明で不利なバンは現在は解除されています。
また、Twitter本社でも日本法人でもタイムライン表示の方法として、キュレーションチームが好む社会問題などの単語が、それらの情報を求めないユーザーのタイムラインにも表示される仕組みが導入されていました。Twitter内で話題となった「トレンド操作」「捏造」というよりは、アルゴリズムで社内のキュレーションの誘導により関連キーワードがバズるような仕掛けを持っていた形になります。
マスクさんが、買収前からTwitterのBOT問題に対して憤慨していたこともあり、これらの課題については買収後に優先して対処したのではないかと思います。
確かに、以前よりジェンダーやLGBT問題、反原発、主婦アカウントによる育児の愚痴などがタイムラインに多く表示されていたものが、現在はこれらの特定のキーワードに紐づくツイートの表示回数が減ったのも、これらのツールがアルゴリズムから一部削除されたことが理由と見られます。
いまなお多数表示される場合は、Twitter公式アプリの「設定とサポート」→「設定とプライバシー」→「プライバシーと安全」→「表示するコンテンツ」を順にタップし、そこにある「興味関心」を開くと、だーっと表示される関心内容のタグを弄る必要があります。
この中に、日本語圏ユーザーであれば、「Japanese Enviroment(環境問題)」や「Japanese Sales Tax(消費税)」といったタグには左派が好む用語が含まれるツイートが、「Japanese Security(安全保障)」「Royal Family(皇室問題)」などは右派用語がタイムラインにこの人の好みとして頻出する可能性があります。チェックボックスを外せば、タイムラインに流れてくるこれらの分野とカテゴライズされたツイートは減少すると思います。
ガバナンスに問題がありましたね
もともとは、これらはジャック・ドーシーさんがTwitterのタイムライン内に流れる広告を流すユーザーを絞り込むターゲティングのために用意されていた機能であったものが、実はTwitterはすでにユーザーごとにクラスター化が進んで(悪く言えばタコツボ化しているので)あまり有効に機能させられない中、しかしタイムラインでは一定の割合でこれらの単語が含まれるツイートも表示される仕様になっていたようです。
さらに、Twitter社の方針として、URLが含まれるツイートは仮にリツイート数が多くともタイムラインへの表示割合を減らす一方、万バズするような画像付きツイートについてはより多く掲載するようになったため、零細アカウントでも突然、万単位のリツイートや「いいね」が付けられたり、バズる書き手は何を書いても千単位のリツイートが付く仕様になっていました。
これが現在一部緩和されたことで、ブログやニュースサイトでのTwitter経由の流入が増えたり、逆に西村博之(ひろゆき)やジャニーズ関連などのタレント・芸能人のツイートがタイムラインに以前ほどは流れなくなる仕組みとなっています。
これらの話題の中でも目下大変な懸念となっているのが、マスクさんが月額8ドルで売ると表明して騒ぎになっている青バッジ(ベリファイ)という本人認証です。
本来は、青バッジは政治家や公的組織のなりすましを防ぐために、Twitter社が仕様として本人や公式であるというお墨付きを与える機能であったものが、実際には、前述のキュレーションチームなどTwitter社員が懇意のマスコミや政党関係者、ビジネスマンらに優遇して青バッジを発行する行為が横行。さらには、「有償で青バッジを得ませんか」とセールスに回る元社員も出ていたことが明らかになりつつあり、さすがにTwitter社のガバナンスに過去から現在に繋がる大きな病巣があったようにさえ思います。
思いっきり日本政府を無視してましたね
一連の背景は、マスクさんによる強引なリストラで、言論の安全性や透明性に大きな疑問を投げかけるアクションが多くあり、Twitterから去ろうとするユーザーが騒ぐ反面、冒頭にも書きました通りGAFAを中心としたビッグテックの終わりの始まり的な文脈で理解されることもまた増えてきました。
年初来、アメリカ経済を牽引してきたAmazon、Apple、GoogleにFacebook(現Meta)と、Microsoftなどを加えた各社の収益見通しが悲観的となり、これらビッグテック株式が売り込まれる局面も昨今は見られるようになってきました。
また、ここ数日ではメタバースへの大きなシフトを狙ったMetaが、全世界社員の15%ほどにあたる1万1000人あまりを解雇する方針であると発表され、 ビッグテック各社が売り上げ見通しを引き下げると同時に思い切ったリストラ案を出すようになってきました。
一本調子で業容拡大をしてきたこれらの企業の再編が急ピッチで進む可能性が高くなっています。ビッグテック各社の自前でやりたがらない業務を支えてきたアクセンチュアをはじめとするコンサルテーション会社や、アテンションエコノミー全盛時代で 業務のコアプロセスから見直すことを本業とするDX専門サービスなどは、市場の拡大が一服して破産・倒産もあったうえで再編も進む時期に突入します。
日本では、これらのビッグテックが司るプラットフォーム事業者の業務に対して、日本人の財産や情報をどう守るのか議論を重ねて、具体的な対策を打たなければならない待ったなしの状況になっています。
先に述べた、Tiwtter社の会社法上の登記を日本で行わせる決定も、遅かりしとはいえ日本でこれだけの事業をやりながら、日本人や日本企業が受ける何らかの影響をビッグテック側が法的に無視したり、税制適格ストックオプションを駆使することで、日本で働き日本で給料をもらっている日本人なのに日本で納税しなかったり、カリフォルニア州に本社があるのにサーバーはアイルランドにある建前で不正な取引や著作権侵害などへの対応を怠ったり、これらの国際的大企業と、日本国民・日本企業と、日本政府との間での適切な関係性や距離感がうまく擦り合わせできない状態が背景にあることもまた事実です。
とりわけTwitter社はマスクさんによる買収前に、総務省の有識者会議である「プラットフォームサービスに関する研究会」(座長・宍戸常寿さん)の場において、誹謗中傷対策に関する情報開示をしたがらないという塩対応をしていました(「読売新聞」7月16日)。日本国内で割とマスクさんのTwitter社買収が好意的に受け止められている理由のひとつは、仮にもSNS事業を日本でやるTwitter社の、一連の運営や政府対応の微妙さ加減が背景にあったのではないかとも思います。
これらの問題も踏まえて、現在猛烈な勢いでマスクさんもTwitter社の経営改革を行う一方、ビッグテックの成長鈍化も見ながら国民の権利を保全できる政府の機能強化に繋げていってほしいと思います。