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ゴヲスト・パレヱド — 闇夜に吼えれば月魄は踊るか — 作者:雅彩ラヰカ

序章 赫く燻る黒煙

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プロローグ 捲土重来の狼煙

 昼下がりの青空に赫々たる炎が黒煙を燻らせながら上がっていた。とぐろを巻く蛇のように伸び上がるそれを辿っていくと、一台の普通乗用車がトラックと正面衝突し、電柱とトラックにプレスされて潰れているのが見える。

 それを自分は(・・・)他人事のようにどこか冷めた神仏のように、俯瞰視点から眺めている。

 燃え上がる炎の中から子供の泣き声がした。痛い、助けて、父さん母さん、兄ちゃん。そんな悲痛な声だ。


 耳障りだ。

 心を抉るような叫び声。そのまま締め上げて殺したくなる。助け出されず焼け死ね。そのほうが幸せだろうとすら、今の自分なら思える。

 けれどここで死んでしまえば、全部犯人(・・)の思うがままだ。


 近くにいた鬼族や犬系妖怪の、忠義に厚い男たちが周りの静止を振り切り車に近寄った。蝉妖怪たちが彼らに燦天道における絶対神・陽光(ひのみ)の加護を与えんと念仏を唱え始める。

 男たちは火に当てられながら大声で子供に助かるからと叫び、歪んだドアをこじ開けていく。人間の比にならない筋力をもつ彼らであれば、妖力機関式の自動車に用いられる軽合金程度容易く――力任せに――分解できる。


 どうにかして車のドアを外した彼らは一瞬怯んだように生唾を飲んだが、構わず泣いている子供を抱えた。他の男たちはわずかに迷った後で、隣に座っていた青年と思しき遺体の……その一部を回収する。

 男たちがその場を離れて間も無く、引火した液体妖力が爆発して大きな音を轟かせた。


 自分はそれを冷めた目で眺めていた。

 その後の地獄と、恐らくは尊厳を保とうとすればするほど反発的に苦しくなる目に遭うことを知っているから。

 その辛酸を舐める思いすら、この時の自分には耐え難い。でも、もしも目的を果たせたならそのときは胸に燻り続けるこの苦しみも、昇華させられるのだろうか?


 子供は黒い髪の男の子で、右の額から三日月状の銀色の角が三センチほど覗いている。煤に覆われた顔、その右側はひどく焼けただれ赤く染まっていた。

 救急を呼べ! 早く! ――そんな怒鳴り声が乱舞し、待ちきれないバイカーが少年を抱える男に叫んだ。乗れ、俺が走った方が早い! 男を妖力機関バイクのタンデムシートに乗せて走り去った。近場の病院へ走ったバイクを、大勢が見守っていた。


 平和なはずの午後に起きた悲惨な事故。

 少年はその日、両親と兄を失った。


 名門妖術師一族八雲家の彼らを襲ったそれは各地で謀殺と囁かれたが、当人の少年は何も語らず――、

 それからしばらくの時を経て、彼は野狐の女と共に妖術世界へと帰ってきた。


 両親と兄を奪った主犯を排除し、八雲家当主の座に戻るため。

 半妖の鬼子が、女狐と共に捲土重来の狼煙を上げながら――、


 八雲家当主の座を我がものとしようと企んだ分家から再び当主という立場を簒奪し、己こそが八雲の主だと宣言するために。

 たとえこの身が男でも女でもない(・・・・・・・・)肉体に(・・・)なろうとも(・・・・・)

 妖怪キャラを出すには和風の世界観にするのが良かったこと、異世界設定にしておくことで現実の社会情勢に振り回されない描写を可能とする前提を用意できるため和風異世界作品としています。

 ぶっちゃけ創作に関しては「私がアルファでオメガだ」の精神ですけど。

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