藤原さくらの愛するアコースティックミュージックと秋に聴きたいニューEP『まばたき』の魅力に迫る

藤原さくらの愛するアコースティックミュージックと秋に聴きたいニューEP『まばたき』の魅力に迫る
阿部裕華
阿部裕華

2022年5月から弾き語りで全国ツアーを実施中のシンガーソングライター藤原さくら。2022年11月9日には最新シングルEP『まばたき』を発売した。Curly Giraffeと制作した表題曲である新曲「まばたき」や発表済みでありながら初収録の「Just the way we are」をはじめ、これまでにリリースされた「ラタムニカ」「「かわいい」」「わたしのLife」「ゆめのなか」の弾き語りバージョンと、アコースティックなナンバーが収録されている。そんな『まばたき』の発売に合わせ、藤原さくらのアコースティックミュージックの原点や胸に残るアコースティックアーティストの話と共に、最新シングルEPについてたっぷり語ってもらった。【写真・井上友里】

藤原さくらの胸に残るアコースティックアーティスト

――藤原さんがアコースティックミュージックに興味を持ったキッカケから教えてください。

藤原:小学生の時にジプシー・ジャズのジャンゴ・ラインハルトの映像をお父さんから見せてもらったのがキッカケだと思います。小学5年生でギターを始めた時、シンガーソングライターという職業も知らなかったので、元々はギターを弾く人になりたくて。そんな中、ジャンゴの映像を見せてもらって、純粋にカッコいいなと思いました。ジャンゴは火傷の影響で左手の指が半分使えないのに、「こんな風にギターが弾けるんだ!」って。弦楽器が多用されたアコースティックな響きの音楽に惹かれたのもありますし、ギタープレイヤーとして惹かれたのもありました。それが私にとってのアコースティックの原点だと思います。

――「ノラ・ジョーンズが好き」とも以前からお話されていたと思うのですが、それはもう少し後のこと?

藤原:ノラを好きになったのは高校生の時ですね。地声がすごく低いので、当時は高い声の人や高いキーの楽曲に憧れがあったんですよ。ポール・マッカートニーがすごく好きで、彼はシャウトして歌うこともあれば、逆にすごく低いキーで歌うこともある。そんな声の幅がある人に憧れていました。当時流行っていたボーカロイドの高いキーの曲を練習したりとか(笑)。

――へぇ! そうだったんですね。

藤原:そんな中、ボーカルスクールの先生から「ノラ・ジョーンズの『Come Away With Me』ってアルバム、全曲カバーしてみたら?」と言われて。聴いてみたら自分の出せる声質と自分の好きな音楽が合致したんですよね。ウッドベースやブラシを使ったドラムが素敵でジャズの曲もすごく好きになりました。

なので、今の会社に入ったオーディションでもノラ・ジョーンズの曲を歌いましたし、デビュー当初から「アコースティックなテイストでやりたい」と言っていました。ずっと自分の声が嫌だと思っていたから、ノラ・ジョーンズに出会えてよかったなと思います。

――藤原さんから事前に回答いただいた「胸に残るアコースティックアーティスト」にノラ・ジョーンズを挙げたのは納得です。また、もう一人、ブルーノ・メジャーも挙げていただきました。中でもコロナ禍に発表されたアルバム『To Let A Good Thing Die』が胸に残ったとのこと。

藤原:ブルーノだけではなく、テイラー・スウィフトやビリー・アイリッシュなどコロナ禍でアコースティックなアルバムや楽曲をリリースするアーティストがすごく多かったんですよね。音数が少なく、余白のある作品ってすごくカッコいいなと思って。スタッフの方に「次はこういうテイストのアルバムをつくりたい」と提案したのがブルーノの『To Let A Good Thing Die』でした。2020年に「自分が『SUPERMARKET』というアルバムをリリースした時は、打ち込みでハッピーなテイストの作品や、ヒップホップに興味が向いていて、どちらかというと音数の多い曲が中心でしたが、今回の『まばたき』はその逆。原点回帰して制作に至りました。

最新シングルEP『まばたき』は自分の名刺代わりに

――アコースティックアーティストの影響でシングルEP『まばたき』の制作に至ったと。

藤原:そうなんです。つくり貯めていたデモの中にあった「まばたき」がいいのではとスタッフの方にアドバイスをいただいて、デビュー当時からお世話になっているCurly Giraffeさんにアレンジをお願いしました。それに加えて、以前Curlyさんとつくった「Just the way we are」が未だにリリースできていなかったので、今回収録することに。

――2017年に発表された「Just the way we are」を5年越しに初収録したのは、そういう理由があったからなんですね。

藤原:YouTubeには上がっているので、聴ける状態ではあったんですけどね……。いつの間にか時がすごく経ってしまいました(笑)。いつ、どの作品に入れるかをずっと伺っていたので、「まばたき」で久しぶりにCurlyさんとご一緒できたのをいい機会に、歌い直して収録する形になりました。

――このラインナップの中に既存曲のセルフカバーを収録した理由は?

藤原:Curlyさんとの2曲がアコースティックテイストだったのと、5月からずっと弾き語りツアーをしていたからですね。音楽以外の活動が忙しい時期でもあり「弾き語りセルフカバーをしてみるのはどうか?」と提案をされたんです。結果オーライというか、すごく良い作品が出来上がったと思っています。

――セルフカバー4曲中3曲はご自身で選曲、残りの1曲はファン投票をされたんですよね。

藤原:「わたしのLife」はツアーで初めてギターで弾いてみた曲、「ラタムニカ」はインディーズ時代のサブスクで配信していない曲、「「かわいい」」はライブでずっと歌っている曲、かつ好きと言っていただくことが多い、という理由でそれぞれ選曲しました。

そして、あともう1曲を何にするか考えた時、投票してもらうのがいいんじゃないかなと、ファンのみなさんに協力してもらいました。

――ファン投票ではアルバム『SUPERMARKET』に収録されていた「ゆめのなか」に決まりましたが、藤原さん的にこの結果はいかがでしたか?

藤原:意外でした。割と最近発表した楽曲ですし、自分のYouTubeに弾き語りカバーした動画をあげたりしていた楽曲なので。ファン投票だから、インディーズの頃の楽曲やサブスクに配信していない楽曲が1位になると思っていたから余計に驚きました。

出典元:YouTube(藤原さくら)

とはいえ、最初から「1位の曲をセルフカバーします」とはうたっていなくて「順位を参考にします」程度だったんですけど、デモの雰囲気に近い曲をリリースするのも面白いなと思ってセルフカバーしました。

――逆にアコースティックにセルフカバーしたことで、印象が変化した楽曲はありましたか?

藤原:「わたしのLife」ですかね。Yaffleさんがトラックをつくってくださって、そこに私がメロと歌詞を書いたので、ギターからつくっていない曲なんですよ。弾き語りツアーで初めて弾き語りで演奏したらコードがすごく難しくて(笑)。練習していくうちに全く違うアレンジになって「面白い!」と思いました。一番印象が変わったと思います。

出典元:YouTube(藤原さくら)

――アコースティックミュージックが好きな方にも刺さるEPになっていると思うのですが、藤原さんにとって『まばたき』はどんな役割を担うと感じていますか?

藤原:名刺のような役割を果たすのではないかと思っています。今年に入り、ミュージカルやドラマなどファン以外の方の目に触れる仕事をいくつかしてきました。そんな新しく出会った方たちが「藤原さくらって普段は何をしている人なんだろう?」と気になってくれた時に、このシングルEPを聴いてほしいなって。昔の楽曲、人気の楽曲、自分が今「いい」と思っている楽曲を収録しているからこそ、新しく知った方たちに“藤原さくら”が伝わったらいいなと感じています。

出典元:YouTube(藤原さくら)

難しくも楽しい、弾き語りツアー

――現在「弾き語りツアー 2022-2023 “heartbeat”」を絶賛公演中ですが、弾き語りのライブはバンドを携えたライブとはまた違う雰囲気なのでしょうか?

藤原:全く違いますね。弾き語りライブでは、照明が素明かり近いんですよね。やってみて初めて「今まで照明に助けてもらっていたんだな」と思いました。自分の歌とギターとMCだけで緩急をつけるのが最初は難しかったです。

宴会場みたいな会場ではステージと客席みたいに離れていないから、お客さんの顔がすごく見えるんですよ。距離が近いから、マスク越しでも表情が分かることが多いです。「この曲ってこんなに反応がいいんだ」「喜んでもらえるんだ」とか。ただ、プラネタリウムで弾き語りライブをやった時は、暗すぎてお客さんが全然見えなかったけど(笑)。暗いと眠くなるから、寝かせないようにコミュニケーションを取ったりしてました(笑)。

――会場によって条件がかなり違うんですね。

藤原:照明だけではなく、音のつくりも会場ごとに違います。音がすごく反響する会場もあれば、音を全部吸収しちゃう会場もある。場所によって勝手が違う分、トラブルに強くならざるを得ないんですよ(笑)。とはいえ、間違えても「もう1回やり直させて!」とオープンマインドな感じでやっています。何よりこれまでのツアーはアルバムが出てからスタートして、ようやく曲に馴染めてきたところで終わって、また楽曲制作に入ることがほとんど。ツアー自体をこれだけ長くやることが初めてだからこそ、昔の曲から今の曲までじっくり向き合える良い時間が過ごせています。

――最初こそ難しさを感じたけど、今は楽しいに変わったと。

藤原:20公演以上してきて、今はすごく楽しいです。自分の塩梅で会場の空気をどうにでもできてしまうから面白いし、ちょっとした度胸試しのようにも感じています(笑)。やればやるほど上手くなっている気がする。観客のみなさんもどんどん鍛えられてくるというか(笑)。これは人数が少ないからこそ叶うことです。

――一体感みたいなものが生まれている?

藤原:ですね。私がこの活動を始めた高校生の時、カフェやレストランなど数十人規模の場所でライブをしていたんです。でも、ドラマに出演した後に急にホールとか大きな会場でライブをすることになって。本当に人の気持ちが分からなくて、すごく怖くなったこともありました。「新しい曲、ちゃんと好きでいてもらえているかな?」「間違えちゃったらどうしよう…」と自分のことばかり考えてしまう時もあった。激しい曲を演奏すれば盛り上がっているのは分かるけど、自分のレパートリーにしっとりした曲が多かったこともあると思います。

でも今のツアーは最初の頃にしていたライブと近いものがある。お客さんの感情がすごく伝わってきて背筋が伸びます(笑)。「できるだけ自分もみんなも緊張しないような空気をつくろう!」と頑張ることができます。

弾き語りツアー、シングルEPを経た気づき

――シングルEP『まばたき』も弾き語りツアーも、ある意味「原点回帰」がテーマだったと思います。これを機に、改めて感じたアコースティックミュージックの印象とは?

藤原:シンプルこそ難しいということ。生半可な気持ちで歌ったらすぐに見透かされちゃうと思っていて。ハナレグミさんやマイケルカネコさんなど私が弾き語りで衝撃を受けた方たちは、ギターと歌で、アンプラグドで演奏をしても、胸の真ん中にズンと響くものがあるんですよ。それって自分がやろうとするとすごく難しいことだなって。1時間半くらいギターと歌だけで楽しませるって本当に難しい(笑)。だからこそすごく面白くもあります。

――難しいけど、“面白い”のですか?

藤原:お客さんと会話をしているような感じなんですよ。ホールライブだと映画を見に来るような感覚で見ている人もいると思うけど、小さい会場だとアーティストが目の前にいるからか緊張してしまう人がいて。私ももちろん緊張するからこそ、自分のペースに巻き込みながらお客さんの緊張をほどいていくような時間はすごく有意義だなと思っています。今のように近いところでやるライブは面白いですね。

――最後に、シングルEPとツアーを経て、次はどんなアルバムをつくりたいと考えていますか?

藤原:次は、いろんな人と一緒に意見を持ち寄りながらつくっていく作品になるんじゃないかな。これまでは作詞作曲を全部自分でやってきて、曲づくりの最初から最後まで自分で完結できる人になりたいと思っていました。だけど最近、Curlyさんを含めメロのアドバイスをもらいながら作曲することが増えたんですよ。

HIP HOPもトラックメイカーさんにトラックをつくってもらって、そこからラッパーがメロとリリックをつけていくじゃないですか。その場合は作曲がトラックメイカーさんになるんですよね。たしかにトラックがなかったら生まれていないメロディーなので。そういう知らなかった文化を知って、「いろんな曲のつくり方をしよう」「ゼロイチで誰かと一緒に作業をするのも面白い」と意識が変わってきたんです。次もそういう曲づくりをしていくと思います。

阿部裕華
阿部裕華

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