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「感染防御には抗体より細胞性免疫!」 「経鼻ワクチンで感染防御!」 こういうことを言う人たちって、IgAが粘膜で産生される【中和抗体】だということも知らずに言ってるんだろうな… COVID-19における抗体と細胞性免疫について簡単にまとめてみた #例によってALTをご参照下さい #今回はちょい難しめ
その1

今回のネタは以下の3本です。
(②は少し細かいのでスルー可)

① そもそも細胞性免疫とは
② 論文はちゃんと読もうね
③ COVID-19における重要性は 抗体>細胞性免疫>>>>自然免疫


①
最初に『細胞性免疫』について、簡単に解説しておきます。

免疫の世界で『細胞性免疫』という場合、教科書的には【細胞傷害性T細胞(キラーT細胞)がウイルス感染細胞・がん細胞などを排除する免疫機構】のことを指します。

細胞性免疫についてご理解いただくには、結核菌に対する免疫応答をご理解いただくのが早道でしょう。
結核菌はマクロファージに取り込まれ、その中で増殖する「細胞内寄生細菌」です。
結核菌は肺の奥深くまで入り込み、肺胞マクロファージに取り込まれることで、感染が成立します。結核菌はマクロファージの細胞内で増殖するため、抗体が菌に届かず、役に立ちません。そのため、結核菌に対しては基本的に『細胞性免疫』で対抗するしかありません。

しかし残念なことに、細胞性免疫だけでは結核菌を殺し尽くすことは難しく、菌を封じ込めるのが精一杯です。封じ込められた結核菌は休眠状態に入ります。眠りについた結核菌は、そのまま一生悪さをしないこともありますが、宿主の免疫が弱ると覚醒して活動を再開することがあります。(これを二次結核といいます)
このように【細胞性免疫だけでは、病原体を駆除し尽くすことは難しい】という残念な現実があることを、ご理解下さい。

さて、肺結核の病変として有名な乾酪壊死性肉芽腫の内部では、肺がチーズのようにドロッと溶けてしまっています。50年前に阪大第三内科の教授であられた山村雄一先生は、この乾酪壊死性肉芽腫が「結核菌そのもの」によって作られるわけではなく、「結核菌に対する免疫応答」の結果として作られることを発見しました。具体的には、結核感染歴のあるウサギに結核菌の死菌を投与した場合(結核菌そのものは悪さをしないのにも関わらず)乾酪壊死性肉芽種病変が作られることを確認しました。
先述の通り、結核菌に対する免疫応答は『細胞性免疫』が主体となります。
つまり、結核に感染して起こる「肺の破壊」は【細胞性免疫による免疫応答の結果として起こる】ということです。
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ALT
その2

細胞性免疫推しの皆様は、どうやら「病原体を排除しきれない」細胞性免疫の限界や、「体の組織を壊してしまう」細胞性免疫の負の側面といったものを、十分に理解しておられないようにお見受けします。

後述しますが、抗体は主に細胞外の病原体を、細胞性免疫は細胞内の病原体を撃退する免疫機構です。「どちらがより優れているか」を競うものではなく、協力関係にあるシステムです。
そうした教科書レベルの【常識】を理解してから、お話を組み立てて下さいね。



②

次に、先日界隈で話題になった論文について、簡単に触れておきます。

Genetic and immunologic evaluation of children with inborn errors of immunity and severe or critical COVID-19
https://jacionline.org/article/S0091-6749(22)01185-X/fulltext

イランからの報告で、2021年夏までにCOVID-19に感染した先天性免疫不全(PID)患者さんたちの治療経過と、それらの症例でみられた遺伝子異常について述べられています。

https://jacionline.org/action/showFullTableHTML?isHtml=true&tableId=tbl1&pii=S0091-6749%2822%2901185-X
Table1に著者らの自験例31例がまとめられています。PAD(液性免疫不全)2例は重症化したものの、いずれも回復しています。
・P1:ICU入りした高IgM症候群の8歳男性
・P29:非挿管人工呼吸を必要としたX連鎖無γグロブリン血症の13歳男性

一方、液性免疫・細胞性免疫の両方が働かないSCID/CID(複合性免疫不全) の症例は、10例全例がICU入りし、うち8例が死亡しています。

ここで、PADとCIDの治療成績を比較して「COVID-19では細胞性免疫が重要である」と主張なさる分には、さほど問題は無いと思われます。
画像の説明を読む
ALT
その3

さて、この論文では、全世界のPID患者でCOVID-19に感染した1210例の報告をかき集め、大雑把に分類してFig4にまとめています。

・CID:重症化率27.3%(26/95)・死亡率15.7%(15/95)
・SCID:重症化率29.7%(28/94)・死亡率11.7%(11/94)
・PAD:重症化率24.6%(160/656)・死亡率7.3%(48/656)
・食細胞機能不全:重症化率14.3%(6/42)・死亡率4.8%(2/42)
・補体機能不全:重症化率8.9%(11/123)・死亡率0.8%(1/123)

このデータからは

1) 補体(自然免疫)が機能しなくても、COVID-19の予後にほとんど影響は無い
2) 食細胞(自然免疫)の機能が弱いと、COVID-19の予後が悪くなるようだ
3) 液性免疫(獲得免疫)が弱いと、COVID-19の予後が明らかに悪くなる
4) 細胞性免疫(獲得免疫)・液性免疫の両方が弱いと、COVID-19の予後が非常に悪くなる

…という結論を導くことができます。
誰かさんは
『補体欠損症以外で死亡率が上昇した』
というFig4の下の記述(画像の引用部)に目が届かなかったのか
『自然免疫や細胞性免疫の重要性が示される結果と言えよう』
という不思議な結論をお出しになったようですが…
果たしてこの方に自己免疫疾患の指導医がつとまるのか、私は不安で夜も眠れません。


ところで、この論文の著者らは2020/12/01にPID+COVID-19のイランの19症例をまとめて報告しています。
Impact of SARS-CoV-2 Pandemic on Patients with Primary Immunodeficiency
https://link.springer.com/article/10.1007/s10875-020-00928-x

先の論文の雑なFigureと異なり、この論文のTable1ではイランのPID症例がデータベース化され、疾患別にまとめられています。
https://link.springer.com/article/10.1007/s10875-020-00928-x/tables/1
画像の説明を読む
ALT
その4

参考資料:小児慢性特定疾病情報センター
https://www.shouman.jp/disease/search/group/list/10/

この論文のTable1をご覧いただくと、PIDの中でも疾患によって登録患者数(Total patients in the registry)と現在の生存患者数(Alive patients during the pandemic)の割合に違いがあることがおわかりになるでしょう。
具体的には、IgA欠損症(液性免疫不全)のようにほぼ全例が生存している疾患もあれば、慢性肉芽腫症(食細胞機能不全)のように半数近くの症例がお亡くなりになったり、SCID・毛細血管拡張性運動失調症(複合免疫不全)のように登録症例の3割しか生存していない疾患もあります。

ここで重要なのは
・PADの中で最も予後が悪い無γグロブリン血症(Agammaglobulinemia)ですら、医療の進歩により7割が生存でき、現在では慢性肉芽腫症(CGD)より予後が良くなっていたこと
・にも関わらず、COVID-19に罹患したPAD全体の予後が食細胞機能不全より悪かった(7.3%死亡vs4.8%死亡)こと
です。

PAD:本来7-9割生存
(細胞性免疫◯・液性免疫×・自然免疫◯)
CGD:本来5-6割生存
(細胞性免疫◯・液性免疫◯・自然免疫×)

免疫グロブリン補充療法(IVIG)という「液性免疫の強化」ができる現代において、PADの死亡率がCGDの1.5倍になってしまったという事実は、COVID-19に対する感染防御において
【自然免疫(食細胞・補体)より液性免疫(抗体)の方がはるかに重要である】
ことを意味します。

ちなみにこのTable1には、細胞性免疫不全を反映するEBV易感染(Susceptibility to EBV)のうち1例がCOVID-19に感染し、回復したことが示されています。
また別の症例報告ですが、細胞性免疫不全を主とするDiGeorge症候群の2例は、いずれも無症状〜軽症でした。
DiGeorge Syndrome and COVID-19 in Two Pediatric Patients
https://www.jacionline.org/article/S0091-6749(20)32024-8/fulltext
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