2022.11.03

深刻化する円安、黒田日銀総裁は3期やって落とし前をつけろ《田中康夫・浅田彰》

「憂国呆談」第4回(中)
田中康夫×浅田 彰 プロフィール

ジョンソン復帰という悪い冗談

浅田 そう、アメリカで黒人のバラク・オバマも女性のヒラリー・クリントンも実はウォール街べったりだったように、女性であれ有色人種であれ政策では新自由主義的だってところが問題なんだよ。

スナクが先の党首選でトラスに敗れたのも、インド系であることより、金持ちすぎてインフレーションに苦しむ庶民の気持ちがわからないって言われたから。彼はインド系の両親から生まれ、オックスフォード大学とスタンフォード大学院で学んだ秀才……。

田中 そう、日本のメディアはインド系の風雲児のように扱いがちだけど、ゴールドマン・サックス出身でヘッジファンドのパートナーだった人物。

妻のアクシャタ・マーシーもインドのバンガロールが本社の多国籍IT企業インフォシスの共同創設者ナラヤナ・マーティの娘で、スタンフォード大学でスナクと知り合ったファッション・デザイナー。ザ・サン、デイリー・ミラーといったタブロイド紙にとっては恰好の餌食だ。

Photo by Shinya NishizakiPhoto by Shinya Nishizaki

浅田 夫婦の資産が1000億円を優に超え、国王をも凌ぐっていうんだけど、妻がイギリスで非定住者として登録されてるんでインフォシス株の配当収入の課税を免れてることが問題になった。

ともあれ、39歳でジョンソン内閣の蔵相に抜擢され、ジョンソンがパンデミック下でロックダウンを指示しながら身内で飲めや歌えのパーティを重ねてたのが後でバレて問題になったときは自分も罰金処分を受けながら、ジョンソン政権最末期になって「抗議の辞任」に踏み切り、ジョンソンを辞任に追い込んだ。42歳にして首相の座に就けたのはジョンソンの後任のトラスの自滅のおかげだけど。

こうしてみると、アメリカでポピュリズムがトランプ政権を生んだのが大きな断層だったとすれば、イギリスではポピュリズムがEU離脱(Brexit)とジョンソン政権を生んだのが大きな断層で、トラスもスナクもその後始末を迫られてるって言った方がいい。

田中 トラスの後継候補として、EU離脱を煽動したお騒がせ戦犯のジョンソンを始め6名の名前が当初、挙がった。退任した9月6日にダウニング街の官邸前で未練がましく「I am returning to my plough(一介の農夫に戻るか)」という科白を吐いたボリスは復帰する気が満々で支持も得られると「静養中」のカリブ海から急遽、戻ったものの反発も大きく、断念した

国家の非常事態時にあらゆる領域に強大な権限を有する独裁官(ディクタートル)を共和制ローマで2度に亘って務めたルキウス・クィンクティウス・キンキンナトゥスが、1回目の退官時に述べた科白を拝借したと「ザ・ガーディアン」が報じていたけれど、実際に牧歌的な生活に戻った彼が皆から請われて再登板した経緯とは大違い。

 

浅田 しかし、ジョンソンは議会での首相としての最後の発言を、『ターミネーター2』のアーノルド・シュヴァルツェネッガーの台詞を引いて「Hasta la vista, baby(また会おうぜ、ベイビー!)」と締めくくった根っからのポピュリストだからね。

田中 北朝鮮の弾道ミサイル同様に単なるお騒がせな鉄砲玉だった「黒田バズーカ」の製造物責任を取らせるべく日銀総裁の3期目突入論を述べた僕としては、思わず夕刊紙の見出しかと見紛う記事「生活費高騰の英国、追い詰められ性産業に走る女性ら」をロイター通信がアップする程の事態を招いた製造物責任者ボリスを首相復帰させ、
古今東西の故事来歴に精通していた自分も実は愚か者でしたと懺悔する証しとして「脱Brexitブレグジット宣言」の会見をさせて、屈辱のEU復帰を陣頭指揮させるのも、皮肉たっぷりなコメディ・グループ「モンティ・パイソン」を生んだ大英帝国としてはアリかもと密かに期待していたんだけどね(苦笑)。

とまれ、英国は食品価格の急騰を受けて、消費者物価指数が同年同月比で4月以降6ヵ月連続9%を上回り、9月は10%を上回る悲惨な状況に。国内世帯の半数が食事回数を減らしている調査結果まで発表された

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