就任44日でレームダックの英トラス首相
浅田 そもそもアベノミクスは金融緩和・財政出動・構造改革の「三本の矢」と言いながら、結局、極端な金融緩和で円安と財政規律崩壊を招いただけ。確かに円安で輸出は伸びるけど、それは安売りに過ぎない。しかも、昔と違ってグローバル化した経済では日本製品にも海外から輸入した部品がたくさん入っててそのコストは上がるから、昔ほどは儲からない。
田中 他方でイギリスでは、さっき浅田さんが触れた通り、マーガレット・サッチャー、テリーザ・メイに続いて9月6日に3人目の女性首相となった保守党のリズ・トラスがレームダック状態に陥り、10月20日に就任44日で辞任を表明した。
前任のボリス・ジョンソンが計画していた法人税引き上げを棚上げすると公約し、大幅な政府借り入れを前提に総計450億ポンド≒7兆6119億円もの大規模減税で景気回復を実現、と大見得を切ったものの、本来ならば「金融市場」が歓迎する「法人税の増税計画廃止」もプラン自体が生煮えだった。
中央銀行のイングランド銀行がインフレ抑制策として保有国債の売却を計画する最中に、国債の大量発行を伴う彼女の政策は財政赤字拡大とインフレ加速懸念を招いて、英国債とスターリング・ポンド、株価のトリプル安が直撃。
トカゲの尻尾切りで財務大臣のクワシ・クワーテングを在任38日で解任したら、お前は辞任しないのかとブーメランが飛び、その首相を朝令暮改が過ぎると私用メールで批判したのが問題視された内務大臣のスエラ・ブレイヴァーマンも辞表を提出。墜落寸前の支持率7%で万事休すとなった。
ちなみにジェンダーとしては男性のクワ-テングの両親は英連邦のガーナ出身で、女性のブレイヴァーマンの両親はモーリシャスとケニアから英国に移住した元々はインド出身。ついでに言えば男性のジェイムズ・クレヴァリー外相も母がシエラレオネ出身。前回の党首選挙でトラスに敗れ、首相に今回就任した男性のリシ・スナクもインド系。
アフリカ、中近東、アジアからの略奪品を歴史として大英博物館に平然と展示する傲慢な大英帝国とはいえ、旧統一教会=世界平和統一家庭連合(旧称世界基督教統一神霊協会)や日本会議に象徴される「多様性」とは真逆な主張を掲げる集団にシンパシーを抱く国会議員が大半の日本と、この一点に於いては対照的だ。
浅田 そう、トラス内閣で首相・蔵相・外相・内相(イギリスでGreat Offices of Stateと呼ばれる主要閣僚)に白人男性がゼロだったのは、かつての大英帝国がポストコロニアルになった姿を象徴してるとも言える。それは、有色人種として初めて、またヒンズー教徒として初めて首相になったスナクも同様。
日本で首相をはじめとする主要閣僚に日本人男性がいないなんてことはまだとても考えられないんで、イギリスは進んでると言えば進んでる。
田中 とは言え、元首相のサッチャーを筆頭にメイ、ジョンソン、前首相のトラスも含めて全員が「格差社会」英国の勝者たるオックスブリッジ(オックスフォード大学&ケンブリッジ大学)出身(苦笑)。フランスの哲学者だったアンリ=ルイ・ベルクソンの言葉を援用すれば、「分析知」も「直感知」も鈍い視野狭窄な偏差値教育的アルゴリズムの、ひよわな優等生集団なんだなぁ(苦笑)。