深刻化する円安、黒田日銀総裁は3期やって落とし前をつけろ《田中康夫・浅田彰》
「憂国呆談」第4回(中)財務省の覆面介入は焼け石に水
田中 以前から浅田さんが述べているように、「明治維新」から77年後に敗戦を迎えた日本の、その77年後が2022年の今年だ。前回、前々回も述べたけれど、政治も経済も社会もメルトダウンどころかメルトスルー状態で、しかも四角四面な理詰めとは違う意味合いでのロジカルに考える議論すら出来ない国家になっている。
深刻化する円安を招いた「アベノミクス+クロダノミクス=アベクロミクス」の量的・質的金融緩和の責任を取って直ちに辞任せよ、と10月18日の衆議院予算委員会で迫られた日本銀行総裁の黒田東彦(はるひこ)は、「辞めるつもりはない」、「異次元の金融緩和はデフレを解消し、成長を回復し、雇用を増加する意味で効果が有った」と居直った。
翌19日の参議院予算委員会では「最近の円安進行は急速かつ一方的で、日本経済にマイナスで望ましくない」と逃げを打ったけど、当たるも八卦(はっけ)当たらぬも八卦な経済評論家かよ、お前さんは。「通貨の番人」じゃなかったのかい?
円安は「着実」に進行して10月20日には東京外国為替市場の円相場が1ドル=150円台に突入した。1990年8月以来、32年振りと廊下トンビなメディア各社は大騒ぎだけど、鉄仮面な黒田は、「49年前の1973年2月までは1ドル=360円の固定相場でも日本経済は成長し続けたからノー・プロブレーム、マイペンライ」とか言い出しかねない(苦笑)。
ここまできたら、「三十六計逃げるに如(し)かず」とばかりに在任10年を迎える来年4月8日の任期で彼が高飛びするのを許さず、敢えて3期目へと突入させて「異次元の金融緩和」の落し前を付けて貰うべきかもよ。
日本全体が奈落の底に落ち続けるのは必至だけど、既に日本はメルトダウンどころかメルトスルー状態だから、「責任」という言葉を知らないヘドロというか膿のような存在はこの際、徹底的に自己責任でサルベージさせる選択もアリでしょ。
浅田 10月21日に政府・日銀が5.5兆円規模の為替介入を行って145円に戻したものの、それは束の間のことで、すぐ円安基調に戻った。その後も覆面介入を続けてるけど、軍資金の外貨には限りがあるし、市場はそれを見抜いてるから、焼け石に水でしかない。
確かにいまの日本は安易に金利を上げられる状態じゃないとはいえ、世界の中央銀行がインフレーション抑制のため金利を引き上げるなか黒田日銀だけが意固地になって「異次元の金融緩和」に固執し続けるのはどこから見ても異様で、少なくともマイナス金利も含むイールド・カーヴ・コントロールはもう終わりにすべきだと思うね。
田中 同志社大学大学院ビジネス研究科の浜矩子(のりこ)が、「茶番の為替介入…日銀よ、おまえたちは手品師のつもりか」と題して10月10日段階で「日刊ゲンダイ」に寄稿していた。
それは「風が吹けば桶屋が儲かる」の逆ヴァージョンのような悲惨な絵解きなんだけど、自国の通貨を売るのと違って自国通貨買いには外貨が必要。日本の外貨準備の大半は米国債。それを売ってドルを調達すると、市場で米国債の供給が増えて米国債の価格が下がり、米国債の利回りは上がるので、日米の金利差が更に拡大して急激な円安が進行。その円安を阻止しようと介入規模を大きくすればするほど円安進行になると(苦笑)。
少し時計の針を戻すと、米国連邦準備理事会FRBが9月21日の金融政策決定会合で0・75%の大幅利上げを3会合連続で決定し、翌22日にはスイス国立銀行SNBも欧州中央銀行ECBに続いてマイナス金利政策を解除。残るは日本だけとなったのに日本時間22日午後の会見で「金利は当面引き上げない」と黒田は大見得を切った。
その黒田が財務官を務めた財務省の指示を受けて日銀が行う円買いは、民間金融機関が日銀に開設している当座預金の円資金で行う。日銀には反旗を翻さないものの、国内の金融機関は当座預金に円資金を確保しておきたいから、日銀に吸い取られてしまった分の円を短期金融市場から調達しようとする。
すると円資金需要が増え、円金利が上昇して米国との金利差が縮まり、円安圧力が多少は緩和されるものの、金利が上がると国債の利払いが増えて日本政府がサドンデスしちゃうから、その悪夢を避けるべく円資金を短期金融市場に再び供給せねばならず、「異次元の金融緩和」を「アホノミクス」と命名した浜矩子曰く、「これでは、やったことを帳消しにするわけで、日米金利差は縮まらず、円安圧力は緩和されません」と(涙)。
1990年代に三菱総合研究所で初代の英国駐在員事務所長を務めていた頃と比べると、随分と良い意味で論評の姿勢が変わった彼女は、「異次元緩和を継続している以上、どんなに為替介入を実施しても悪循環の繰り返し。日本の金利上昇を日銀が容認しない限り、悪循環は断ち切れない。この解けない結び目をどうやって解いてみせようというのか。日銀よ、おまえたちは手品師のつもりなのか…」と締めている。
こうした指摘が、“パヨクの牙城”と「ネトサポ」からディスられている「日刊ゲンダイ」に掲載される一方、腑に落ちる解説が一般紙には見当たらず、調査報道でなく発表報道として時々刻々の為替の数値だけを報じるメディアも、日本の劣化を体現しているね。