東京電力福島第一原発から出る処理水の海洋放出に向けて政府は8日、漁業者支援のための基金500億円を盛り込んだ2022年度第2次補正予算案を閣議決定した。来年の放出までに漁業者からの理解を得たい考えだが、いまも風評被害に苦しむ被災地からは厳しい声もあがる。
10月末、福島県相馬市の港。穏やかな海に夕日が沈みかけていた。3月の地震で被害を受けた相馬双葉漁業協同組合は、崩れ落ちた天井がシートで覆われている。その一室で、西村康稔経済産業相と地元の漁業者との懇談会が開かれた。
今野智光組合長は「廃炉のために処理水対策が必要なことは理解する」としながらも、「我々はこの場所から逃げ出すことはできない」と語った。
相馬双葉漁協では、昨年度の漁獲量は震災前と比べて2割ほどに減り、売り上げも3割に満たない。魚が捕れても思うように値がつかず、漁師のなり手も減っているという。懇談会に参加した漁業者らは、処理水の放出によって風評被害がさらにひどくなることへの不安を訴えた。
「いまだに『福島産品を持ってこないでほしい』という市場がある」「さらに売り上げが減れば、地域の海、ふるさとを守っていけるかわからなくなる」
西村氏は漁業者たちへの「お土産」として、被災地産品の消費を促すための「官民連携のネットワーク」を立ち上げると宣言した。だが、漁業者らにはあまり響かず、「新たな取り組みも必要だが、今の制度をもっと使いやすくしてほしい」という声も漏れた。