わずか1600光年先で地球に最も近いブラックホールが発見される
これまで地球に最も近いとされていたブラックホールの3分の1の距離
「NOIRLab(全米科学財団国立光赤外線天文学研究所)」の管理するハワイの『Gemini Observatory(ジェミニ天文台)』が11月4日(現地時間)、地球に最も近いブラックホールをわずか1600光年先で発見したと発表。
極めて高密度で強力な重力により、物質だけでなく光さえ脱出することができないブラックホールは、地球が属する天の川銀河だけで推定1億個あるとされている。今回、「Harvard-Smithsonian Center for Astrophysics(ハーバード・スミソニアン天体物理学センター)」の天体物理学者であるKareem El-Badryを代表とする研究チームが観測に成功したブラックホールは、“Gaia BH1”と名付けられており、太陽の約10倍の質量で、約1600光年離れたへびつかい座の近辺に位置。その距離は、これまで地球に最も近いとされていたいっかくじゅう座X-1の約4700光年と比較して実に3分の1ほどとなっている。
先述した通り、天の川銀河には何百万ものブラックホールが存在する可能性があるが、これらのほとんどが近くの恒星から物質を取り込むことで熱が発生し、強力なX線とジェットを放出する。一方、今回発見されたGaia BH1は、周辺に吸収できるエネルギー源が存在しない“休眠状態”のブラックホールで、X線などを放出せずに周囲に溶け込んでいるため、観測が困難とされていた。しかしながら、El-Badry率いる研究チームは、「ESA(欧州宇宙機関)」のガイア探索機からのデータを分析し、この連星にブラックホールが存在する可能性があることを特定。分析したデータには、“目に見えない巨大な天体”の重力によって引き起こされたと思われる、恒星の不規則な動きが捉えられていた。
さらに研究チームは、地球が太陽を周回するのとほぼ同じ距離でブラックホールと思しき天体を周回する恒星の軌道を、『Gemini Observatory』に搭載された多天体分光器を用いて精巧に観測。その結果、この連星の中心にある目に見えない天体が、太陽の約10倍の質量を持つブラックホールだと突き止めたという。El-Badryは、これに関して「私は過去4年間、さまざまなデータセットと方法を使用して、休眠中のブラックホールを探してきました」とコメント。「私の以前の試みは、他の試みと同様に、ブラックホールになりすました連星系の群れを見つけましたが、探索が実を結んだのはこれが初めてです」と付け加えた。
Gaia BH1の元となった恒星は少なくとも太陽の20倍の質量を持っていたとされ、寿命はわずか数百万年だったと考えられている。この連星が同時に形成された場合、この巨大な星は、太陽のような水素を燃焼して輝く主系列星になる前に、急速に超巨星となり、もう一方の星を膨らませて飲み込んでしまうと考えられており、既存のモデルで連星が形成されたメカニズムを説明するのは難しいとのこと。今回の発見は、連星系におけるブラックホールの形成および進化について理解のギャップがあることを示すと共に、連星系のなかにまだ調査されていない休眠状態のブラックホール集団が存在することを示唆している。