や団が明かす「人生で一番嬉しかった松本人志さんとの会話」
2022 M-1、KOCへの道:「や団」【後編】
ネタに強いソニー芸人、ダメ出し文化の起点に野田ちゃん
――先月9月17日に行われた「SMAトライアウトライブ 銀のたまご」を拝見しましたが、ライブ後は必ず総括を行っているんですね。ソニーの芸人さんがネタに強くなったのは、ダメ出しし合える文化が大きいと思いますか?
本間:そうだと思います。最初はほかの事務所でダメだった芸人の寄せ集め軍団だったので。やっぱみんな傷ついてるからか、そういう文化ができたんですよね。「ここ、こうしたら?」みたいな感じで。
中嶋:野田ちゃんさんとロビンフット・おぐさんから始まったんじゃない? バイトも一緒だったから。あの2人は、バイト中もずっとネタの話をしてたんですよ。
本間:そうだね。そこに僕も入ったんですけど、まぁ毎日お笑いの話しかしてなかった。そこから野田ちゃんさんが大事なオーディションなり仕事なりがあると、おぐさんに見せるようになって。僕らも『爆笑オンエアバトル』(NHK総合)とか出る時は、おぐさんに見せるようになったんです。
なんとなくその流れが広がって、「ライブで見といてください」
――舞台上の芸風とぜんぜん違いますね。
伊藤:ネタには相当ストイックでしたね。
本間:あの人がすごいことを見つけたんですよ。それが「芸人にダメ出し聞くと、絶対嘘つかない」ってこと。もちろんつまんないアドバイスしてミスさせることもできるけど、実際にやってみてダメだった時に「これつまんねえな」ってすぐバレるから芸人としての信用がなくなるんですよ。
やっぱ芸人は自分が面白いって思われたいから、「どうでした?」って聞かれたら「いいアドバイスしたい」「絶対面白いと思われたい」ってなる。それで、「芸人に聞くのが一番いい。本気で考えてくれる」と言ってて。本当すげぇなと思いました。それってすごい発見だなって。
ロビンフット・おぐの金言「お前らがウケるのは腹立つけど」
――ソニーには、バイきんぐ、ハリウッドザコシショウさんのほか、賞レースの決勝経験者が数多くいます。こうした方々からのアドバイスで、もっとも印象深かったのは誰のどんな言葉でしたか?
本間:僕がずっと心に残ってるのは、ロビンフット・おぐさんの言葉。僕らが20代の時に『オンエアバトル』に出ることになって、事前にBeachVでネタを試そうってなったんです。その時におぐさんが見にきて、いろいろとアドバイスしてくれて。打ち上げの途中で「帰るわ」ってなったから、ちょっと見送りにいったんですよ。
その時に、おぐさんが「お前らがテレビでウケるのはめちゃめちゃ腹立つけど、こんだけアドバイスしてスベるのもめちゃくちゃ腹立つから、どっちみち腹立つならウケて腹立たれたほうがええやろ」って言って去っていったんです。むちゃくちゃ正直な人だな、と。普通なら「こんだけアドバイスしたんだからウケろよ」とかでいいのに、「お前らがウケるのは腹立つけど」っていうのがグッときましたね。
伊藤:アドバイスでいろいろ言ってくれるっていうのもありますけど、単純に僕は小峠さんとかシショウ(ハリウッドザコシショウ)とかが僕らのネタを見て笑ってくれるだけで「もう言葉いらねぇや」みたいなところもあります。もちろん、人柄もあってのことですけどね。
あと、キャプテン渡辺さんが『オンエアバトル』の前にネタを見てくれて、「前日のアドバイスとしては細かく言えないから、あとは気持ちや。胸張っていけ」って言ってくれたりとかね。今考えると完全に精神論なんだけど(笑)、言ってることは間違いない。
中嶋:僕は先輩からお笑いの話をされることないので……つけ麺で日本一になった「とみ田」さんの言葉ですかね。松戸にあるつけ麵屋で「日本一になるアドバイスください」って聞いてみたら、「常にそのお客様を楽しませる努力をする」って返ってきたんです。
ラーメン屋さんでも、常にお客さんを楽しませるためにちょっとずつ変えて、ブラッシュアップし続けて今に至ると。だから、僕もネタの中で1個でも楽しませようって気持ちでこの1ヵ月やってます。
松本人志との会話に感動。「あの帰り道が、人生で一番嬉しかった」
――いよいよキングオブコント決勝です。ダウンタウンとの共演は、『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』(日本テレビ系)内の企画「山-1グランプリ」での優勝以来となります。
本間:ダウンタウンさんの前でネタできるっていうのは楽しみっすね。
伊藤:僕らが優勝した2019年の「SMAホープ大賞」(ソニー所属の芸人No.1を決めるお笑いコンテスト)にも、エンディングで松本(人志)さんがサプライズで登場したんです。けど、その時は割とすぐタクシーで帰られたから、ちゃんと会話もできなくて。
本間:ただ、「山-1」の時は、ご挨拶行った時に少しお話できたんですよ。
伊藤:めちゃくちゃ嬉しかったです。あの松っちゃんが俺らのほうを向いて、いろいろ言ってくださって。ちょっと興奮してて詳しくは覚えてないけど(笑)、すごい親身になって「ええと思うよ」「もう1本ネタあるん?」みたいな。ほかの芸人もいっぱいいたから、すぐ移動しなきゃいけなかったんですけど。
本間:その後、たまたま僕らが楽屋から帰る時に、松本さんがちょうどトイレに立たれたんです。だから、エレベーターまでの廊下でもお話しして。
伊藤:そこで、また「頑張りや」とか「ええやん、あれ」とかって言ってくれたよね。
本間:僕としては芸の話をしてくれてるのが嬉しくて。俺らのことをちゃんと芸人仲間として見てくれてると思ったら、むちゃくちゃ感動しましたね。
伊藤:俺あの帰り道が、人生で一番嬉しかったんじゃないかな。「ダウンタウンさんと裏のところでしゃべれた」ってことが嬉しかった。番組の演者とかじゃなくっていうのがね。
本間:そうっすね。1タレントとファンじゃなくて、芸人同士としてしゃべったというか。そういう意味でも、ダウンタウンさんの前で結果を残したいですね。
取材・文:鈴木旭
フリーランスの編集/ライター。元バンドマン、放送作家くずれ。エンタメ全般が好き。特にお笑い芸人をリスペクトしている。2021年4月に『志村けん論』(朝日新聞出版)を出版。個人サイト「不滅のライティング・ブルース」更新中。http://s-akira.jp/
撮影:スギゾー