音楽と物まねでカニカマに 清水ミチコが全国ツアー
シンガー・ソングライターの矢野顕子がカニなら自分はカニかまぼこ―。タレントの清水ミチコは「清水ミチコリサイタル カニカマの夕べ」と題した全国ツアーを来年3月まで行い、1月2日には東京・日本武道館で9回目の公演を開催する。(共同通信=高橋夕季)
高校時代に矢野の音楽に衝撃を受け、物まねを続けてきた。「(似ているかどうかよりも)私がカニになり切っている姿が愚かしくて、おかしいということでしょうか」
ピアノの弾き語りと物まねを掛け合わせるなど、音楽と笑いから成る芸のスタイルは、タモリからヒントを得た。短大への進学を機に故郷の岐阜から上京。タモリのコンサートで目にした笑いあり、音楽ありの表現に「こんなすてきな世界があるのか」と引き込まれ「自分が一番輝いて見える世界が見えてきた」。
短大卒業後、ラジオ番組の放送作家を経て1986年、東京・渋谷の小劇場「ジァン・ジァン」でライブデビュー。ミュージシャン、俳優、政治家ら大物をネタにしてきた。「権力を持った人って、物まねをすると楽しい空気になるんです」
新型コロナウイルス禍で大ヒットしたのは、小池百合子・東京都知事の物まね。20年4月に動画投稿サイト「ユーチューブ」でチャンネルを開設し、ネタ「都知事からのメッセージ」を公開したところ、視聴回数は早々に100万回を突破した。「20年に1度しか現れないような、おいしい魚」を見事に調理し、人々の窮屈なステイホーム生活を潤わせた。
言葉を途切れさせることなく「however、しかしながら」と英語を挟み、淡々とつないでいく。「小池さんは英語を使うところとか、しゃべり方がおしゃれなんです。そこをおいしく料理させていただきました」。声質も姿も全く異なるのに、言いそうで言わないせりふが、本人をほうふつさせて笑いを誘う。
コロナ禍でのライブは、入場者数を減らしたり、歓声の代わりに拍手を求めたり。それでも観客は、込み上げる笑いをこらえ切れない。「すごくうれしくなって『ダメですよ笑っちゃ』と上機嫌で注意していました。お客さんがライブに来てくれることのありがたさを、より実感しました」
ライブ歴は37年目。コンプライアンス(法令順守)を重視するなど人々の感覚が変わり、自らが年を重ねたことで、新たな課題が生まれた。「若い人で権力者や面白いアイドルが登場しても、私が物まねすると、いじめているように見えてしまう」。人の容姿はもちろん、被害者の心情をおもんぱかると、犯罪も取り扱うのが難しい。その中で東京五輪・パラリンピックを巡る汚職事件など、人々が聞けば、胸がすくようなネタにつながる出来事や「自分より年上で、権力者で、よしんば意地の悪い人」を日々探す。
人々のスピード感も変わった。インターネットで配信される映画を1・5倍速で見ることができ、前奏がなくていきなり歌い始める楽曲がヒットする。ライブも従来通りの時間を長いと感じる観客がいるのではないかと考えさせられるという。
今回のツアーでは、昨年99歳で死去した作家で僧侶の瀬戸内寂聴さんと、歌手Adoのヒット曲「うっせぇわ」を融合。寂聴さんの名前と、曲名に通じる「静かに」という意味合いに着目したネタを用意した。
人気ミュージシャンの歌の世界を要約して、自ら作詞、作曲して歌うネタ「作曲法」では、年内で芸能活動の一線から退く意向を示したシンガー・ソングライターの吉田拓郎をモチーフにする。
そして「裏テーマ」は、敬愛するシンガー・ソングライターの松任谷由実だ。デビュー50周年を迎え高まる祝賀ムードを大歓迎。「風が吹けば、おけ屋がもうかる、というようにユーミンさんが忙しければ、私も忙しくなる。カニカマというより、コバンザメかもしれません」と、うれしそうに話す。
大物をまねることに恐怖心はないのか。「最初は怖かった。ただ根底に、その人になりたいという強い尊敬が、誰にも負けずにある。それがきっと本人たちの怒りを鎮めていると、都合よく思っています」