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49歳の慶応大元教授が脳梗塞で陥った「超孤独」 暗転した人生「死ぬのも生きるのも怖い」

東洋経済オンライン / 2022年11月8日 7時30分

誰にでも起こりうる突然の病。単身世帯が増加する中、孤立に陥る人が増えている(撮影/今井康一)

今年のノーベル経済学賞はベン・バーナンキが受賞した。日本で数少ないバーナンキ門下生の一人が慶應大学商学部元教授の渡部和孝氏(49歳)だ。本誌編集者はノーベル賞の取材のため渡部氏に連絡を入れた。ところが、渡部氏は9月末に大学でのポジションを失ったばかりだった。2019年に脳梗塞で倒れ、今も言語障害に苦しんでいる。

「経済的な不安の中で、この先どう生きていったらいいかわからない」。初めて連絡を取った編集者に、渡部氏はそう吐露した。他に相談できる相手がいないからだ。突然の病によって、誰にでも起きうる孤立と孤独。救いの手はあるのか。

文字がまったく読めない

ハロウィンで飾られたかぼちゃの絵を指さして、渡部和孝は言う。

「あれは何て言うんでしたっけ? あの、そこにある、丸い……」

「かぼちゃのことですか?」と記者が聞くと「そうでした。そんなこともわからなくなっていて」と口ずさみ、うつむいた。

言葉が出てこない。文字を正しく認識できない。脳梗塞の後遺症による失語症だ。第一線の研究者として活躍し、語学も堪能だった渡部にとって、これほどつらいことはない。「えーと、言葉が出てこなくて……」。簡単な言葉を思い出せず、何度も沈黙が流れる。それでも長い時間をかけて記者の質問に答えた。

渡部が病に倒れたのは2019年5月。マンションの管理人と話していたところ、呂律が回らなくなった。歩くことはできたため、タクシーに乗るかのように救急車で搬送された。持っていた本を病院で開くと、まったく文字が読めなくなっていた。

脳梗塞の手術を受けたが、言語障害や注意力障害といった障害が残った。入院直後のまったく字が読めないという状況からは回復し、退院後は出向していた内閣府の経済社会総合研究所で非常勤として働き始めた。しかし、文字を読むスピードが遅く、ひらがなやカタカナを単体で認識できなくなっていた。

役所の担当者や郵便配達員との会話にも苦労する。言われたことをすぐに忘れたり、慣れない場所に一人で行ったりすることも難しい。そのような状況で、研究を続けるのはとても無理だった。結局、休職期間を経て大学は退職。出向していた研究所も契約更新せずに辞職した。

渡部は現在、同大学の障害者雇用で臨時職員として働いている。勤務日は週3日、データ入力の作業だ。時給は1150円。その給与と月8万円ほどの障害者年金が現在の収入だ。

「研究職を失った悲しさはあるのですが、それ以上に、人生が変わってしまって、今後どうやって生きていったらいいのかわからない不安のほうが大きいです。今のような状況で、ただ死んでないだけの状態では希望を持てず、かといって自殺する自信もありません。日々、ぼーっとしたまま、悪いことだけが淡々と起きていくという状態です」

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