台湾での殺人事件で動いた香港政府

 きっかけは2018年2月、香港の19歳の男が台湾に旅行中、同行した女性を殺害したとされる事件でした。男は逃亡した後、香港に戻ったのですが、この事件を香港と中国の一体化を進めるチャンスとみた香港政府は、2019年2月に逃亡犯条例の改正案を提出するのです。

 この改正案が成立すると、香港と中国本土の容疑者引き渡しが可能となり、香港市民が中国当局の取り締まり対象となってしまいます。これでは香港の自治が揺らぐと考えた市民の間で2019年3月から反対運動が始まり、同年12月には約80万人が参加(主催者発表)する大規模なデモが行われるまでになりました。

 危機感を抱いた警察は、2020年春以降にはコロナ禍対策を理由に集会を許可しなくなります。さらに2021年3月には香港の選挙から民主派を排除し、反中国的な新聞を廃刊に追い込むなど、中国の圧力で香港の民主化運動は潰されてしまうのです。

香港で容疑者の中国本土引き渡しに抗議デモを行った周庭氏ら民主派団体は2019年6月、日本でも記者会見を開いた(写真:ロイター/アフロ)

 一連の経緯の発端となった犯罪者引き渡し問題から香港経済の凋落が始まったと言えます。