真摯に“音楽”へ取り組む、その内面に迫る！MONACA 田中秀和・広川恵一インタビュー（後編）

広川
最近は、特に歌モノについては「世の中に新しいものを生み出す」という気持ちをしっかり持って作るようにしています。例えば「爽やかな曲」というオーダーに対してセオリー通り普通に打ち返すだけだと、世の中似たような曲ばかりになっちゃうと思うんですよ。だから、アニメの曲なら「こういうお話の作品で、こういう人の歌う、こんなジャンルの曲」みたいな、今回でしか揃わない要素をしっかり反映させて作らないとダメかな、ということは、よく考えるようにしています。
田中
なるほど。僕はすごく大それたことを言ってしまうんですが、“そうあれたら”と心がけているのは、より普遍的な音楽を目指していきたいという想いですね。それは、最近よく「仕事だから音楽をしているんじゃなくて、自発的に音楽をしている」というスタンスであれたらいいな、と思うことが大きいんです。これが正しい表現なのかはわからないですけど……。
広川
なんですか、その……モテコメントは（笑）。
田中
いや、ホントにそう思ってるよ？（笑）。最近お仕事をご一緒させていただいた大御所の方が、口癖のように「音楽しましょう！」っておっしゃっていて、それに今すごく影響を受けているんです。「音楽する」ってすごくシンプルなんだけど、忘れちゃいけないことだよな……ってすごく痛感して。だから「自分は今、この瞬間ちゃんと音楽できてるか？」という想いを大事にしたいんですよね。

広川
うーん……出来上がったときですかね？
田中
あ、そうなんだ。作ってる最中じゃなくて？
広川
割と。途中ひとつひとつの部分ができたときの小さな喜びはあったりするんですけど、最大の喜びポイントはやっぱり完成の瞬間な気がします。
田中
僕は結構、作ってる最中も楽しいです。曲の方向性が見えて、曲をブラッシュアップするアイデアがどんどん湧いてきて、それが具現化されて本当に曲が良くなっていくさまを目の当たりにしているときは、楽しくて時間も忘れます。もちろん完成したときも、すごくうれしいんですけどね。
広川
僕も、作ってる最中は気分が乗った状態にはなるんですよ。でもそれはただテンションが上がっているだけで、感情はそんなにないけどめちゃくちゃ集中してる……という感じなんです。
田中
あ、それ本当に違う感じがするな。面白いね。

田中
そうですねぇ……長いときは何日間か悩んでしまうこともあります。でもその悩むポイントっていうのは、そんなに複雑なものじゃないんですよ。ある程度曲が書き進んでからの悩みだったら、たぶんそこまで悩まないと思うんです。でも曲を書き始めるまでの、いちばん最初の段階で悩んでしまうと、ムチャクチャ時間かかってしまいますね。
広川
僕も悩むのは、最初の出だしですね。「この範囲が正解」というときと、「正解が一点しかない」みたいなパターンがあると思うんですけど、“点”がわかりやすく表に出ていなくて「見えないけど、たぶんこれ点しか正解がないな」って感じるときもあるんです。そんなときは、時間をかけて頭の中で模索しますね。「こうしようかな……いや、これだとたぶん違うな……」と考えて、方向性が決まってから音にしています。

田中
はい。僕は昔、ある女性声優さんが両足にお怪我をされた状態でレコーディングにいらしたときに、最後まで立ったまま歌われていったことですね。お仕事に対して厳しいというお話を聞く方だったんですけど、何より自分への厳しさとプロ意識にハッとさせられました。それから何かあるたびに「ちゃんとこのレコーディングに対して、自分は真剣に取り組めてるかな？」と心に留めるようにしています。
広川
僕も、とあるアーティストの方の歌を録ったときに、どういう現場であれ自分で空気を作っていつものパフォーマンスができる強さを感じました。普段、僕は歌い手さんを変に緊張させすぎないような空気づくりを心がけているんですけど、その方は逆に、むしろ自分からピリピリした空気を作るタイプだったんです。でもいざブースに入って歌うと、表現力も声量もとてつもなかった。その凄さは、今でも心に残っています。

田中
そうですね……逆に、どんな集団に見えますか？

広川
あ、幅の広さはあるかもしれないですね。MONACAカラーみたいなものがありつつも。
田中
前にトップの岡部（啓一）に聞いたことがあるんですが、これまでは「音楽的に、今MONACAにはここが足りてないんじゃないか？」みたいな、ほかのメンバーと得意ジャンルがかぶらないような人材が現れたときに、新しいメンバーを加えてきたようなんです。そうやって、チームとして音楽を作るときの強みを出していこうとしているところはあると思いますね。実際劇伴をチームで作るときも、それぞれが得意とするジャンルを書いて全体のクオリティをUPしていく形を取っていますから。
広川
そうですね。割と明確なカラーがある音楽集団もあると思うんですけど。
田中
うん。たとえば？
広川
……言わないですけど。言わせようとする（笑）。でもそういう明確な決まりって、MONACAにはないんです。なのに出来上がりを並べると、なぜだかどこかMONACAの色を感じるんですよ。

田中
なるほど、そういうふうにも見えているんですね。
広川
個々で自由にやってるからこそ、お互いの曲を通じて自分の発想ではないものを身近で聴けていて、そこで馴染みというか繋がりみたいなものが微妙に生まれてるのかもしれないですね。
田中
うん。やっぱり劇伴とかを一緒に作ってると、それぞれが曲を作るって言っても作品自体の方向性があるので、やっぱり同じ方向を向いて作らないといけないんです。となるとどうしても、良くも悪くも影響を受け合っちゃうのかもしれません。

田中
はい。『卓球娘』は特に試合のシーンで劇伴を大きめのバランスで鳴らしてくれていて、身体的な部分で楽しむ音楽であるクラブミュージックとよくマッチしているんです。僕自身も今後の音楽の使われ方を楽しみにしているので、そのあたりも注目して、最後まで楽しんでいただければなと思います。
広川
本当に、音楽をすごく大事に使ってもらえている作品ですよね。第5話でもOPとEDが入れ替わったり、それ用に映像もちょっと編集されていたり。
田中
主題歌自体もちょっと編集したもんね。
広川
そう。ロングバージョンの回もあったりもしますし……最終話が近づくにつれて、試合もより白熱した展開が増えてくると思うので、その部分の音楽にも期待していただけたらいいなと思います。