アツくてかわいい作品を彩る、音楽の秘密に迫る!MONACA 田中秀和・広川恵一インタビュー(前編)

キービジュアルを見て「また日常系か」と思いながら初回を見て、度肝を抜かれた方も多いかもしれない。それほどまでに、かわいらしい女の子たちが本気の卓球勝負を繰り広げている作品が、『灼熱の卓球娘』だ。今回はその作品を音楽面から彩る、音楽クリエイター集団・MONACAの田中秀和と広川恵一にインタビュー。OPやEDはもちろん、劇伴に込められたねらいなどについて存分に語っていただいた。

日常と卓球、その二面性のオンオフを大事に

まず、『灼熱の卓球娘』への最初の印象をお伺いできますか?
田中秀和(以下、田中)
「すごく汗が出てる作品だな」ですかね(笑)。躍動感を持って、卓球の身体性みたいなものをフィーチャーして描いていると言いますか。そこに官能的なものを見出すように誘導して描いている部分もあると思うんですけど、スポーツって元々そういう側面を持つものだと思うんですよね。相手と対峙して身体的なコミュニケーションを取りながら競い合ったり快楽を得たり……そこにかわいい女の子たちという要素と、すごくスポ根的な物語とがあって、これまでにありそうでなかった作品だなと感じました。
広川恵一(以下、広川)
僕も似たような感じではあるんですけど……いい匂いしそうなアニメ。8×4の匂いがしそう(笑)。
田中
それ、いい匂いなの?(笑)
広川
そういう10代の、運動少女からイメージする匂いみたいなものってあるじゃないですか? 授業が終わってから家に帰るまでの、部活時間の空気感みたいなものはすごく生々しく感じましたね。たぶんそれは、僕が担当したED曲「僕らのフロンティア」が、部活後の帰り道みたいな雰囲気で……という方向性があったから、余計そう感じているのかもしれません。
では続いて、OP/ED曲についてお聞きしていきます。田中さんは、OP曲「灼熱スイッチ」にどのようなねらいを込めたんでしょうか?
田中
女の子たちの日常と、アツく卓球に向かう姿の二面性みたいなものをすごく強調したOPにしたい……と監督がおっしゃっていまして。しかも具体的に「A・Bメロは女の子のキャッキャした部分を強調して、サビではアツさを全面的に出したい」と。でも僕、最初は「そこまで明確に分ける必要はない」ととらえてしまって、はじめに提出した音源のサビに「もっとアツさが欲しい」とリテイクをいただいたんです。
たしかにこの作品のOPには、はっきりとした二面性が欲しいかもしれませんね。
田中
そこで僕の方から「サビを変えるなら、イチから作り直したいです」とワガママを言って作り直してできたのが、「灼熱スイッチ」なんです。
そうなんですね。一方広川さんは、「僕らのフロンティア」へどんなオーダーがあったんでしょう?
広川
先ほどもチラッと言ったんですが、放課後みたいな爽やかな感じとか、かわいいみたいなニュアンスですね。あとはWake Up, Girls!が歌う曲というのがあったので、具体的に「WUGで言うと『16歳のアガペー』のような方向性の曲で」というお話をいただいた覚えがあります。
ただWUGさんは初めて自分たちの作品以外の主題歌を担当するので、今までとアプローチを変えた部分もあるのでは?
広川
そのものにお話がついているWUGと、作品に合わせる主題歌との融合させ具合には、結構気を使いました。主題歌として成立させると同時に、アーティストとしてのWUGにも興味を持ってもらえたら……という想いも持ちつつ、楽曲を作っていきましたね。

クラブミュージック調の試合曲に込められたねらいとは?

そうして作られた楽曲でのレコーディングで印象に残った出来事はありましたか?
田中
「灼熱スイッチ」のレコーディングは、まだアフレコ前に行いまして。それで最初に録ったのがハナビ役の高野麻里佳さんだったんですけど、ご本人もすごく試行錯誤しながらハナビの歌声を探られていたんですね。一度はOKテイクを録りきれたんですが、そのあと高野さんが「もう1回やってみていいですか?」とおっしゃられて。それで改めてツルッと歌っていただいたら、ハナビの腕白さがより強く出た、とても魅力的な歌声になっていたんですよ。
天真爛漫さのような部分が出たというか。
田中
そうなんです。なので、それ以降のレコーディングではキャラ声を確認した際の全員分の音声データを急遽ご用意いただいて、僕もキャラの方向性を確認してから、全員録り終えることができました。その出来事が、「灼熱スイッチ」制作のひとつのターニングポイントになったような気がしますね。
なるほど。広川さんは、いつものWUGさんとは少しレコーディングも違いましたか?
広川
違いましたね。これまでは結構、「アニメWUG」のほうのキャラ声で歌うパターンが多かったんです。でもこの曲では「それぞれの素の歌い方で歌ってください」というオーダーがあって。なので、歌い方のニュアンスもそれぞれいつもと違うようにつけられたんじゃないかな、と思います。
田中
Aメロのニュアンスとかいいよね。
広川
Aメロは「寝起きみたいな気持ちで」みたいなディレクションをしました。ああいう歌い方も、今までそんなになかったと思うんですよ。
田中
口もあんま開いてない、みたいな感じだよね(笑)。
広川
そうそう。それでマイク近くで……そういう新しいやり方を、結構用いています。Aメロはメロディが全部同じ音なので、その分そういうニュアンスが映えるようになっていて、この曲で気に入ってるポイントのひとつですね。逆に僕、「灼熱スイッチ」のサビの頭の独特のえぐみに「ここで一発キレを出してくる作り方か。やられたなぁ」と思わされましたよ。
田中
そうなんだ……あ、あと「僕らのフロンティア」は、サビの伸びやかに伸ばすフレージングも気持ちいいよね。「灼熱スイッチ」のサビも伸ばすフレーズで始まるから「あ、リンクしてるかも」と思って。もちろん曲としては全然違うとは思うんですけど。
広川
そう、サビは爽やかに作ったんです。自分が女子校生になったつもりで、放課後の気持ちで。
田中
そうなんだ(笑)。
お話を聞いていると、広川さんは憑依型の制作をされているような気がします。キャラや歌い手の視点が降りてくるというか。
広川
たしかに、場合によってはそうかもしれないです(笑)。「そういう景色を思い浮かべながら」みたいなことなたら。
田中
それならあるよね。僕らはやっぱり作品ありきの楽曲を作らせていただくことが多いので、作品のビジュアルイメージからヒントを得たり、それに近い情景の場所に自分を置いたりするんですよ。
それは、歌モノだけでなく劇伴でも?
田中
そうですね。
広川
むしろ劇伴のほうが、そうすることは多いかもしれないです。ただ今回はレアケースで、僕は音響監督の郷(文裕貴)さんからの依頼で、クラブミュージックみたいなアプローチで「いかに人の気持ちを高める音楽にできるか?」という狙いのもと試合曲を担当していました。
田中
ここまで明確に担当を分けたのは、初めてだと思います。で、僕と高橋(邦幸)くんでキャラのテーマや日常のテーマ、感情・心情を表す劇伴を分担して作っていって。
広川
試合曲を、DJ MIX的に「物語の展開に合わせて、BPMを合わせて繋いでいきたい」という意図を明確に持たれていたんですよ。
田中
だからこそ「ひとりの人間が担ったほうが、そういう仕掛けを作りやすいんじゃないか?」ということで、広川くんがそれを担当することになったんです。
その試合曲、強く入るキックの音が「ドキドキがとまらない」と言うこよりの胸の鼓動と繋がるのかな? と感じまして。
広川
そうですね……試合シーンの曲は、各キャラ1曲あるんですけど、日常曲のキャラのテーマの要素を抽出して作っているので、その中にドキドキの要素も入っているんだと思います。あとは、本編でいいところで使ってもらえているおかげもあるんじゃないでしょうか?
田中
たしかに、すごくありがたい使い方をしてくださっているよね。ほかにも「このあと絶対、曲の展開として弾ける!」ってわかるようなブレイクを持つ曲で、スマッシュが決まるシーンと曲のいちばんの盛り上がりとをきれいに合わせて使って、カタルシスを感じさせてくれたりと、いち視聴者として観ていてもすごく気持ちいいんです。
後編ではその話の範囲を広げ、ふたりがアニメ音楽の制作全般についての想いや印象深かった経験などをお届け。そして、ふたりが思う「MONACA像」とは? お楽しみに!
  • 取材・文須永兼次

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