Eテレ 毎週 火曜日 午前10:00~10:20
※この番組は、前年度の再放送です。
第14回
第9回以来の登場となる、構造生物学者の胡桃坂 仁志(くるみざか ひとし)さん。
DNAから生物がどうやってできているのか……いわれてみたら、本当に不思議です。
そういえば、前に胡桃坂さんはこんなことをいっていましたね。
胡桃坂さん 「たとえば、目を作るのであれば、目を作るのに必要な細胞があって、皮膚を作るのには皮膚を作るのに必要な細胞がある。皮膚を作るのに必要な細胞が間違って目にできてしまうと、目の中に皮膚ができて目が見えなくなってしまう。そういうことが起こるんです。だから、絶対に間違えてはいけない。その設計図が、同じ受精卵からできているのに……つまり、設計図が同じなのに、どうして違うものができるのかということが不思議。」
全部の細胞に同じ設計図があるのに、なぜ目は目、皮膚は皮膚になるのでしょうか?
その前に、軽く復習です!
遺伝子はDNAという物質からできていて、DNAはA(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)という4つの塩基が並んでできていました。
この並び、塩基配列に遺伝情報が含まれているということでした。
DNAは、2本の鎖が、らせんのようにねじられた、二重らせん構造をしていました。
そして、DNAは細胞分裂するときには、正確に複製されて、すべての細胞に同じように配られます。
私たちの体には、いろいろなタンパク質があって、このタンパク質によって生き物の形質が決まっていました。
タンパク質は、アミノ酸がたくさんくっついてできています。
こうしてみると、たくさん勉強してきましたね!
ですが、DNAからどうやってタンパク質が作られるのでしょうか?
胡桃坂さん 「DNAは二重らせん構造をしています。二重らせん構造がほどかれて、読み取られて。読み取られて最初に作られる物質というのは、DNAの2本の鎖のうちの1本とほとんど同じ塩基配列を持った物質なんですね。それがRNAです。」
RNA?
DNAとは1文字違いですね。
胡桃坂さん 「なぜ遺伝子から直接タンパク質が作られないかというのは、いろいろな説があるんですけれども。まずは、いったん遺伝子が読み取られてRNAが作られる。RNAが作られると、今度はRNAを設計図にして、それを読み取ってタンパク質が作られる。こういう流れになっています。だから『遺伝子 → RNA → タンパク質』という順番になっているんです。」
DNAの塩基配列を元に、タンパク質が作られる過程を見ていきましょう。
まず、DNAの二重らせんがほどけます。
ほどけたDNAの片方の鎖に、RNAの材料となる塩基を含むヌクレオチドが近づき、DNAの塩基と相補的な結合を作っていきます。
こうして、二重らせんの片方の塩基配列の一部がRNAに写し取られます。
このときにできたRNAをmRNA(メッセンジャーRNA)とよび、この過程を転写とよびます。
次に、mRNAの塩基配列を元に、アミノ酸が結合されていきます。
この過程を翻訳とよびます。
このように、遺伝情報はDNAからRNA、RNAからタンパク質へと1方向に伝えられます。
この、1方向に流れる原則をセントラルドグマとよびます。
胡桃坂さん 「DNAの場合は、アデニン、チミン、グアニン、シトシン。DNAから写し取られて、読み取られてできるRNAの場合は、塩基がアデニン、グアニン、シトシン、チミンの代わりにウラシルという別の塩基が使われています。ウラシルとチミンは非常に似たような塩基です。基本的には4種類の塩基でDNAもRNAも作られています。」
RNAとはどのような物質なのでしょうか。
RNAはDNAと同じようにヌクレオチドが多数つながってできたものです。
DNAに含まれる糖はデオキシリボースですが、RNAに含まれる糖はリボースになります。
塩基のうち、A、G、CはDNAと共通ですが、RNAにはTの代わりにU(ウラシル)が含まれます。
DNAは2本の鎖が二重らせんの構造をしていますが、RNAは1本の鎖の構造をしています。
転写では、DNAの塩基配列と相補的な塩基を持つヌクレオチドがつながれて、mRNAが作られます。
「セントラルドグマ」
作詞・作曲 胡桃坂仁志
DNAから RNAを経て
タンパク質へと翻訳される
この流れは 一方通行
逆転写 見つかるまでは
その流れは 命の流れ
セントラルドグマって 呼ぶんだ
遺伝子の暗号 リボソームで読み解かれて
生命が 育まれる
DNAからRNA、RNAからタンパク質ができるというのはわかりました。
ですが、DNAは塩基の並び、タンパク質はアミノ酸からできているんですよね。
どうやって、塩基の並びがアミノ酸の並びに置き換わるのでしょうか?
胡桃坂さん 「DNAに書き込まれたA、T、G、Cの情報。つまり、その文字列によって何が決められているのかというと、『どのアミノ酸を使ってタンパク質を作りなさい』という、タンパク質の中の文字列をDNAの文字列が決めているんです。」
DNAは4種類のヌクレオチドがつながった、長い鎖状の分子です。
タンパク質も鎖状の分子で、それが折りたたまれて立体構造になっています。
その鎖を作っているのがアミノ酸。
生物がタンパク質の合成に使うアミノ酸は20種類。
アミノ酸がいくつ、どのように並ぶかによって、タンパク質の性質が決まります。
RNAの塩基はA、U、G、Cの4種類。
もしこれだけでアミノ酸を決めるとすると、4種類のアミノ酸しか決まりません。
では、4種類の塩基でどのようにアミノ酸を決めているのでしょうか。
AA、AU、AG……のように、4種類の文字を2つずつ並べると、4×4で16通りになります。
16種類のアミノ酸を指定できますが、20種類には足りません。
AAA、AAU、AAG……のように3つ組み合わせると、4×4×4で64通りです。
20種類すべてのアミノ酸に対応することができます。
このように、3つの塩基の並びでアミノ酸1つを決めているのです。
1つのアミノ酸を指定するmRNAの3つの塩基の並びをコドンといいます。
コドンとアミノ酸の対応表を、コドン表といいます。
表の左と上と右に、それぞれ4種類の塩基が書かれています。
たとえば、UUUならフェニルアラニン、CAGならグルタミンです。
コドンには、翻訳の開始(AUG)や終了(UAA、UAG、UGA)を示すものもあります。
1つのコドンで、あるアミノ酸が指定され、アミノ酸が並んで結合されてタンパク質になるのです。
暗号解読を細胞の中でしているんですね!
こうやって、DNAからタンパク質が作られているんだ!
胡桃坂さん 「DNAの文字列が変わると、『タンパク質を作るためにアミノ酸がつながってくる』といいましたけれど、つながってくるアミノ酸の種類が変わるんですね。そうすると、違うものができあがる。」
DNAの文字列が重要なんですね!
細胞の中で、アミノ酸はどうやって、mRNAの中の自分のコドンを見つけるのでしょうか?
転写と翻訳のしくみを詳しく見てみましょう。
DNAの二重らせんがほどけて、DNAに並ぶA、T、G、Cが、1文字ずつ正確にmRNAへ写し取られ、遺伝子の情報が読み取られていきます。
これは、その様子をとらえた電子顕微鏡写真です。
DNAにくっついた酵素がはたらいて、遺伝子の写しを作り出しています。
これが、mRNAです。
mRNAは核の外に出て、リボソームと結合します。
このリボソームで翻訳が行われます。
mRNAの塩基が3つずつ読み取られ、それに対応するアミノ酸が順番に結合していきます。
このとき、アミノ酸は、コドンに対応する塩基の配列を持ったtRNA(トランスファーRNA)とよばれるRNAによって、リボソームまで運ばれています。
こうして、特定のタンパク質が作られていきます。
これらは、すべての生物の中で行われているのです。
胡桃坂さん
「なぜか、RNAを仲介する。
生物が38億年前にできあがった。
太古の昔にできあがった最初の生物というのは、遺伝情報を保存する物質としてDNAではなくRNAを使っていたのではないかという説が有力になっています。
RNAとタンパク質の関係は密接で。
RNAなしではタンパク質は絶対に作られないですね。
RNAが機能するために、またタンパク質が必要だったりもする。
現在の生物ではそういうふうに、非常にいいコンビネーションになって機能している状態ですね。」
DNA、RNA、タンパク質……深~い関係でつながっているんですね。
ところで「最初の生命はRNAを使っていたかもしれない」とは、どういうことなのでしょうか?
これはもう、調べてみなきゃ!
それでは、次回もお楽しみに!
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