ここにきてようやく大臣がひとり”更迭”されたが、自民党によれば、旧統一教会と何らかの接点を持っていた議員は党内379人中179人にものぼる。
本来ならば、カルト教団が与党自民党にいかに影響力を行使し、国政に干渉することがあったのかどうか、そして公正な民主主義が脅かされることはなかったのかなどにつき、きちんとした調査が必要なはずだ。
だが、この期に及んで自民党は「点検」という小手先の調査でお茶を濁そうとしているように見える。車の車検じゃあるまいし、部品の交換で済む話ではないだろう。
同じ「点検」でもアメリカの行った「点検」はMRIを使ったような精密検査だった。じつは今から40年以上も前に、アメリカでも政治と旧統一教会の関係が問題となり、連邦議会によって民主主義の「精密検査」が実施されたのだ。
少々古い話なので、当時の時代背景を振り返っておこう。
ことの発端は韓国の朴正熙(パク・チョンヒ)政権がKCIA(朴政権時の中央情報機関)や実業家を使って、不正に米国の内政・外交に影響力を及ぼしているのではないかという疑い、いわゆる「コリアゲート疑惑」(1976年)が浮上したことだった。
ニクソン政権が在韓米軍の削減・撤退の方針を打ち出したのは1970年代初めのこと。そうなると北朝鮮への抑止がなくなってしまうことを危惧した韓国政府は米政界に働きかけ、その方針を撤回させようとした。
「田舎のセックス教団」と見られていた旧統一教会の野望を40年前に見抜いていた、米「フレイザー報告書」の慧眼
ついに山際経済再生相の更迭に踏み切った岸田内閣だが、旧統一教会問題の実態解明にむけてはまだまだ及び腰といえる。これとは対照的なのがアメリカだ。今から40年以上も前に政治と旧統一教会の関係が問題となったが、強い危機意識を持った連邦議会によって驚くほど精密な調査が行われていた。
教祖の性癖から政治活動の特徴まで
旧統一教会の実態についての「点検」も綿密だ。1966年8月26日ソウル発の米国大使館極秘電報を公開し、そこに教団の実態がこう記されていたと報告している。
「(旧統一)教会は聖書を性的に解釈し、宗教的経験はセックスと相関関係にあると主張する。教会の指導者、文鮮明は性的行為の数々で逮捕歴があるが、教団スポークスマンは『逮捕は事実だが、起訴には至らなかった』と反論している」
また、教祖の性癖だけでなく、旧統一教会の政治活動の特徴についても教祖の文鮮明の発言を引用し、的確に分析している。まずは文発言から紹介しよう。
「われわれが全力疾走できないひとつの要因は、勝共イデオロギーに基づいてわれわれの運動を教会として宣言できないことにある。我々の哲学、統一思想が神学教義に基づいていることを人々に理解させる必要がある。でなければ、勝共運動を教会運動につなげられない」(339ページ)
「何事も政治的な表現で語ってはならない。『政治には関心がない。われわれは政治のためでなく、人道的動機でやっているのです』と説明しなければならない」(1974年当時、アメリカ政界工作として行った在韓米軍撤退反対デモの準備過程での信者向け発言)
その上で報告書はこう指摘する。
「免税団体が政治活動を制限されていることを十分に認識してか、文鮮明の機関(注・報告書では一連の統一教会関連組織をMoon Organizationと呼んでいる)のスポークスマンは政治活動を宗教的用語で説明することが多い」
旧統一教会関係者がしばしば政治性の強い、生々しい内容を宗教的メタファー(暗喩)として語ることが多いのは、政治的表現を使うことのリスクを教祖自身が把握していたからだと報告書は見る。
こうした分析に教団側は「われわれの共産主義思想や教義に対する感情は政治的感情ではなく、精神的・宗教的感情である。(中略)神に選ばれた国、韓国は共産主義の純粋な具現化としての北朝鮮に勝利しなければならない」(70年代に米国統一教会を主導したニール・サローネン氏・報告書339ページ)と反論したとされるが、これに対しても元信者の証言をもとにこうダメ押ししている。
「(統一教会は)教会などではなく、明確な党派性を持った明らかな政治組織だ。Moon Organizationの目標は政治だ」(元信者で宗教コンサルタントも務めるアラン・ウッド北テキサス州立大学教員)