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「じゃあ○○ちゃん、お年の数だけ蝋燭刺してくれる?」
「うん!」
あなたはあなたの娘が砂糖菓子に蝋燭を突き刺していくのを眺めている。
「……5、6、7!」
あなたの娘は誕生日ケーキを刺殺し終わると、誇らしそうに両親に笑いかける。
「よくできました! じゃあお父さん、ライター取ってきて」 生涯を共にすると誓った伴侶があなたに笑いかける。 「おう」
「おにーちゃん見てー!すごいー?」
「おー、すごいすごい」
あなたの息子は照れくさそうに妹の頭を撫でてやっている。
愛する妻と二人の子供。完成された幸せな家庭がそこにあった。
あなたは娘息子の椛の手が届かないようキッチンの上戸棚にしまっていたコンビニライターを取り出す。 あなたはまず一番右の青い蝋燭に火を灯す。あとは単純な作業だ。青から緑、青から黄、手元の相棒から流れるように熱病を他の蝋燭に移していく。 娘の目がキラキラと輝いているのは蝋燭の火が角膜に反射しているだけではない事にあなたは純粋な喜びを覚える。 あなたは最後の一本である赤い蝋燭に灯を灯す。 あなたの吐息で炎が揺らめいている。あなたの手にやわらかくも力強い熱が伝わっていく。白い蝋がなめまかしく赤い蝋燭を伝っていく。 あなたが赤い蝋燭、と認知していた物は、正確には赤い蝋燭ではなかった事にあなたは気づく。子供達の憧れのキャンディ・ケーンのように、それは赤と白が螺旋状に絡み合った蝋燭だった。
赤と白。
「っ!?あッ!?」 「! お父さん大丈夫!?」
あなたはそれがさも当然のように炎に左手を伸ばし、掴んでいた。 父の突然の奇行に妻と子供達は仰天し、大慌てで水道に連れていく。 あなたの全身は一瞬のうちに脂汗にまみれていた。あなたはあの瞬間、何としてでもあの炎を掴まないといけないという執念に晒されて燃え盛る蝋燭を掴んでいた。 炎は己の手の内であっさりと消えてしまったが、その熱が確かに己の左手にくっきりと火傷を遺していた。 そしてあなたは一瞬のホワイトアウトの後に確かに見たのだ。燃え盛る炎よりも鮮やかに、優しく、残酷に笑う赤い鬼の姿を。 すぐに冷水で冷やしたにも関わらず、火傷の後はいつまでも薄れる事はなかった。
あなたは妻と二人の子供を持ったごく普通のサラリーマンだった。