オミクロン株は重症化率が低いと信じられているので、こうした死者情報は餓死ではないか、と多くの人たちが言い出した。こうした噂が真相不明なまま不安を拡大し、封鎖式管理下にいた従業員たちが大量に脱走し始めたようだ。夜の高速道路沿いにフォックスコン従業員が荷物を持ってぞろぞろと故郷に向かって数百キロの道のりを歩いている様子、昼間の田畑の中を当局の目を避けるように逃亡している様子などの写真や動画がネットで拡散されていた。高速道路の行く手に、軍が待ち構えて封鎖しているような動画もあった。このフォックスコン従業員の大脱走についてはBBCなど大手メディアも取り上げている。

 一方で、鄭州工場地域に、工場・宿舎内部からのSNSなどの発信を防ぐ無線妨害のための車両が派遣されているような写真や、軍の装甲車の列が鄭州大街を走っている動画なども拡散していた。こうしたことから、鄭州では軍も動員されて徹底的なロックダウンや情報封鎖体制が敷かれている、フォックスコンは軍の管理下に置かれているのだ、といった噂も広がった。

 ちなみにこうした噂話は、どれひとつ公式に確認されているものではない。フォックスコン側は、2万人隔離の話も「事実ではない」とし、726号の8人の女子従業員死亡の噂も悪質なデマであり、すでに警察に通報して処理を依頼しているという。

 ただ10月29日から、フォックスコン側と河南省の各地方政府は、故郷に戻りたい従業員は申請すれば専門の車両で故郷に送り届け、故郷で隔離措置を受けることができる、と発表している。工業パーク内に残留希望の場合は、宿舎で隔離され、そのかわり3食を保証、故郷での隔離を希望する場合は隔離施設の実費を自腹で支払うものとしている。

 こうした発表があるということは、つまり、大脱走問題が起きていることを認識しているということではあろう。

 鄭州のコロナ封鎖からの大脱走が中国人ネット民の心を揺さぶったのは、彼らの脱走の動機に「飢餓」が絡むからだろう。河南省は1942年にものすごい飢饉を体験し、300~500万人が餓死し、河南省から農民が飢餓から集団逃亡した歴史があった。これは河南省出身の作家、劉震雲の「一九四二」という小説にもなり、また馮小剛監督によって映画化もされている。また1959年から61年にかけての大飢饉は、まだ記憶に残る大厄災だ。3年自然大災害と呼ばれるこの飢饉は、本当は自然災害だけでなく人民公社・大躍進の政策が1つの大きな原因だった。だから、ゼロコロナ政策によって引き起こされた不条理な飢餓への共感が強いのだろう。