ゴヲスト・パレヱド:シナトカゼ

雅彩ラヰカ

序章 炎の舌

プロローグ 捲土重来の狼煙

 昼下がりの青空に赫々たる炎が、黒煙を燻らせながら上がっていた。とぐろを巻く蛇のように伸び上がるそれを辿っていくと、一台の普通乗用車がトラックと正面衝突し、電柱とトラックにプレスされて潰れている。

 燃え上がる炎の中から子供の泣き声がした。痛い、助けて、父さん母さん、兄ちゃん。そんな悲痛な声だ。


 近くにいた鬼族や犬系妖怪の、忠義に厚い男たちが周りの静止を振り切り車に近寄った。蝉妖怪たちが彼らに燦天道における絶対神・陽光ひのみの加護を与えんと念仏を唱え始める。

 男たちは火に当てられながら大声で子供に助かるからと叫び、歪んだドアをこじ開けていく。人間の比にならない筋力をもつ彼らであれば、自動車程度容易く——力任せに——分解できる。


 どうにかして車のドアを外した彼らは一瞬怯んだように生唾を飲んだが、構わず泣いている子供を抱えた。他の男たちはわずかに迷った後で、隣に座っていた青年の……その一部を回収する。

 男たちがその場を離れて間も無く、引火したガソリンが爆発して大きな音を轟かせた。


 子供は黒い髪の男の子で、右の額から三日月状の銀色の角が三センチほど覗いている。煤に覆われた顔、その右側はひどく焼けただれ赤く染まっていた。

 救急を呼べ! 早く! ——そんな怒鳴り声が乱舞し、待ちきれないバイカーが少年を抱える男に叫んだ。乗れ、俺が走った方が早い! 男をタンデムシートに乗せて近場の病院へ走ったバイクを、大勢が見守っていた。


 平和なはずの午後に起きた悲惨な事故。

 少年はその日、両親と兄を失った。


 名門妖術師一族八雲家の彼らを襲ったそれは各地で謀殺と囁かれたが、当人の少年は何も語らず——、

 それから十数年を経て、彼は野狐の女と共に妖術世界へと帰ってきた。


 両親と兄を奪った主犯を排除し、八雲家当主の座に戻るため。

 半妖の鬼子が、女狐と共に捲土重来の狼煙を上げながら——。

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