コラム

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連載! 「あの時代、ボクとキミの間には映画が流れていた」

三留まゆみ×市川大河 第四夜「三留まゆみと角川映画と春樹の夢と」

代替テキスト

大河 角川春樹のすごいところっていうのは、例えば『君よ憤怒の河を渉れ』(1976年)という映画があって、そこでの佐藤純彌監督、高倉健主演、中野良子ヒロインっていうトリオに、森村誠一氏の『野性の証明』(1978年)を撮らせた。一方で当時カリスマ性を高めていた松田優作の主演映画『最も危険な遊戯』(1978年)の村川透監督、永原秀一脚本、仙元誠三キャメラマンと、優作映画ユニットそのままに起用して、大藪晴彦文学を与えて『蘇える金狼』(1979年)をすぐ翌年に撮らせた。また、千葉真一、深作欣二、真田広之、矢島信男といった『宇宙からのメッセージ』(1978年)のメンツに、薬師丸ひろ子を加えて、やはり八犬伝モチーフで『里見八犬伝』(1983年)を撮らせた。そこでの角川氏の「才能と力量はあるのだけれど、バジェットに恵まれてない映画屋たちに、自社の原作と億の金を渡して天下一品の映画を作らせる」というシンデレラストーリーのような手法というのは、とても邦画界全体に対する挑戦状でもあり、カンフル剤でもあったと思うんです。

三留 まぁ(角川氏は)映画が好きだったんだよね。映画を作りたかったんだよね。ま、その後実際に作ってる(『汚れた英雄』(1982年)他監督作品六本)んだけどね(笑) 

汚れた英雄 シナリオ

汚れた英雄 シナリオ 著者: 大藪 春彦/丸山 昇一

出版社:角川書店

発行年:1982

大河 あの人はあくまでプロデューサーとして有能なだけで、監督能力はそんな評価に値するもんじゃないじゃないですか。『汚れた英雄』なんて、村川組のスタッフ全部総取りして、自分はディレクターズチェアに座ってるだけじゃねぇか(笑) としか思えない仕上がりなんですよ、本当にもう。

三留 いやぁ。だから、監督よりは、チーフ(助監督)とかの映画になるからね、そういうのは。で、スタッフがみんなそっち(村川透監督)側の人だからさぁ(笑) そりゃあもう「監督はおいといて」みたいになるよね。(完成作品を)観れば分かる。(映画の監督は)素人に出来ることじゃないから。

大河 先ほど挙げたいくつかの事例を見ても、どれも70年代的な映画を「再生する」プロデュースなんですよね。そこは本当に角川春樹という人は長けていた。

いつかギラギラする日 角川春樹の映画革命

いつかギラギラする日 角川春樹の映画革命 著者: 角川春樹、清水節

出版社:角川春樹事務所

発行年:2016

三留 うん、そういう意味では「編集者」だったのかもしれないね。その上で、いろんな意味でのプロデューサーであり、ワンマンに動けたことが大きかった。でも、その結果、ものすごく多方面から恨まれたり抵抗されたりがあって、結局「角川春樹が本当にやりたかったこと」が出来たのは、今世紀に入ってからで、しかも、やりとげたのは本人じゃなくて、弟(角川歴彦)だった……。春樹さん時代の角川映画は、映画館も持ってなかったし、撮影所も持ってなかったから、配給も東映だったり、すごく苦労していた。だけど今(角川歴彦体制になってから)は映画館も手に入れた、撮影所も手に入れた。だって大映がまるごと角川になっちゃったんだよぉ!?

大河 大映怪獣の象徴だったガメラが、今や角川怪獣ですからねぇ!

三留 そうなの。でもそこ(角川のトップ)にいるのは……「春樹」じゃなくて「歴彦」なんだよね。で、角川歴彦は、やっぱ、つまんない……(笑) だから、往年の角川映画と今の角川映画は全く別の物だし、それは70年代から80年代にかけて、私たちをものすごく興奮させてくれた物とは違っているのね。

大河 角川映画は、初期の大作路線を捨てた先でも、『野獣死すべし』(1981年 監督:村川透)や『麻雀放浪記』(1984年 監督:和田誠)なんかでも、常に僕らをわくわくさせてくれる傑作を送り出し続けてたからね。僕が最後に「これぞ角川映画!」と楽しめたのが、当時アイドルとして売り出し真っ盛りだった宮沢りえ主演の『ぼくらの七日間戦争』(1988年 監督: 菅原比呂志)だったんですよ。当時ハリウッドでも『グーニーズ』(1985年 監督: Richard Donner 原題: The Goonies)とか『スタンド・バイ・ミー』(1986年 監督: Robert "Rob" Reiner 原題: Stand by Me)とかの、ジュヴナイル少年冒険活劇が盛んだった時代で、そこを狙った角川春樹が、自身の秘蔵っ子で、ハリウッド進出を目論んでアメリカに送り込んでいた菅原監督に撮らせた少年少女活劇なんです。作品そのものはすごく面白かったんだけど……。菅原監督はその後も映画を監督するけど、角川の御家騒動で、すっかり春樹派のレッテルを貼られちゃったんで、割を食う立ち位置になってしまったのが残念でした。

麻雀放浪記 1(青春編)

麻雀放浪記 1(青春編) 著者: 阿佐田 哲也

出版社:角川書店

発行年:1979

ぼくらの七日間戦争

ぼくらの七日間戦争 著者: 宗田 理

出版社:KADOKAWA

発行年:2014

三留 そうね。その後社長(角川春樹)が、いろいろアレだった時期だしね……。そういえば、やっぱり春樹さんの秘蔵っ子だった高柳(良一 元俳優)君が、その映画の当時、角川の編集者で、彼はすごく優れた編集者だったんだけど、(高柳氏本人は)もともとはラジオの仕事がしたかったのね。それは『ねらわれた学園』(1981年 監督:大林宣彦)の時に彼本人から聞いているのね。「ラジオの構成をしたり喋ったり、そういう仕事をしたいと思ってるんだ」って言ってたの。

大河 大学卒業後に角川の編集者として働いていたことは、漫画家のいしかわじゅん氏が、エッセイ漫画『フロムK』でネタにしていましたね。

フロムK

フロムK 著者: いしかわ じゅん

出版社:双葉社

発行年:1989

三留 彼は角川で『野性時代』の編集者をやってて、私にも仕事を作ってくれて、私つい言っちゃったのよ。「良ちゃん、役者としてはアレだったけど、編集者としては素晴らしいよね!」って(爆)

大河 ダメ! それ言っちゃダメ!(爆)

三留 それで彼が「役者やっててよかったと思うことがありまして」って言うから「なに? なに?」って聞いたら、「初対面の人と会う時も、見つけてもらいやすい」って(笑)

大河 そこかーい!

三留 で、ある時、新しい担当(編集)と交代しますって連絡がきたのね。で、どうしたの?って会って話したら、ニッポン放送の中途採用に受かったんで、角川は退社してそっち(ラジオ)の方に行きますって、そういう流れがあったんですよ。

大河 はぁーっ! 彼はそこでようやく、学生時代からの夢をかなえたわけだ!

三留 そう。今はもう管理職に就いているのかな、この間も会いましたね。

大河 良くも悪くも、高柳さんは角川映画と運命を共にしなかったからこそ、自分の夢をかなえられたのかなぁ……。

三留 そういう意味では、『時をかける少女』(1983年 監督:大林宣彦)の原田知世ちゃんだって、「角川映画大型新人募集」ではグランプリじゃないんだよね。

大河 そう。原田さんは角川春樹がすごく気に入って、審査員特別賞みたいな急遽枠で入賞したんです。グランプリは渡辺典子さん。渡辺さんは、でも、本人のオーラが地味というか、たまたま作品に恵まれなかったせいか、どの主演作品も今一つパッとしないで、角川三人娘では、薬師丸さんと原田さんに大きく水を開けられていたという印象が今も強い。

三留 社長(角川春樹)が(原田知世に)惚れ込んだからねぇ。

大河 だって、同時上映が、監督が根岸吉太郎で、原作が赤川次郎。主演が薬師丸さんと松田優作の『探偵物語』だったわけでしょう? それって角川映画的には鉄板コンテンツじゃないですか。

三留 鉄板A面だね。

探偵物語

探偵物語 著者: 赤川 次郎

出版社:角川書店

発行年:2007

大河 そこでのB面『時をかける少女』は、言っちゃ悪いけど、大林監督は『ねらわれた学園』は、失敗作ではないけど、期待されていた数字を上げられなかったという点で、敗者復活戦みたいな立ち位置にあったし、ヒロインの原田知世も、グランプリ女優じゃなかった。でも蓋を開けてみれば、一般顧客層の評価も、映画マニアの評価も、ダントツに『時をかける少女』の方が高いという結果に落ち着いたわけ。

ねらわれた学園

ねらわれた学園 著者: 眉村 卓

出版社:講談社

発行年:2012

三留 やっぱり、大林さんが撮りたかったのは、『ねらわれた学園』じゃなくって『時をかける少女』だったんだろうなぁとは。すごく思いますね。『ねらわれた学園』はとても楽しんで作っていらしたし、アレもまた大林映画独特の世界だし、近年になって再評価もされてるんですけどね。……うーん『ねらわれた学園』も好きだし、ああいうことが出来る監督は他にはいなかったと思うんだけどね。

大河 僕が思ったのは、『ねらわれた学園』はすごくお祭り映画なんだけど、『時をかける少女』は、SFジュヴナイルという形を借りて、等身大の少女の描写に向かったことが大きかったと思うんです。昔は80年代というと「しらけ世代」「空洞化世代」なんて言われてましたけど、僕はむしろその言葉は、90年代の『新世紀エヴァンゲリオン』(1995年 監督: 庵野秀明)とかに当てはまるような気がして。相米慎二『翔んだカップル』も、大林さんの『時をかける少女』も、すごく少女や思春期の機微を描いた、80年代らしさがよく出ている映画だと思ってるのね。

三留 80年代は撮影所のシステムが壊れちゃって、インディーズの映画とかも出てくるようになって、若い監督たちが一気にスクリーンに登場してきた時代なのね。大林監督はそれでも、それまで自主映画を撮ったり、映画監督としてデビューする前も後もCMを撮ったりしていたけれども、そういった経験すらもない、いろんな形で新人監督が出てきた時代でもあったのね。それは、私たちにとって、観客にとって、すごい近い年代の監督たちだった。大森一樹もそうだよね、70年代の終わり(デビューは1978年『オレンジロード急行』)だけれども。森田(芳光)監督も『ライブイン・茅ヶ崎』(1978年)とかを自主映画時代に観てるし、そういった自主映画の監督たちが(商業)映画の方にどっと出てきた。それがだいたい、70年代の終わりから80年代にかけて。だから、映画の表現や形態、映画そのものが一気に若くなったのね。で、角川春樹がそういった若い監督たちに、次々にチャンスを与えた。相米慎二監督だったら『セーラー服と機関銃』(1981年)、森田監督だったら『メイン・テーマ』(1984年)、大森一樹だったら『花の降る午後』(1989年)とかね。

僕達急行 A列車で行こう

僕達急行 A列車で行こう 著者: 長尾 徳子/森田 芳光

出版社:集英社

発行年:2012

セーラー服と機関銃

セーラー服と機関銃 著者: 赤川 次郎

出版社:角川書店

発行年:2006

大河 かたっぱしからでしたね。根岸吉太郎さんもそうだし、崔洋一監督も『いつか誰かが殺される』(1984年)『友よ、静かに瞑れ』(1985年)で角川映画を撮ってるし。井筒和幸監督だったら『晴れ、ときどき殺人』(1984年)が角川映画にあるしね。

いつか誰かが殺される

いつか誰かが殺される 著者: 赤川 次郎

出版社:角川書店

発行年:2009

晴れ、ときどき殺人

晴れ、ときどき殺人 著者: 赤川 次郎

出版社:角川書店

発行年:2007

三留 角川は、とにかく新しい映画を、若い監督に、若い観客にっていう。それは、メジャーの映画会社が出来なかったこと!

大河 それこそ『人間の証明』(1977年 監督:佐藤純彌)で、主役の刑事コンビで松田優作とハナ肇さんが並んでる図というのが、それまでの五社協定的にはありえないことなわけで(笑)

三留 そういう部分含めていろんなことが壊れてきて……。それとあと、80年代って「悲惨さ」がないのかもしれないね(笑) 70年代的な悲壮感っていうものがもう映画に残っていなかった。

大河 そこなんです。「70年安保の敗北感」。今回の対談冒頭で三留さんが言ってた「60年代生まれはダメだ」じゃないけれど、僕らより上の世代が持っていた、60年、70年の、二度にわたる安保闘争の敗北みたいなものへの、哀愁だったり憎しみだったり闘争心だったり、それまでの邦画って、多かれ少なかれ「そういうエキス」みたいなものが必ず含まれていたのね。『太陽を盗んだ男』(1979年 監督:長谷川和彦)が、そういう鬱屈や負け犬の美学みたいなものを、70年代の最後の最後に来て、吹き飛ばしてくれた感がありましたよね。

――今ちょうどお話にあがった『太陽を盗んだ男』は、日本映画史に残る名作として、現代でもカルトな人気を誇っています。次回はこの映画に対するお二人の想いから初めて、その監督でもある長谷川和彦さんの等身大を語り合っていただきたいと思います。次回第五夜「三留まゆみと『太陽を盗んだ男』と長谷川和彦と」見てくださいっ。


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