●ジャッジくんにシオカラーズ、それぞれのキャラクターの誕生秘話

『スプラトゥーン』機能を表現するデザイン手法。キャラクター、ブキ、ギアのデザインに迫る、開発スタッフインタビュー【デザイン編】_08

――そのほかのキャラクターについても、おうかがいさせてください。ゲームの判定をするジャッジくんですが、彼が海の生物ではなくネコになった理由は?
野上 ジャッジくんは、主人公がウサギ型だったころからの名残りで、このイカの世界で唯一となる、哺乳類の生き残りということになっているんですよ。
井上 主人公がウサギのころに、化け族という統一モチーフがあって、ウサギを中心に、ネコ、キツネ、タヌキを何かしらの形で登場させるという下敷きがあったんです。

――キツネとタヌキはどこに……?
野上 ハイカラシティの広場にタヌキとキツネの像がありますよね。

『スプラトゥーン』機能を表現するデザイン手法。キャラクター、ブキ、ギアのデザインに迫る、開発スタッフインタビュー【デザイン編】_19

――あ! タワーの横に!
野上 あれは、一応御神像という扱いなんですが、イカ世界の住人はなぜあのデザインになっているのかはよくわかっていないんですね。でも、昔からあるからありがたがっているという設定になっています。

――なるほど。ちなみに、ジャッジくんの身体の色は、あれは毛並みなんですか?
井上 毛並みですね。見た目があだ名になるような感じで、もともとああいう毛並みだったので、まわりから“ジャッジ”、“ジャッジくん”と呼ばれて。みんなから呼ばれているうちにその気になって、天性のジャッジっぷりを発揮したんです(笑)。

――見事な才能を開花させたんですね(笑)。
井上 0. 1%差も見分けられるようになったんでしょうね(笑)。彼がいたからナワバリバトルが競技化したという裏設定もあるんです。それまでは、どっちが勝ちかわからなかったので不毛な争いをしていたんですが、ジャッジくんの0.1%差も見逃さない判定ができたことで競技として認められたという。

――それまでは競技じゃなかったということですか?
井上 スケートボードのようなものかなと思っていて。あれも、最初は勝ち負けのある競技ではなく、カッコいいからやっていたというものだと思うんですよね。それが、いくつかルールを決める始祖のような人がでてきて、競技として定着していったイメージだと思うので。でも、イカたちは、ジャッジくんのことをとくにありがたがりもしないというか、ずっといるから、いるのが当たり前、ジャッジしてくれるのが当たり前だと思っていますね。
野上 でも、座布団を敷いてもらっているので、それなりには丁重に扱ってもらっています(笑)。

『スプラトゥーン』機能を表現するデザイン手法。キャラクター、ブキ、ギアのデザインに迫る、開発スタッフインタビュー【デザイン編】_09

――シオカラーズについてもお聞きします。かなりの人気を集めていると思いますが、人気自体は想定以上でしょうか?
野上 世界の各国でアイドルの受け入れられかたがちょっと違うだろうなと思っていましたが、想定以上に受け入れられてもらえました。

――アイドルのイメージなどはあったのでしょうか?
井上 日本のアイドルというよりは、海外のアイドル歌手のような、ちょっと尖ったアイドルのイメージですね。あとは地方局や深夜番組で、いま売出し中のアイドルがやっている情報番組なんかがありますが、そういう番組が持つ手作り感のある勢いが好きで、“いま来てる”という人が持っている最強のイメージを出したいなと思っていました。ダラっとしていてもそれがカッコイイと言われる、人気が爆発する直前と言いますか、全国区の人気になると、まわりから「テキトーすぎじゃないか」と言われてしまうくらいの、その手前にある、勢いが溢れるカッコよさの雰囲気を出しています。
野上 ヤンチャなイメージですが、ちゃんとがんばっているというか、実力は本物なんです。

――性格設定は、最初から描くときに決まっていたんですか?
井上 この元デザインをしたのは、僕ではなく、NPC(ノンプレイヤーキャラクター)担当の別の者で、僕はそのベースデザインを元にイラストに起こしたりしました。彼女たちの機能としてはフェスのスピーカー役ですので、対称になるという点をわかりやすく意識していました。
野上 担当のスタッフもこだわりを持っていて、メッセージチェックのときに「ホタルはこんなことを言わないです」と言ったりして修正していましたね。もともと、アイドルの前は彼女たちを巫女と呼んでいて、役割としてカミ様からのお告げを代表して皆に伝える人というイメージでした。
井上 イカの世界はいまから12000年後の世界なんですが、彼女たちは12000年前のメッセージを受け取る人たちとして、現代で「ごはん派かパン派か」と言っている話が、どこかの惑星に飛んでいって、それを跳ね返ってきたのを受信するというものです。そのお告げがカミ様から届く、というイメージですね。
野上 カミ様というのは、漢字では“紙”と書いてあって、フェスのお題を受信すると、FAXのように紙が出てくるので、それでカミ様なんですね(笑)。

『スプラトゥーン』機能を表現するデザイン手法。キャラクター、ブキ、ギアのデザインに迫る、開発スタッフインタビュー【デザイン編】_10

――“紙様”ですね(笑)。続いてアタリメ司令についてですが、このデザインは年老いたイカということなんですよね?
井上 そうですね、日干してスルメみたいになっています。
野上 名前もアタリメですしね。
井上 アタリメ司令が持っているものは、杖に見えるんですが、じつは水鉄砲になっています。

――昔は、インクを詰めて戦っていたということですか?
野上 過去のこの世界では、こういったものしかなかったのかも知れませんね。
井上 この人は、唯一といっていいほどの常識人です。ほかの人たちは、基本的にインクを塗りまくったりしているヤンチャなイメージで。
野上 彼は、昔あったイカとタコの大戦争のことを唯一知っている、イカの生き残りなんですね。

――この世界には、老人はあまりいないのでしょうか?
野上 一応、この人は気合で生きている設定になっていまして……。本当はこんなに寿命は長くないんです。
井上 現在は120歳くらいですね。干すことによって保存性を高めて、生きながらえているらしいです。

――イメージ的には、物知りおじいちゃんということで描かれたのでしょうか?
井上 当初想定していた主人公が女の子ということもあるんですが、おじいちゃんを助けにいくという設定もいいかなと思っていたんですよね。ですから、アタリメはポジション的にヒロインなんです。

『スプラトゥーン』機能を表現するデザイン手法。キャラクター、ブキ、ギアのデザインに迫る、開発スタッフインタビュー【デザイン編】_32

――まさかのヒロイン! でも、アタリメは服がずいぶんボロボロになっていますね。
野上 これは昔からの名残りで、たぶん長いこと継ぎ接ぎしながら着ているんだと思います。あと、タコツボバレーの入り口に住んでいるのはアタリメだけですので、彼は使命感でずっと見張っているということですね。

――あそこにずっとひとりでいるのは、よくよく考えると寂しい話ですね……。ちなみに、アタリメのデザインでこだわった点などありますか?
井上 これもシオカラーズと同じNPC担当のスタッフがデザインをしているんですが、健気に見えるようにしてくれています。
野上 かわいいお姫様を助けるのとは違う意味での使命感がありますよね。身近なおじいちゃんを助けてあげるようなイメージ(笑)。
井上 モチベーションとしてそういうほうがリアルですよね。おじいちゃんを助けるために、結果的に街を救うという。
野上 でも、ハイカラシティに住んでいるイカのほとんどはアタリメのことやタコツボバレーのことも知らないんですけどね。たまたまマンホールに入った迷い込んだ人が選ばれて、“3号”に任命されたって感じですね。

――多くの人は、タコの存在も知らないんですか?
野上 知りません。なんでオオデンチナマズがいなくなったのかもわかっていませんし。

――ナマズは、いなくなってもあまり影響がないんですか?
野上 みんな「影響ないよね」と言っているんですが、アタリメはまずいと思っていて、「取り返してこい」という指令を出すんですよ。もしかしたら、本当にたいへんなことかもしれませんが、多くの人はヤバイとは思っていない。
井上 そういうスタートのほうが、リアリティーがあると思いました。
野上 ゲーム全体として、ヒーローモードはひとりで遊ぶゲームモードですが、必ずしも遊ばなくてはいけないモードではないので、興味を持った人はプレイしていただいて、ずっと対戦をしたい人はナワバリバトルを遊んでいただければという、自由に選択できるようにしていたので、はっきりとモードを分ける意味でもふたつの設定のつながりをあえて薄くしました。

――ヒーローモードを遊ぶと、裏設定がわかるような。
野上 そうですね。

『スプラトゥーン』機能を表現するデザイン手法。キャラクター、ブキ、ギアのデザインに迫る、開発スタッフインタビュー【デザイン編】_11

――続いてダウニーについてお願いします。
井上 ダウニーはそのままウニですね。
野上 体をよく見るとウニの色になっているんです。

――ホントだ!
井上 ダウニーは、キャラクター的にいちばんわかりやすいと思います。彼は露天商なんですが、田舎の出身なんです。だけど、都会に出てきて染まっちゃった……というイメージですね。イケメンという設定ですが、これまでの人生を雰囲気だけで乗り切ってきたようなところがあり、そんなにたいへんじゃないこともまわりが手伝ってくれたり……というキャラクターになっています。

――お話を聞いていると、ダメ人間のような……。
野上 ……あまり詳しく説明するのがよくない感じの設定なんですよね(笑)。
井上 なぜこういうキャラクターがいるかと言うと、街のリアリティーを出すためにはああいう人がいて、治安が少し悪く見えるほうが街っぽさが出ると思ったためです。
野上 ダウニーのところは、全部のプレイヤーが行かなくてもよくて、極めた人が行く場所なんですよね。だから、彼は取っつきづらいと言いますか、最初に話しかけてもそんなにいいことがない。
井上 それが、ランク20になって話しかけると媚びてきたり、「いっしょに頂点連れていってくださいよ!」みたいなことを言ってくる。
野上 要領はいいんだよね。
井上 飄々と生き抜く力は持っていますね。

――な、なるほど。彼はどうやって人のギアを調達しているんですか?
井上 まわりに言ったらやってくれる人がいるんですね。だから、ランクが高い人に対しては媚びてうまいことやっているんです。でも、心の中にはどこか満たされていない寂しさがあって、そういう自覚もあるんではないかと思います。

――すごい裏設定ですね!
野上 裏過ぎますね(苦笑)。でも、キャラクターを考えるときは全部のキャラクターで、これくらい深く考えています。

――なるほど。あと、ダウニーの横にあるスーパーサザエは、『スーパーマリオ』のスーパーキノコに近い顔をしていますよね。
野上 そうですね。それっぽいです(笑)。