●ブキにもメーカーの裏設定が!

――ブキとギアについてもおうかがいします。ギアにはブランドがありますが、ブランドごとに特定のルールを持ってデザインを作っていたのでしょうか?
西森 『スプラトゥーン』の世界に合ったデザインを考えつつ、いくつかものが揃った段階でブランドを考え始めました。その中でこのブランドはスポーツもの、こっちはストリート系のもの、アウトドアのものといった感じでイメージを固めながらギアを増やしていったんです。また、同じブランドのものを身に着けることで、自然とそれらしい格好になるようにデザインしています。


――デザイン担当はブランドごとに分けたりされたのでしょうか?
西森 そこは明確には分けていなくて、いろいろなものを担当してもらいました。ただ、バスケットシューズがめっちゃ好きな人には、それを優先的にお願いするようにしていましたね。私が細かく指示するよりもこだわりを持って作れる人が担当することで、いいものができるので。そうでない場合も、作り始める前にそのものについてうんちくが語れるくらいまでネットなどで調べてもらって、好きな人に「わかってるなぁ」と言ってもらえるものを作れるようにしていました。
――ブキにはブランドはありませんが、色使いや名称からは似ているものがありますよね。
西森 ゲーム内でブキのブランドについて語られることはありませんが、裏設定としていくつかブキのメーカーがあるという想定でデザインしています。
野上 スプラシューターやスプラチャージャーはじつは同じメーカーの設定なんですが、そこにほかのギアブランドなどのアレンジが加わったものが、コラボモデルのブキになっています。
――冒頭にお話があった、スニーカー文化に近いイメージですね。
西森 そうですね。限定のカラーであったり、通常商品にはないロゴなどが追加される感じです。
井上 イカたちの思考として、国産のものよりも海外のものがカッコイイと思い始めているという思春期のメンタルを出したいと思っていたので、水鉄砲も日本のデザインではなく、海外っぽいイメージにしています。
――ブキのデザインは、リアルにすると本物の武器のようにもなってしまうと思いますが、心掛けたポイントは?
西森 日本のおもちゃはリアルなデザインに寄せているものも多いんですが、海外は銃に対してシビアな国も多く、子どもがリアルなものを持っていると本当の銃を持っているのか区別がつかなくなるので、海外ほどデフォルメしたデザインのおもちゃになっているんですね。ついつい本物の武器の要素を取り入れたカッコいいものを作りたくなるのですが、お父さんお母さんにも安心してもらえるデザインになるよう意識して作っています。ただ、フクやクツと同様にリアリティーを感じてもらいたいので、インクを飛ばしそうな身のまわりにある道具などをモチーフにデザインしてもらいました。

――なるほど。それぞれ、どこにインクが入って……といったブキの機構を考えているのでしょうか?
西森 インクを飛ばすブキなので、このタンクから出て……といったことは考えていますが、実際は背中のタンクとつながっていなかったりします。一説によると、手首から体内のインクを供給しているという話もありますが、まだ研究中です(笑)。
井上 ブキもギアも好きな人だったらわかるようなポイントはちゃんと入れようと思っていて。たとえばブキには金型の接合時に出るパーティングラインという継ぎ目があるのですが、プラモデルだと、きちんと仕上げる場合はキレイに整えるんです。でも、とくに海外のおもちゃではあまりそういう細かい部分を気にせずざっくりとしていることがあって、それはそれでカッコいいと思うので、わざとそういう部分を残すようにしたりと、そういったことを大事にしています。
――ちなみに、街中に貼ってあるようなステッカーなどもデザインされていらっしゃいますか? ああいったステッカーは、各ブランドの広告のイメージなのでしょうか?
西森 はい。ギアと同じチームでデザインをしています。ああいうステッカーには、複数の役割があって、イカたちが自分たちの場所だよというナワバリを主張するためにマーキングをして回っているラクガキのようなものとしてデザインしているものと、おっしゃるように広告としてデザインしているものが混ざっています。
――ナワバリを主張するのは、グラフィティのようなイメージでしょうか。
西森 そうですね。ハイカラシティにもちょこちょことあって、基本はイカやクラゲたちが描いているんですが、よく見るとタコっぽいものが混じっていたりして、侵略されている雰囲気が見て取れるようなイメージもあります。ひとつひとつに、これはイカが描いたやつ、これはタコが描いたやつと意識してデザインしています。
野上 タコだからここに貼る、イカだからここに貼るといったイメージですね。
西森 「あんな場所に、どうやって貼ったんやろ?」というように場所でアピールしたり、イカの落書きの上にタコが重ねて貼ってたり。あと、非常口のマークがイカっぽくなっているんですが、ときどきタコバージョンが混ざっています。この矢印はゲーム中で裏道を誘導したりするように貼っているんですが、タコの矢印通りに進むと、奈落に落ちるようになっていたり、タコの気持ちになって貼っています(笑)。
――細かなところまでのこだわりが(笑)。ギアのデザインや壁などの落書きには、イカ文字などがありますが、あれは実際に読めるのでしょうか?
西森 よく見ると“イカソウメン”や“タコス”のように読めそうなものもありますが、イカ語やタコ語など複数の言語がまざっているので解読するのは難しいでしょうね。
井上 そもそもイカたちは、私たちと同じ文字体系を扱っていないことにしています。海外に行くと、日本語の“の”などの文字がカッコイイ文字として扱われているけど、意味としてはおかしいというものがありますよね。それに近くて、カッコよければいいやというイメージで、イカたちが人間の文化を採り入れているんです。
作り手とユーザー、相互の競争
――先日開催されたファミ通イカファッションコンテストにたくさんの応募がありましたが(関連記事は→コチラ)、応募された作品をご覧になっていかがでしたか?
西森 気合の入ったデザインがたくさんありましたね。つぎつぎと力作が届いてびっくりしました。自分たちでも、今後いろいろとギアを増やしていこうと思っていて、「これ、作りたいと思ってたんよなー」というものもあれば、「この手があったか!」とか「意外とこういうものが求められているんだな」というのものもあって、非常に刺激を受けました。今回はひとつしか選べませんでしたが、選ばれなかった方のデザインも今後デザインしていくうえで、参考にさせてもらえたらなぁと思ってます。
井上 非常にたくさんの応募をいただいて、本当にうれしいです。こういった2次創作と、我々が出す1次創作両方を含むことで、このゲームがよりおもしろくなると思います。すでに多くの方にいろいろなイラストなどを描いていただいていますが、僕らがそれを受けて、もっと喜んでもらえるものを描くといった、作ってもらったものに対して作るもので応えるということを心掛けていきたいです。
野上 デザインの方向性として、いろいろな人が参加して盛り上がりやすいというか、ファンタジーの世界よりは自分たちの世界と近い部分があるので、「こういうのが好き」というアピールをしやすいモチーフなのかなと思います。今回のファッションコンテストもそうですが、いろいろなデザインやイラストを描いていただいて、ほかの人がおもしろがって、「私はこういうのがあったらいいと思う」というように、どんどん広がって盛り上がっていったらうれしいですね。
――最後にファンに向けてメッセージをお願いします。
西森 今日は、デザインチームの代表としてお話させていただきましたが、ほかのデザイナーと話をしたり実際にゲームを遊んでいる中で、「こんなこと考えて作ってたんや」と気づかされることがあって。僕らも知らないようないろいろな思いを込めてデザインに落とし込んでいるものがたくさんあると思うので、長く遊んでそういうところも含めて、『スプラトゥーン』の世界をより楽しんでもらえたらうれしいです。
井上 デザイン全般で、“ほかの人にはわからないかもしれないけど、僕はこれが好きだ”という感覚を大事にしているんですが、そういうところの熱量を感じ取ってくれている方も多く、素直にうれしいです。ファンアートなども多く描いていただき拝見していますが、そういう部分で描いてくれた方と1対1でコンタクトできているイメージがあるのが、とてもうれしいですね。今後も皆さんのそういった想いに応えられるようにしていきたいと思います。
――ありがとうございました!
デザイン編のインタビュー、イカがだっただろうか。このほかにも、システム編、サウンド編があるので、合わせて読んでいただきたい。なお、冒頭にも書いたとおり、本作の設定資料集“イカスアートブック”が、2015年10月10日に発売予定(詳細は→コチラ)。設定資料集を読んだ後に、再度本インタビューを読んでいただけれは、より楽しめるはずだ。
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