●ヒットの要因、そしてチュートリアルの裏設定!?

『スプラトゥーン』開発秘話。すべては長く楽しんでもらうために。多くの裏設定話も飛び出した、開発スタッフインタビュー【システム編】_05

――これだけヒットしている要因を、皆さんはどう分析していらっしゃいますか?
野上 まずひとつは、ゲームがわかりやすかったというのがあるのかなと思います。とにかくインクを塗り広げて、ナワバリを多く取ったほうが勝ちというルールですので、説明もしやすいのかなと。あとは、私が家族の前でやっていてわかったんですが、まわりの人が「やらせて」と言ってくるんですよね。人がプレイしている姿を見ていておもしろそうに見えるというのも、理由のひとつだと思います。僕らも闘会議やニコニコ超会議、あるいは店頭での体験会を行いましたが、人数制限などもあって、実際に触って遊んでいただけたお客さんの数は、そこまで多くなかったんですね。でも、後ろで見ていた方やネット越しに見ていたお客さんはすごく多くて、そういう方が自分たちもやってみたいと思って入ってきてくださったのかなと思います。
阪口 塗るというのは、行動が視覚化されている行為だと思うんですが、見ただけで何をしているかが一発でわかるという要因は大きかったかもしれません。そして、見た人たちが「俺ならこうする」とか「私ならこっちから行く」と、いろいろ考えるんですよね。それで、実際にプレイしている人の行動でうまくいった、もしくは失敗した結果を見ると、今度は自分でやってみたいと思う。そういうサイクルが生まれやすいようなゲームにしようと考えていたのはありますし、前述のTwitterなども含めて、開発スタッフみんなで“ゲームを知ってもらう”ということに気を配りながら作っていたので、その影響もあるのかなと。
佐藤 見ている人がやりたくなるというのもあると思うんですが、あとは、新規IPということもあってか、遊んだ方がほかの方に「こんなゲームあるんだけど」と人に広めてくださったことも大きかったのではないでしょうか。ただ、そのオススメするポイントが人によって違っていて、「ゲームの仕組みがよくできている」と言う人もいれば、「キャラクターがいい」と言う人もいたり、「服がかわいい」と言う人がいたりと、これだけいろいろな部分にフックする人が出たのは、それぞれの要素についてがんばった甲斐があったと思っています。
天野 僕はちょっとみんなと逆で、何でかわからないんですよ。全然わからなくて、でも、わからないからこそいいのかなと思います。もちろん、ひとつひとつ“こういうことなんじゃないか”という要因は考えられるんですが、でも、それをひとつずつ入れれば受けるかというと違うと思いますし。だから僕は、「わからない」っていうのが正直なところですね。
阪口 わかったら楽ですからね。
天野 わかった振りをしてはいけない、という気がしていて。皆さん、いろいろなことを言ってくださるんですね。キャラクターがよかったからとか、塗るのが可視化されているのがいいとか。どれも正しいご意見だと思うんですが、でも、あえてわからないままにしておこうと思っています。わからないほうがいいかなって。意識するとわざとらしくなりそうですし。
野上 もちろんちゃんとおもしろくなるように考えて作っているんですが、作ったものを実際に遊んでみて、1個1個の要素に手応えを感じはじめると、自分たちの中でも「これは思ったよりイケるかも」という雰囲気が出てくるんですよね。そういう自分たちなりの手応えを積み重ねながら作ることができたのもよかったところかもしれません。

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――なるほど。ありがとうございます。盛り上がりという点では、Miiverseもすごく盛り上がっていますよね。イラスト大喜利のような状態になったりもしていましたし(笑)。
野上 こういう風に盛り上がればいいなと思って入れた仕組みですが、これも予想以上に盛り上がっているようでうれしいですね。絵がうまい人の心に火が点くようにとか、対抗して描きたくなるとか、また、そういった絵を見て感想を言いたくなるといったことができればいいなと思っていましたが、皆さん、本当に絵がお上手ですし、モチーフにするネタも意外なものが多くて(笑)。
天野 広場にみんなが集まって吹き出しで表示されたり、ステージの看板などに貼られたりといったことは、企画の当初からやりたいと思っていたんですが、Miiverseをいい形で使いたいと思った結果なんです。
野上 もともと『スプラトゥーン』の開発スタッフは、Wii Uのローンチに関わったスタッフが多くて、僕はWii Uの本体機能などを担当していた縁で、Miiverseにも関わっていて。
阪口 僕も『Nintendo Land(ニンテンドーランド)』で、同じようにMiiverseが表示される広場を担当していたんです。
野上 そういうスタッフが多かったので、今回は集大成を目指して、Miiverseを入れていました。
天野 広場やステージは、くり返し遊ぶ中で何回も目にするところなので、そこに変化を出す要素は絶対入れたいと、もともと考えていて。そのアイデアをもとに、広場にいる人が入れ替わって、そこに表示されるMiiverseの投稿も変わるというのはやりたかったんです。
阪口 『スプラトゥーン』を継続して起動するきっかけにしてほしいという思いはありましたね。

――ステージ内でのMiiverseの表示も電飾のようになっていたり、ストリートアート風になっていたりと、いろいろありますね。
天野 もともとは落書きのように表示させたいと考えていて、それをデザイナーが「このステージだったらこういう見せかたがいい」といったイメージでアレンジしてもらいました。
阪口 Miiverse以外にも、ステージにはステッカーが貼ってあると思うんですが、あれも貼りかたのルールのようなものがありまして。適当に貼っているわけではなく、自分がイタズラ心で貼るのならどういう風に貼るかといったことをテーマに、ベタベタと連続で貼ったり、コソッと裏に貼ったりと、各スタッフがいろいろ考えて作っているんです。ヒーローモードのタコの世界であれば、タコ風に貼ろうとか、貼るシールの内容も違ったりとか。よくよく見るとニヤッとできると思いますので、チェックしてみてほしいですね。
野上 広場でイカスツリーを見ると、左側の上のほうにステッカーが貼ってあるんですよ。誰かあそこまで上って貼ったんだなという想像ができますね。

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――バトルのステージは、“おさんぽ”を使えば、そういうところがじっくり見られるので楽しいですよね。
野上 バトル中はなかなか見られませんからね。

――ステージのまわりにクラゲがいますが、彼らは観戦をしているんですか?
野上 クラゲは自分たちでは戦えないので、見て楽しんでいます。いろいろなところにいるんですが、基本的にインクがかからないところから見ていますね。

――イカスツリーの中にもいますよね。
阪口 よく気づきましたねー(笑)。初回起動のときは、専用のカメラアングルでイカスツリーを表示するので、いちばんわかりやすいかもしれません。

――クラゲがガチマッチのときにはいなくなるのは、なぜですか?
天野 ガチマッチは、イカ世界の中でこっそりやっているものなんです。あくまで公式のルールはナワバリバトルで、ガチマッチは好きな人が集まってエクストリームスポーツをしているようなイメージ……という裏設定です。

――そんな裏設定が! 裏設定と言えば、いろいろ意味深なものが配置されていますよね。広場の自動販売機にタコ焼きのジュースが売られていたり。
阪口 あれは僕も知りませんでしたね。
野上 デザイナーたちが勝手に仕込んでいるものがけっこうあるんです(笑)。もちろんアートディレクターは把握しているんですけど、僕らは知らないので、後で驚くという。
阪口 今回のプロジェクトで言えば、みんながイタズラ心で作るのが正しいと思います。
野上 スタッフ全員がそういうノリでやっていたりしますね。

――そうやって世界観が広がるのはいいですね。ちなみに、ハイカラシティには電車がありますが、あれは、みんな都市に通ってきているようなイメージなんでしょうか?
佐藤 ハイカラシティがかなりの都会で、若者にとっての、たとえば渋谷のような、憧れの街になっていますね。
野上 一応、イカは14歳という設定なんですが、14歳になったらあそこに来てナワバリバトルに参加するのがイカの世界のステータスってことになっています。
阪口 最初はプレイヤーは田舎者なんですが、初めてお洒落な服を買いにいくみたいな気持ちで、プレイヤーはハイカラシティを目指すんです。それで、チュートリアルの最後にハイカラシティへ飛んでいくと。

――ああ! まさに、チュートリアルはハイカラシティデビュー前なんですね!
野上 だから、最初のメッセージで“おまえはまだダサい”と言われるんですよ。

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――じゃあ、チュートリアルは、自分の家から大きな街へ初めて訪れる前の道中という。
野上 そうですそうです。だから、あのチュートリアルは実家の前にある道なのかもしれません(笑)。
天野 だから、きっと広場に初めて降り立つ格好や持っているブキは、自分で買ったわけではなく、お母さんからもらったものですね(笑)。あそこからスタートして、ナワバリバトルを重ねてイカしていくと、自分のお金をもらったりランクが上がったりして、お店で買い物をしたりして、自立をしていくという。

――なるほど(笑)。チュートリアルは実家から上京するストーリーなんですね。
天野 最初の装備はわかばシューターとわかばTシャツですが、あの名前を決めるときも、ちょっとダサい名前にしようと決めていましたね。お下がり感が出る名前はなんだろうと、いろいろ考えて、あの名前になりました。

――実家で代々受け継がれる、お下がりのブキとTシャツのような(笑)。
野上 そうかも知れないですね。また、それが弟や妹たちに受け継がれるのかもしれません。
阪口 ちなみに、ゲームを起動すると、部屋のような画面が出ますが、あれは主人公がハイカラシティで住んでいるワンルームですね。ちょっとお洒落になっています。
天野 初めてのひとり暮らしの部屋ですね。

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▲ゲームの起動画面。

――イカの形をしたイスや、同じくイカの形をした音楽プレイヤーもありますね。
阪口 プレイヤーたちは、みんなあの音楽プレイヤーでバトル中に音を聞いているという設定なんです。
野上 バトル中は、イヤホンのコード見えないですけどね(笑)。