坂本氏にとって『スマブラ』の仕事とは
――坂本さんは、メインテーマ以外にもいくつかの曲を編曲されていますよね。坂本さんは、『スマブラ』のお仕事をどのように感じていますか?
坂本『スマブラ』64版が出たのは、僕が27、8歳くらいのときです。そして『スマブラX』から大勢の著名なゲーム作曲家が参加されました。ゲーム音楽家を生業としている身からすると、「やっと一人前になれたな」と言ってもらえるようなものだと感じたので、僕にとって『スマブラ』に関わることはひとつのステータス&目標だと思ってやってきました。実際に関われたのは『スマブラ for』のときからですが、本当にうれしかったですね。
――それは、どんなきっかけからですか?
坂本桜井さんがたまたま『討鬼伝』を遊ばれて音楽を気に入ってくださり、Twitter経由で連絡をいただいたのが最初です。「いま新作を作っていますが、編曲で参加してみませんか?」と言われて、「ぜひ!!」とふたつ返事で(笑)。
――担当される曲は、どのように決まったのでしょうか?
坂本曲のリストを提示されて、編曲したい曲を選ばせてもらえるということでした。そこで僕はどうしても、『ゼルダの伝説』のメインテーマがやりたくて……。それはもう子どものころから「こんなにいい曲があるのか!」と思って、趣味で編曲し尽くしていたくらいでしたから。
それを公式のお仕事で、しかも『スマブラ』でできるわけですからね。『ゼルダの伝説』クラスになると、ほかの作曲家の皆さんも遠慮して手を出しにくいところだそうなんですが(笑)、僕は堂々と真正面から「『ゼルダ』のメインテーマをやらせてください!」とお願いしました。
そしてもう1曲を悩んでいたら、桜井さんが、「では『星のカービィ』はどうですか?」と言ってくださり、『カービィの洞窟大作戦』という曲と合わせて、2曲をいただいたんです。これはもう、本当にうれしかったですね。世界中の人が聞いてくれて、自分の名前も出るわけじゃないですか。「ここは絶対妥協できない」と思いました。
――『スマブラ』のお仕事を特別に大事に思う気持ちが伝わったのかもしれませんね。ちなみに、既存の楽曲を編曲するときは、イメージとして何かオーダーがあったりするのですか?
坂本最初は、とくにオーダーはないですね。ただひとつだけあるとしたら、たぶんほかの皆さんも言われていると思いますが、「原曲を壊しすぎないでほしい」ということ。編曲家の個性を出すより、聞いてすぐ「あの曲だ!」とわからないと意味がないということですね。そこは僕も、リミックスの仕事などでは必ずそうしています。なるべく原曲には忠実にしつつ、でも誰が編曲したのかをある程度わかってもらえないと、自分のやる意味がない部分もありますし、そこはつねに葛藤ですね。
――『スマブラSP』で編曲した曲のなかで、いちばん難しかった、苦労した曲などはありますか?
坂本編曲についてなら、今回はもうダントツで『ピクミン』のメインテーマですね。『ピクミン』は、もともとの曲がやっぱりちょっと……。
※『スマブラSP』公式サイトのサウンド視聴ページで試聴可能(https://www.smashbros.com/ja_JP/sound/index.html)
――もとは静かな感じの曲ですよね。
坂本じつは各曲には、「ゲーム内でどれだけ使われるか」という再生頻度ランクが設定されていて、『ピクミン』のメインテーマは、かなり優先度の高い“A”だったんですよ。Aクラスといったら、ふつうは作曲家がこぞって奪い合う曲が並ぶわけですが、『ピクミン』は誰も手を挙げないまま残っていまして。曲を聞いてみたら、ずっと、「テケテケテケテケ」みたいな感じで、はっきりとしたメロディーもなくて……ほかの皆さんが避けている理由がわかりました(苦笑)。
――『スマブラ』の大乱闘にふさわしい曲にアレンジするのは、至難の業なのでしょうね。
坂本はい。「これをバトルの曲にアレンジするには、どうしたらいいんだろう?」と。何名かの作曲家が集まって行う、曲の担当を決める会議でも、ほかの作曲家の皆さんもなかなか「私がやります」とは言いづらかったみたいで、誰も手を挙げない時間が続いたんです。
けっきょく、あまりに手が挙がらなかったので、桜井さんが「坂本さんがやったらいいんじゃないですか?」みたいなことを言ったのかな……いや、「この無言の時間が耐えられない」と思って、我慢できずに「僕がやりますよ!」と自分から手を挙げたような気もします(笑)。
でも、そのあとがたいへんでしたね。曲に対して、桜井さんはつねに「まだまだ静かすぎます」と。何度提出しても、「これじゃダメ。もっともっともっと!」とメールで返事が返ってきて……覚悟はしていましたが、想像以上にたいへんでした。
ほかは『悪魔城ドラキュラ』、『ファイアーエムブレム』、『ロックマン』の楽曲を担当しましたが、こちらは意外と、すぐにオーケーをもらえましたね。
――ゲーム中でほかの方がアレンジした曲をお聴きになって、「これはやられたな」とか、「これはよかったな」などと感じた曲はありましたか?
坂本原曲が自分の作った曲で恐縮なのですが、中鶴潤一さんが手掛けたメニュー画面のアレンジは、本当にすばらしいと思いました。オーケストラでちゃんとバンドのサウンドも入っていて、これは編曲も難しいうえに、ミックスもそうとうたいへんだったと思うんですよ。本当にカッコよくて、自分が編曲した曲よりもよく聴いています。
また、これまた手前味噌になりますが、ノイジークローク所属のいとうけいすけが担当したキーラ戦は、オーケストラアレンジが恐ろしくすばらしい。彼は絶対に世界で通用する作曲家だと思いますね。
あとは、青木佳乃さんがアレンジした『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』のテーマがすばらしいと思いました。
自分の曲が収録されていることが信じられないほど特別な作品
――古賀さんは、ふだんはかわいらしい声ですが、歌声になると迫力十分になるというのは、持って生まれたものなのでしょうか?
古賀どうなんでしょう……。ボイストレーニングでお腹に力を入れて、となると、やっぱり低い音というか、太い音を出すことになると思うので、クセがついたのだと思います。私は洋楽のブラックミュージックなどが好きなので、その影響もあるかもしれません。
――ちなみに、目標とする声優さんや、アーティストさんがいらっしゃれば、ぜひお聞きしたいです。
古賀坂本真綾さんが、ずっと目標です。“声優スタジアム”のときも、ギターで弾き語った曲は、坂本真綾さんの曲でしたし、ずっと憧れています。
――現在は受験勉強中とのことですが、音大を志望されているとか?
古賀音大も一応考えてはいるのですけど、ふつうの私立の4年制大学に行くつもりです。学生生活と併せて声優も目指していく、という感じになるのかなと思います。
――Twitterでは、カービィで百人組み手をクリアーした画像をアップしていましたが、『スマブラSP』はよく遊んでいるのですか?
古賀はい、全キャラ開放済みです! でもカービィで慣れているので、ほかのキャラはぜんぜん使えませんが(笑)。
――ゲームで自分の歌声が流れてくるのは、どんなふうに感じるものなのですか?
古賀最初は、起動した瞬間に歌が流れたので、「ああ、私だ!」って、本当にビックリしました。やっぱり自分が歌っているゲームを自分でプレイするのは、なかなかないことだと思うので……本当に特別な作品です。
坂本これは僕にとっても非現実的なことで、実際にリリースされるまで、どこか信じていませんでした。最後の最後に、別の曲に差し替わるんじゃないかって(笑)。
――坂本さんほどのキャリアのある方でもそうなら、古賀さんはなおさらでしょうね(笑)。ゲーム発売後は、お友だちから何か連絡がきたりはしましたか?
古賀はい、みんな買ってくれて、「流れてるよ!」って動画を送ってくれました。友だちからは「歌って歌って~!」と言われたりすることもあります(苦笑)。
坂本(笑)。でも、公式に歌ってもらえる機会などもあるといいですね。
――それこそ公式大会のステージなどで、歌う場面が出てくるかもしれませんね。
古賀そうなったらうれしいです! でも最近は受験勉強中で、歌はあまり歌えてないので……練習が必要ですね(苦笑)。
――最後に改めて、ご自分の歌唱の中でとくに気に入っているフレーズや、ここはぜひ聴いてほしいというところを教えてください。
古賀やっぱり最後の、転調の部分ですね。あそこは苦労したぶん、思い入れも深いので、皆さんに注目して聴いていただきたいです。あと、タイトルにもなっている「命の灯火~」のフレーズも、歌詞がすごく好きです。
桜井政博ディレクターからコメントが到着!
最後に、苦しみ抜いた末に会心の曲を生み出した坂本氏と、努力を重ねて難しい曲を歌いきった古賀さんに、ディレクター・桜井政博氏からメッセージ! 改めて、『命の灯火』に対する思いと、ふたりの仕事ぶりへの感想を語っていただいた。
前作『スマブラfor』のメインテーマを同じ方向性で越えるのは難しかったので、歌を採用することは早々と決めました。今回は珍しくオーディションしています。
坂本さんから挙がった曲は、仮歌も入り、完成度も高く、驚くべきものでした。が、覚えやすくするために音譜の数を減らしていただきました。
古賀さんは、すばらしい声量を持っていました。最初に拝見したサンプルはMisiaさんっぽかったのですが、それならご本人にお願いするので、独自の色を出していただいています。
ところで、あんまりわたしが作詞したということを触れ回りたくないんですよね。制作側が出したメッセージのようになると、ファンタジーがファンタジーでなくなりますから。忘れてください。