バランス重視のオンライン対戦。esportsに特化せず全方位に対応
――オンラインマッチでは、“タグを奪って売り払う”など、ユニークな要素がいろいろ加わりましたね。改めて、『スマブラ』のオンライン対戦を設計するうえでのお考えを教えてください。
桜井わたしは、オンライン対戦については、何勝何敗だとか勝率だとか、そういうことはあまり深く掘り下げないほうがいいと考えています。記録するにしても、勝ち数だけでいいと思っているんです。タグというのはその延長線上にある企画ですね。その1勝の相手がどんな人だったか? という。
――それは喜ぶ人が多いと思います。負け越しがどんどん増えると、だんだんオンラインをやるのもおっくうになりますし。
桜井そうですよね。しかも今回は世界戦闘力といったものがあるので、だんだん釣り合いの取れる方向に行くはずなんですよ。たとえば、10回やって1回しか勝てなかったという人は、もうやめたくなってしまうじゃないですか。そういったことはあまり感じさせたくないな、とは思っています。
もちろんよく見れば、戦いの記録の数字から勝率を割り出すことはできるのでしょうが、そういうところはなるべく奥底に隠して、基本的に勝ったという記録だけを残しておきたいというのが、わたしの考えかたです。

――一方でVIPマッチもありますが、これはどれくらいのうまさといいますか、レベルの高さを想定しているのでしょうか?
桜井スタートするにあたって、だいたい何人にひとりくらい、という規模の想定はあります。ただしこれは、サービス開始のときにそうするだけであって、だんだんネット対戦が深まっていったときには、また見直しをかけていくことになると思います。
――なるほど。個人的には、最初にスタートダッシュして、一度でいいからVIPマッチに参加してみたい気もします(笑)。
桜井最初からオンラインを遊ぶ人って、当然『スマブラ』に慣れた人も多いので、あとのほうが入りやすいかもしれないですよ(笑)。ただ、ふつうに遊ぶ人は、VIPマッチについては忘れておいてもいいんじゃないかなとは思います。どちらかというと、上級者と初心者が頻繁にマッチングされることを防ぐ効果が大きいと考えています。

――ネット対戦も盛り上がりそうですが、『スマブラ』については、esports関連でも大きな期待が集まっています。任天堂主催のゲーム大会も盛り上がっていますが、そのあたりはどのようにお考えですか?
桜井esportsでの遊ばれかたはもちろん歓迎していますが、それだけではないのが『スマブラ』のよいところだと思っています。
仕様や演出なども、esportsの盛り上げを意識しているように捉えられがちなのは理解できるのですが、けっきょくは全方位に手を伸ばしているだけにすぎないんですよ。esports的な遊びをする人たちにも深く満足してもらいたいし、初心者にもいろいろな満足をしてもらいたいがために、ステージやアイテムの実装もがんばっているわけで。
だからわたしの考えとしては、遊びかたを限定させるとか、特定の方面のみ充実させるということはないですね。
――esports方面だけに振っていたら、そんなにアイテムや、ヘルプも、ここまでがんばる必要はないですものね。今回の新アイテムのスマッシュボームなどは、本当にバカだなあと思って、編集部でも大ウケでした(笑)。
桜井ばかばかしいですよね。でもそういうのがポーンとぶつかってワハハと笑うという、そういう場が生まれるのが『スマブラ』らしいと思います。
――対戦といえば発売前に大会もありましたが、非常にハイレベルなものだったと思います。ご覧になっていていかがでしたか?
桜井やっぱりハイレベルでしたね。リヒターを使っていた人なんて、「なんで初めてのキャラなのにここまで使えるんだろう?」って。皆さん慣れる速度は早いですね。発売されてから、キャラクターについてもいろいろなことがわかってくるでしょうし、また特化された遊びや駆け引きが楽しめることと思います。チャージ切りふだなどを巡る駆け引きも、おもしろそうですよね。
――大会を見ていると、観戦する側としては、やはりアイテムありのほうがおもしろいように思いました。うまい人はやっぱり、アイテムを使うのもうまいなと感じましたし。
桜井上手ですよね。わたしもアイテムによる、見ていて変化がある展開は好きです。
――新要素のステージ変化もポイントですよね。ステージ変化に対応できるかどうかが、展開に大きな影響を与えることも多そうです。
桜井ステージをダイナミックに入れ替えるという演出は、わりといい仕様だと思っているんです。ステージのひとつひとつに変化を細かく仕込まなくても、大きな変化を生み出せますし。とはいえ作るのはもちろんすごくたいへんで、それに対してやらなければいけないこともいっぱいあるのですが……、それでも見ていて楽しい仕組みですよね。
完成したことが奇跡に近い今作。そして桜井氏の次回作は……?
――“ニンテンドウオールスター”という名前がついていた『スマブラ』も、もはや任天堂に留まらない、いろいろな意味でのオールスターになってきました。桜井さんのなかで、「これがあれば『スマブラ』だ」という、定義のようなものがあればお聞きしたいのですが。
桜井定義は……とくにないですね(笑)。蓄積ダメージをやめたら『スマブラ』じゃないかというと、体力戦もあるし、そうではないと思うんですよね。スマッシュ入力をやめたら『スマブラ』じゃないかというと、それも違うでしょうし。
だからどちらかというと、ひとつひとつの細かいことではなくて、プレイフィールの問題かな、とはなんとなく思っています。たとえばこれが1on1しかできない対戦格闘、ふつうの格闘ゲームになったなら、それは『スマブラ』じゃないと言えると思いますが。
――『スマブラ』開発は、もはや桜井さんのライフワークになっているようにも思えます。
桜井少なくとも、任天堂から作ってほしいという依頼があったら、最優先で取り組むべき課題ではあると思っていますね。将来的にはわかりませんが……。
――さきほどのスピリッツのキャラクターの紹介にしても、ササっと話が出てくるあたりも含めて、やはり本作は桜井さんでなければ、という気もします。
桜井難しいですよね、本当に、いろいろ任せないといけないとは思っているんですが……。でも、パラメータを直接いじることはなくなりました。
――ああ、そうなんですか! まったくですか?
桜井今回はまったくです。攻撃発生フレームの設定ですとか、いちばん最初にモーションを作るときに必要な作業などはやりましたが、攻撃判定や強さのバランスといったものは、モニターチームとファイター企画チームをけっこう大規模にして、やってもらいました。
――そうでしたか。ずっと桜井さんが直接調整されているイメージがありました。
桜井いやいや、さすがに70体以上となりますと……(苦笑)。
――じゃあそういったところはもう、任せられる編成ができたという感じだったのでしょうか?
桜井でも、強弱をもとに任せていると、平均化してくるんですよね。バランスを取ろうとしすぎると、あまりおもしろくなくなってきてしまいます。そういうところではやはり、「はたから見てこう思うよ」というような、コメントを返すことは必要ですね。
――でも、ご自分で入力しなくなったことは、過去を考えると相当大きな変化ですね。
桜井確かになかったですね。でも、相当な上級者のプレイなどは、もうわたしではさすがに追いつかないレベルになっていますし。たとえば『スマブラfor』でも、モニターチームがプレイした結果を受けてから、わたしがパラメータを入力する、といった感じでしたから。
――さて、そうするとつぎが気になります。いまは次作なんて、考えたくないとは思いますが。
桜井まあいまは、考えなくていいときですから考えてもいませんけど……、もう、10年くらい出なくてもいいんじゃないですか(笑)。
――確かに今作は、余裕で10年は遊べそうに思えます(笑)。
桜井今回はスイッチが出るから、それに対して新しい『スマブラ』を作ってほしいというオーダーに近かったんですよね。じゃあそのつぎのハードがあるのかとか、そういう話がとっかかりにはなると思いますが、そこに自分が関わるかどうかはまた別の問題だと思っています。だってきっと、つぎを作るのはつらいですよ。全員参戦は本当に奇跡で、今回限りだと思っていますから。
――それを引き継ぐ人が出てくるのか、また桜井さんみずからが手掛けるのか……。
桜井どうなんでしょうね。まあいまは、今作を楽しんでくださいとしかいえません。
――実際、『スマブラSP』は本当に決定盤だという感じがしますし、いまはこれがあれば一生遊べそうに思っていますが…、1年2年が経てば、みんなが「そろそろつぎかな?」と言い出すのかもしれないですね。
桜井当たり前のようにあるものではないんですけどね。今作を作れることや、完成したこと自体がやっぱり奇跡に近いですから。いろいろなところに了承も取りましたし、ふつうにシリーズ続編が1本できるのとはずいぶん違うんですよ。スタッフの皆様にも、キャラクターを貸してくださった人々にも、本当に、「ありがとう」と言いたいです。
編集部注:「灯火の星」で「なぜカービィが生き残ったのか」
週刊ファミ通誌上で桜井氏が連載している人気コラム「桜井政博のゲームについて思うこと」。週刊ファミ通12月13日号で掲載したVol.568では、“灯火の星”でカービィが生き残った理由について解説されている。本インタビューをより深く理解してもらうため、最後に、該当部分を引用して以下に紹介しよう。
■なぜカービィが生き残ったのか
『灯火の星』ではファイターが一気に全滅するけれど、とにかくひとりだけは生き延びさせなければ話がはじまらない。そこでなぜカービィが生き残ったのか。わたしがカービィを作ったからえこひいきだ! なんて勘ぐりがあることはもう、想定内です。だけど企画の観点から消去法で考えれば、カービィしかいないのは明白でした。キーラの手から逃れるには、説得力がある絵で見せられる、相応の理由が必要です。ふつうの能力しか持っていないファイターは、無条件で除外されます。果ての星々まで巻き込んでいるので、乗り物などで物理的な速度がどんなに速くてもダメ。ちょっとした距離を飛べるテレポートでも不可。
忘れられがちだけど、『カービィ』の1作目から描写がある、ワープスターはワープできるという事実。まずこれが強みになりました。ファイターで生き残る可能性があるとしたら、カービィ以外にはベヨネッタかパルテナぐらいしかいないでしょう。が、プルガトリオ(ベヨネッタと敵が戦う煉獄、別世界)内の敵もスピリッツ化しているので、ベヨネッタは逃れられない。パルテナも、都合よく奇跡を発揮できるわけでもなく。カルドラ、ハデスなど、神に該当するほかのキャラもみんな、スピリットになっているので、絶対的です。
そもそも、ベヨネッタやパルテナが最初のキャラというのは、いかにも難しいです。最初のキャラは、基本的で、誰にでもやさしいものでなければなりませんから。『大乱闘生活』の呼びかけでも、最初にやるファイターとして、もっとも票を集めたのはカービィでした。まさにうってつけで、ほかに選択肢はありませんでした。
なお、2018年12月27日発売の週刊ファミ通1月10・17日合併号では、桜井氏の連載コラムのうち、『スマブラSP』に関連する話題が綴られた11回分を丸ごと再録した特集を掲載予定だ。ここで紹介したVol.568はもちろん、『スマブラSP』制作にあたっての桜井氏の深い考えをうかがい知れる記述がたっぷり読める内容となっている。今回のインタビューを読んで興味を持った人は、ぜひそちらもチェックしてほしい。