街を再び訪れることで発生する新たなサブイベントが熱い!

『ポケモン ウルトラサン・ウルトラムーン』あのエピソードの真意は? 開発者たちが明かす、ストーリー制作秘話【ネタバレ注意】_03
『ポケモン ウルトラサン・ウルトラムーン』あのエピソードの真意は? 開発者たちが明かす、ストーリー制作秘話【ネタバレ注意】_07

――キャプテンたちの意外な一面を見られるのは、ファンとしてはうれしいポイントですよね。そのほか、プレイヤーにはなかなか気づかれにくいけど、じつは変えている、というような部分がありましたら教えてください。

杉中キャプテンたちを含めて、登場人物の掘り下げをしているのが本作の特徴なのですが、これにはメインストーリーを追うだけでは出会えず、サブイベントで初めてわかるものがたくさんあります。意外と気づいていない方もいらっしゃると思うのですが、メインストーリー上で一度訪れた場所に再び戻ることで発生するイベントがたくさんあるのです。

――確かに、意外な場所で意外な人物のサブイベントが始まることがありますね。

杉中本作は、遊べば遊ぶほど味が出るスルメのようなゲームを目指していましたが、そのための取り組みのひとつがサブイベントの追加ですね。新規エピソードは100以上入れ込んでありますが、個人的にはクチナシのイベントがお気に入りです。ほかにもハウオリシティの交番で発生するイリマのサブイベントなど、とにかく数が多いので、アローラ地方の観光を楽しむひとつの要素として、一度通った場所を再度訪れてみるなどして探してみてください。

――100以上の追加というのは、相当なボリュームですよね。制作の労力もたいへんなものだったと思いますが。

杉中『ポケットモンスター』シリーズに収録されるサブイベントは、だいたい80~100くらいなんです。『ポケモン US・UM』では、『ポケモン サン・ムーン』に収録されていたものに加えて、さらに同じくらいの分量を追加しているので、シナリオ全体のボリュームはかなり大きくなっています。

――岩尾さんは、新たなサブイベントのボリューム感やエピソードの方向性については、どのように考えられていたのでしょうか。

岩尾メインストーリーのルートとは別に、アローラ地方のことがもっともっと理解できるエピソードがポツポツと存在していて、それを望むプレイヤーの皆さんはより多くの情報を得られるという構造はよかったと思っています。それに、あくまでもポケモンが主役のゲームなので、ポケモンのことをさらに深く知ることができる要素が欲しい、という想いもずっとありまして。『ポケモン US・UM』のサブイベントには、これまであまりフォーカスされていなかったポケモンにも興味を持ってもらえるものがたくさんありますので、ぜひあちこちを旅してもらえればと思います。

――ちなみに、開発段階で出たサブイベントはどのくらいの数があったのでしょうか。

杉中たくさんありますね。

岩尾ぜんぶ足すと、実際に収録された量の数倍になると思います(笑)。

杉中収録されている100のサブイベントは、膨大な数の中から魅力的なものを選抜した結果、残った精鋭たちなんです。

――そうしたアイデアは、常日ごろ考えているのですか。

杉中自分がアイデアを思いつくのは、だいたい日常のワンシーンだったりします。たとえば、『ポケットモンスター オメガルビー・アルファサファイア』のバトルフードコートは、自分がショッピングモールのフードコートに実際に行き、満席で座れなかったときに思いつきました。そういうふうに、日常生活で何かしらの感情を揺さぶられたものをゲームに落とし込むことが多いですね。意識的にアイデアをストックしている人もいると思いますし、そこは人それぞれだと思いますが。

――確かに、日常生活からアイデアを抽出するやりかたは、内容に生活感というかリアリティが出る気がします。

杉中世界観をよりおもしろく、より深くすることがサブイベントの役割だと思っていますので、その意味では日常生活からの着想はシンパシーを得やすいのかもしれません。

――それで言うと、ハワイを旅しているとアローラ地方に関するサブイベントはたくさん生まれそうですね(笑)。

杉中まさしくその通りなんです(笑)。ジムオブカントー(マリエシティにあるジム風の対戦施設)は自分がハワイに行ったときに日本のものを扱ったお店を見て、「あっ、自分の国の文化というのは、外国ではこういうふうに受容されているんだ」と思った体験を表現しています。あれはクチバシティのジムをモチーフにしているのですが、アローラ地方ではちょっと変貌してしまっています。

――たしかに、カントー地方にあるオリジナル版とは、少し様子が異なるところがありますよね(笑)。

杉中ゴミ箱の底のスイッチが無くなっていますからね(笑)。

岩尾きっと、ジムオブカントーのオーナーがカントー地方に観光に行ったとき、たまたま見たのがマチスのジムだったのでしょうね。「ジムという場所には、ゴミ箱が置いてあるのか!」と思って、ゴミ箱をそのまま置いてしまったのだろうと(笑)。

――そうかもしれません(笑)。それにしても、『ポケモン US・UM』に収録されているサブイベントは、表現しようとしている事柄がバラエティーに富んでいますよね。実生活で感じる微妙な空気感の表現にまで挑戦しているところが興味深いです。

岩尾すべてが現実じみたものになってしまうと夢がなくなってしまうのですが、一方で、大きなファンタジーがダイレクトに迫ってくると、それはそれで感情移入がしにくいときもあると思うんです。わくわくする冒険や謎がありつつも、もう少し身近なところから『ポケモン』の世界に入り込んでもらいたい。その入り口の役割を担っているのが、サブイベントというわけです。

――サブイベントをじっくりと楽しむことで、メインストーリーの深みや魅力がさらに大きくなっていく仕掛けなのですね。

岩尾それもまた、我々が『ポケモン US・UM』で掲げた“核心”というテーマを体現するひとつのやりかたなのだと考えています。

――ちなみに、さらに細かい仕様の部分でも、“じつは変えている”という要素はあるのでしょうか。

杉中ちょっと地味ですが、出来事の場面が暗転する際のフェードの演出を変えていたりしています。ストーリー進行をテンポアップしたいという岩尾からの要望がありまして、フェードの時間が少し短くなっているんです。

――あっ、そう言えばそうですね。

杉中演出自体を削っているわけではないのですが、じつは全体的にテンポアップしていて、かなり遊びやすくしたつもりです。それと、これは気付かれているか不安なのですが(笑)、ストーリー中で“はい”と“いいえ”の選択をするときに、主人公がうなずくようになっているんです。

――すいません、あまりに自然すぎて言われるまで気がつきませんでした(苦笑)。

杉中じつは本作から新しく追加した要素なのです。“この操作キャラクターは自分である”という没入感をより高めることがこの仕様の意図なのですが、気づいていなかった方は、改めて見てみていただければと。

――気づいていなくても、無意識のうちにその効果が得られているのかもしれませんね。

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