2022.10.29

【インタビュー】奥田瑛二が赤裸々に明かす…「天知茂さんの付き人だった俺の青春」

週刊現代 プロフィール

夜逃げ同然で飛び出した僕に

こうして天知さんのすごさ、かっこよさを毎日間近で見ながら、着物の着付けから所作、あらゆる芝居の小道具の名前や扱い、芸能界の行儀作法など、覚えることは全部覚えました。

また、天知さんの元に来る前に代議士の書生として培っていた、徒弟制度の心得や人を見てものを学ぶというコツを、全身全霊で天知さんのために発揮しました。それはもう天才的な付き人だったと思いますよ、我ながら。

 

さらに言うと、当時の僕は顔もかわいかった(笑)。おかげで「安藤はよくやってる」と天知さんが周囲に言ってくれたり、端役で舞台に出させてもらえるようにもなり、充実して楽しい日々でした。

しかし2年目の半ばを過ぎた頃から、僕は毎日「このままでいいのか?」と自問自答するようになり、ついに夜逃げ同然で天知さんのもとを飛び出しました。若かった僕は付き人を続けるよりも、早く役者として一本立ちしたいと逸る気持ちを押さえられなかったんです。

その後、天知さんと言葉を交わしたことが一度だけありました。付き人をやめたものの、結局食べていけなくてアルバイトをしていた深夜スナックに、突然天知さんが兄弟子を連れてやってきたんです。そして何ごともなかったように僕にたずねました。

「俺は酒が飲めないから。ここは何が食べられるんだ?」

動揺しながらメニューを渡すと、天知さんは生姜焼きとごはん、みそ汁を注文。無言できれいに食べ終えると「それじゃあ」と言って帰っていきました。

たぶん、僕の様子を見に来てくれたんでしょうね。相変わらず何も言葉はなかったけれど、天知さんのやさしさを感じました。

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