柚木麻子さんの「らんたん」は、東京都世田谷区船橋に中学・高校がある恵泉女学園の創立者河井道(1877〜1953年)をモデルにした大河小説。柚木さんの母校でもある中学・高校で、女子教育に生涯をささげた河井の足跡をたどった。(共同通信=近藤誠)
河井はスミス女学校(現北星学園女子中学高校、札幌市)で学び、札幌農学校で教えていた新渡戸稲造と出会う。その後米国に留学。帰国後は女子英学塾(現津田塾大)で教えながら「日本YWCA」の創設に尽力した。
牛込神楽町(現新宿区神楽坂)の自宅を校舎として学校を開いたのは29年。翌年、現在地に移転した。河井は「聖書」「国際」に加えて「園芸」を教育の柱に据えた。現在も校舎の前に広がる畑で、生徒たちが土にまみれながら花や野菜を育てている。牛込神楽町時代の校舎は移築され、茶道部などの活動の場となった。
同校史料室は、河井や学校の資料を保存、公開している。青色の洋服は、161センチと当時としてはかなり長身だった河井が着用して、人々の目を引いた物と伝わる。女子英学塾創設者の津田梅子や実業家の広岡浅子と写った写真もあり、柚木さんは取材のために何度も足を運んだという。
個性豊かな教員たちも小説に登場する。「わだつみのこえ」像で知られる彫刻家の本郷新は、学校創設時に美術教員を務め、校章のデザインも担当。本郷が制作した銅像が校内に残っている。戦後、歌人の柳原白蓮も教壇に立った。
生物教室には、人の背ほどもあるワニの剥製がある。作中、生徒たちがワニを連れて駅前を散歩する場面があるが、本山早苗校長は「そこは物語でしょうね。剥製はかなり古くからありますが、学校にワニを飼っていた記録はありません」と教えてくれた。
【メモ】恵泉女学園中学・高校は小田急小田原線経堂駅、千歳船橋駅からそれぞれ徒歩12分。