数千枚ものカードをすべて完全に記憶! 最強のデバッグチームが対戦環境を予測

――ポケモンカードでは、相手のポケモンをきぜつさせた側がサイドカードを取れます。有利な側がさらに有利になるルールですが、これにはどのような意図があるのでしょうか?

長島 相手のポケモンを倒してカードがもらえたら、うれしくないですか(笑)? 逆に言うと、やられたときにサイドカードを取るルールだと、“サイドカード=取りたくないもの”と認識してしまいますよね。すべてのプレイをポジティブにとらえてほしいので、相手のポケモンを倒したときにサイドカードを取れるようにしています。

――サイドカードを取りたくなるルールということですね! それではもうひとつ、レギュレーションについても教えてください。現在、スタンダードレギュレーションでは、“『ポケモンカードゲーム サン&ムーン』シリーズ”より前に発売されたカードは使えません。愛着のあるカードが使えなくなってしまうデメリットもあると思いますが、あえてレギュレーションを設けられているのはなぜでしょうか?

長島 プレイヤーが把握できるカードの総量には限界がありますので、楽しく遊ぶための適量を守るという意味合いがあります。じつは、以前「このカードはいつまで使えてしまうのですか」というお問い合わせが来たことがあるんです。こちらとしては喜んで使ってほしくて開発しているのですが(苦笑)。

――流行しているカードへの対策を仕込むのもデッキ構築の醍醐味ではありますが、対策カードが増えすぎると窮屈にも感じることもありますね……。

岡本 とくに競技としてのクオリティーを高めるために一定のレギュレーションは必要だと考えています。ただ、その一方であまりレギュレーションにこだわらず、気軽に遊んでほしいという想いもあって。

――それはどういう意図なのでしょう?

岡本 公式大会などでは、レギュレーションに沿った形で真剣勝負のおもしろさを感じてほしいのですが、家族や友だちとふだん遊ぶときにはあまり肩ひじ張らなくていいのではないかなと。最初のシリーズから大枠のルールは変わっていないので、レギュレーションの異なるカードを混ぜても遊べるんですよ。おたがいがよければ、それでいいんです(笑)。

長島 公式ルールでも、昔のレギュレーションのカードが使える“エクストラレギュレーション”を用意しています。カードプールが広くなるため、やや複雑にはなりますが、お気に入りのデッキをずっと使い続けたいという方におすすめです。今後はこの“エクストラレギュレーション”にもより一層力を入れるつもりです。シンプルでわかりやすい“スタンダードレギュレーション”と、より深いゲーム環境を楽しみたい方や、お気に入りのデッキを使い続けたい方向けの“エクストラレギュレーション”。この両輪で走っていければと考えています。

――レギュレーション変更の際、どの程度意図して環境の調整を行っているのでしょうか? よろしければ実例とともにお聞かせ願いたいです。

長島 わかりやすく、いまのシリーズからふたつ前、2010年にスタートした“ポケモンカードゲームBW”シリーズを例に挙げましょう。あのころは、おもに子どもがラフに遊ぶためのものとして開発を行っていました。そのため、“ポケモンキャッチャー(※)”のような一部のカードは、バランスが取れていない“強すぎるカード”だとわかっていましたが、あえてそのまま発売したのです。

※ポケモンキャッチャー……現在は「コインを1回投げオモテなら、相手のベンチポケモンを1匹選び、バトルポケモンと入れ替える。」という効果だが、当時はコインを投げる必要がなかった。

数千枚のカードを完璧に覚えているデバッグチームがある!? 再びアツい“ポケモンカードゲーム”制作の裏側を開発陣に聞く。“マーシャドー&カイリキーGX”の初公開ラフ画も!_03

――なぜ、バランスが壊れるようなカードを採用したのでしょうか……?

長島 とにかく遊んだ方の記憶に残るゲームにしたかったのです。10年経っても「あれは強すぎるカードだったよね」と言われることがありますが、それは開発当初から予想していたところもあって。それでも敢えて語ってもらうことを目指して入れ込んだのです。そこから2013年に“ポケモンカードゲームXY”、“XY BREAK”シリーズに移行するにあたってカードの性能を調整しました。これは、ポケモンカードのプレイヤー数が増加し、習熟度も高まったことを受けて、より競技性を重視する必要があると考えたからです。

――誰がどんな遊びかたをしているのかを把握したうえで、その時代に合うように調整が行われているのですね。そうしたカードの調整はどのように行われるのでしょうか?

岡本 社内に“品質管理室”という20名ほどのデバッグチームがありまして、カードが強すぎないかとか、一定の動作をループできてしまわないか、などをチェックしてくれています。そのチームが対戦環境も予想してくれるので、「この環境にはこういうカードがあった方が楽しんでもらえるだろう」という予測をして、新しいカードを作っています。彼らに対しては絶対的な信頼を置いていて、だいたい狙った通りの環境を作れています。たまに、発売後に少し予想外のことも起きますが(笑)。

長島 彼らはすごいんですよ。本当に、朝から晩までひたすらデッキを作っては対戦しまくっていますからね。ほかのTCGのデバッグチームでは、過去の大会優勝者など、実力の高いプレイヤーを雇っていることが多いと思います。うちにも実力者はもちろんいますが、ポケモンは大好きだけどカードゲームはほぼ未経験というメンバーにも、いっしょにデバッグをしてもらっています。単にカードの性能面だけでなく、そのポケモンのカードとしてアリかナシか、という軸でも評価してもらっているんです。

岡本 総じてポケモンが大好きなメンバーです。毎日ポケモンカード三昧なので「夢の中でもポケモンカードをしていました」なんて言う人もいます。

長島 最初の仕事は数千枚にも及ぶ既存のカードをすべて完ペキに覚えることですからね。研修期間は長めに取っています。仮に、いま募集して入ってきてもらったとしたら、正式に開発チームに入れるようになるまで、だいたい半年くらいはかかると思います。

――その半年の間に新しいカードが追加されていくので、最新情報も追う必要がありますね。

長島 そうです(笑)。しかも、かなり細かいところまで覚えてもらう必要があるんですよ。たとえば、新しいカードを考える際に「このコイルの性能はこのカードと同じです」とか、「このカードの上位互換になってしまいます」といったチェックをしてもらっています。それなりにやり込んでいるプレイヤーでも、ふだん使わない“たねポケモン”の技の名前と数値までは、なかなか覚えていないじゃないですか。マルマインは覚えていたとしても、ビリリダマまでは覚えていないと思います。でも彼らはすべてを完全に記憶しているので、「これは○○と同じです」という指摘が本当に一瞬でできるんです。

岡本 ポケモンの名前に紐づけて覚えているだけではなくて、「この数のエネルギーでこの技のときはダメージがいくつのはずなので、これでは強すぎます」という指摘もしてくれます。ほかにも「この新しいカードは、既存のこのカードと組み合わせるとこんなことができてしまうので危険です」なんてこともすぐに教えてくれるので、本当に助かっています。

――そんな優秀なチームがいらっしゃるのであれば、ある程度想定の範囲内かと思いますが、現在の対戦環境はどのように見られていますか?

長島 “GXスタートデッキ”の影響もあって、カジュアルな面では概ね楽しんでもらえていると思っています。また、エビワラーのようなポケモンGXでないポケモンが予想以上に多く使われていることには驚いています。本格的な対戦の場よりも、カジュアルに楽しむような目的で使われるかなと思っていたのですが、公式大会でもバリバリに活躍していてビックリしています(笑)。

数千枚のカードを完璧に覚えているデバッグチームがある!? 再びアツい“ポケモンカードゲーム”制作の裏側を開発陣に聞く。“マーシャドー&カイリキーGX”の初公開ラフ画も!_16

――拡張パック“タッグボルト”でエビワラーとサワムラーが揃って登場したときは、「おもしろいコンセプトだな」くらいに考えていましたが、強化拡張パック“フルメタルウォール”でカポエラーが加わったことで強力なデッキタイプとして化けた印象です。

岡本 コンボが繋がると楽しいのですが、そのぶんエビワラーのデッキは動きがやや複雑なので、かなり練習を重ねていないと勝てないと思うんです。それでも活躍しているところを見ると、それだけポケモンカードに時間をかけてくれいているということなので、すごくうれしいです。

長島 幻のポケモン・ジラーチもここまで流行るとは思っていませんでしたね。同時期に出た伝説のポケモン・サンダーも、“ピカチュウ&ゼクロムGX”が登場してから流行りだすと思っていましたので。

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数千枚のカードを完璧に覚えているデバッグチームがある!? 再びアツい“ポケモンカードゲーム”制作の裏側を開発陣に聞く。“マーシャドー&カイリキーGX”の初公開ラフ画も!_14

――幻のポケモン・ジラーチと伝説のポケモン・サンダーを組ませたデッキは、大会で優秀な成績を残したことで一気に注目が集まりましたよね。最近ではプレイヤー個人の情報発信力がかなり上がっていて、自らの考え方やデッキの解説などを記事にして発信する文化が根付いてきています。そうした動きについてどのように見ておられますか?

長島 シンプルにうれしいです。ポケモンカードに限らず、対戦ゲームで情報を集めるのは当たり前だと思っていますので、情報収集も含めて楽しんでもらえたらと思います。新しいカードの性能を採点してくれたりする方もいるんですけど、そういったこともうれしく思っています(笑)。

岡本 ポケモンカードを遊んでいないときでもポケモンカードのことを考えてもらえるほど、夢中になるものを作りたいと思っていたので、願ってもない状況が現実に起こっていて、ありがたい限りです。

――バトルはもちろん、デッキや戦術を考えている時間が楽しい、というのはあるあるですよね(笑)。それでは最後に、新しくポケモンカードに興味を持った方、そして長年のポケモンカードファンに向けて、メッセージをお願いします。

岡本 ルールが覚えやすい動画コンテンツを展開したり、500円で手に入るGXスタートデッキや、2019年3月15日発売のファミリーポケモンカードゲームなど、さまざまな方に手に取っていただきやすい入門用アイテムを取り揃えていますので、自分に合った商品を選んで、気軽に始めていただけたらうれしいです。そして、ポケモンカードを遊ぶ際には、ぜひコミュニケーションを大事にしてもらいたいです。わからないことがあれば聞いてみるとか、相手がコインを投げたときに「うわーオモテかー!」みたいなリアクションを取りながら、楽しく遊んでほしいです。公式大会でも、対戦後に和気あいあいと話されている方が多くて、そうしたコミュニケーションの文化が根づいているのも、ポケモンカードの魅力だと思っています。

長島 ポケモンカードを遊んでくれている人って、本当にみんなやさしいんですよ。これは本当に自信を持って言えます。ポケモンカードには絶対にこう遊ばなければいけないというルールはありませんので、それぞれに合った楽しみかたをしてほしいです。

岡本 本格的に強くなりたいという方も、いまがちょうどいい時期かもしれません。現在発売中の拡張パック“ダブルブレイズ”は、“レシラム&リザードンGX”を中心にかなり強力なカードが揃っています。しかも、ここだけの話ですが……来月発売の新弾では、そんな“レシラム&リザードンGX”をさらに強化するカードが収録されています!! いまのうちに“レシラム&リザードンGX”のデッキを組んでおくことをオススメします。

長島 私は社内でよく、「目指せ、囲碁将棋」と言っているのですが、将来的にはおじいち ゃんと孫が対戦できるような環境が作れたらいいなと思っています(笑)。競技としての本格的なTCGとしての側面と、カジュアルなボードゲームの側面をどちらも持ち続けられるように、挑戦を続けていきますので、今後ともポケモンカードをよろしくお願いします。