●数々のサンプルステージが公開された『スーパーマリオメーカー』
『スターフォックス ゼロ』のプレゼンテーションが終わり、『スーパーマリオメーカー』の映像とともに、手塚卓志氏の仕事をしている様子などが映し出される。そして、映像が終わると、事前予告なしのサプライズで、手塚卓志氏が登壇。まさかの展開に、またまたスタンディングオベーションによる大きな大きな歓声で迎えられる。ふたりが着席して、『スーパーマリオメーカー』のトークの前に、手塚氏について宮本氏が説明を始める。
宮本 もう、30年以上いっしょに仕事しているんですが、僕が最初に採用したデザイナーの部下なんです。入社したころは、もっとルイージのような……(と、手塚氏の体型を見る)いまは立派になりましたけどね(笑)。『エキサイトバイク』のころからいっしょに仕事をして、『スーパーマリオブラザーズ』のデザインを手伝ってくれて、『スーパーマリオブラザーズ3』からディレクターをやってくれました。『スーパーマリオワールド』まで作ったあたりから、立派な身体に合わせて、プロデューサーになって、『ヨッシー』シリーズや、『Newスーパーマリオ』シリーズを作ってくれています。30年いっしょに仕事して、お昼と夜のご飯はいっしょに食べているので、家族よりいっしょにご飯を食べているかもしれない。僕も、同じご飯を食べているんですけどねー(と、手塚氏のお腹を見る)。
宮本 面接ですか? デザイナーが欲しいと思って募集したんですが、みんなたいてい「任天堂でゲームが作りたいです」って来るんです。でも、この人(手塚氏)は違ったんですよ。任天堂でもいいし、子ども服のメーカーでもいいって。いつもアイデアやデザインの力を見るのに、僕は入社面接で4コママンガをみんなに描いてもらうんです。30分くらいの制限時間で。起承転結といって、プロローグがあって、びっくりすることなどがあって、オチがある……という流れで描くんですが、手塚さんが描いたのが、おじいさんのヒゲがただ伸びていくっていうやつなんですね。「どうなるのかな?」と思ったら、最後までヒゲ伸びるだけでおもしろくもなんともない(笑)。「ちょっとおかしな人かな?」と思って採用しました(笑)。
宮本氏による、手塚氏の入社という、かなりレアなエピソードが明かされた後は、手塚氏が『スーパーマリオメーカー』の開発の経緯について話を始める。
手塚卓志氏(以下、手塚) 私が所属する部署はゲームを作るだけじゃなく、ツールを作る人がいるんですよ。いろいろな国に向けてローカライズをするためのツールとか、我々がすごく助かるものをいっぱい作ってくれているんです。それで、彼らがつぎの『マリオ』を作るために役立つだろうと、Wii U GamePadを使ったエディターを試作していたんです。当然ながら、これまで彼らは『マリオ』のレベルデザインなんてしたことなかったんですが、自分たちで試してみたらとても楽しかったらしいんですね。それで、彼らから「これは商品になるんじゃないか」という提案がきて。最初は、ツールだしこれだけで売れるのか、いいものになるのかと、自分でもいいアイデアが浮かばなかった。でも、以前からGamePadを使った『マリオペイント』のような遊びが作れないかと考えていたことがあって。『マリオペイント』は自分では高級なおもちゃだと思っているんですね。あのソフトがあれば、自分たちで好きなようにいろいろ作り出せる。それで、この『スーパーマリオメーカー』はコースを作るソフトなんですが、遊ぶ人たちが自分たちで発想して自由におもしろいコースを作れれば商品になるんじゃないかと思ったんです。だから、ただコースを作れるだけでなく、敵を2段3段4段と高く積み上げたり、ノコノコに翼の生えたパタパタがいますが、そういう翼をほかの敵にも生やして飛ばせたりと、発想次第でいろいろなことができるようにしたんです。
宮本 最初は『マリオペイント』の一部みたいに作っていたんですが、これもできるようにしよう、あれもできるようにしようと、作っている人たちがいろいろ工夫をできるようにすると。そのうち、このソフトそのものが、『マリオペイント』になるんじゃないかという雰囲気になってきたんだよね。
手塚 そうそう。だから、皆さんが手に取ったら、いろいろ試したくなると思うので、ぜひ試してください。コースの作りかたは自由で、人それぞれでいいんですが、我々が作るならこういうものというサンプルを、今回持ってきました。だいたいテーマを決めて作るんですが、今回のテーマは、謎解きのようなものを2画面分のステージで作ろうと。
と、ここでサンプルのステージが紹介されたのだが、写真がないと、なかなか伝わりづらいため、申し訳ないが、詳細は割愛させていただく。簡単に説明すると、ゴールの前には壁があり、通れない状態。その前に、“Pスイッチ”があるので、このスイッチを押せば、壁がコインに代わり、ゴールができるというもの。しかし、スイッチのまわりにも壁があるため、スイッチの下部にある“?ブロック”に甲羅を当てて、“?ブロック”内に仕込まれたジャンプ台を出現させると、その反動で“Pスイッチ”がブロックから飛び出て押せるようになる……というものだった。
また、もうひとつのサンプルステージも紹介された。こちらも詳細は割愛させていただくが、「伏見稲荷を連想させるもの」(手塚氏)と語るように、鳥居のようにブロックが配置されたステージで、お寺のような形に積み上げられたブロックもある。ところどころに大砲が配置されており、こちらは謎解きではなく、アクションで潜り抜けるようなステージだった。ちなみに、これに手塚氏がチャレンジしたところ、あえなく途中でやられてしまうが(「ゲーム開発者がゲームが上手とは限らないんですよ」とは手塚氏の弁)、ここからが『スーパーマリオメーカー』の真骨頂。すでに作られたステージをエディットで、いろいろとイジり始める。
そこで、お客さんに何を配置したいかを聞くことに。すると、圧倒的な歓声でクッパを配置することに。しかも、手塚氏はクッパを3匹連続で配置し、さらには、そのうちの1匹にキノコを与え、大きな“スーパークッパ”にしてしまった。救済策(?)として、鳥居の近くに3つほどファイアーフラワーを配置して挑んでみるも、クッパの炎が鳥居のブロックを破壊し始める猛攻にあえなく敗退。その後、『スーパーマリオブラザーズ3』や『スーパーマリオワールド』、『New スーパーマリオブラザーズ U』のスキンに変えたり、水中のステージにしたりと、いろいろ変えて、変化を見せていた。ちなみに、実際にプレイをしてやられてしまった後に、ステージエディットモードに移行すると、その直前のマリオの挙動が残像になって表示される。これは、「マリオの軌跡に合わせて、ものを置いたりしやすいようにしているんです」(手塚氏)とのことで、紙一重のジャンプでわたっていくステージなどを作りたいときに、ジャンプの残像に合わせてブロックを配置するといったことができるようだ。
続いて、宮本さんがJAPAN EXPO用に作ったというステージを紹介。ラインに合わせて動く足場などを使って、COOLという文字を作ったり、凱旋門やエッフェル塔型のブロックが配置されているステージ。このステージには、司会の方が挑戦した。“?ブロック”を叩き、キノコを取って、スーパーマリオに変身……と思いきや、まさかのピーチ姫の姿に。『スーパーマリオメーカー』は、amiiboに対応しており、たとえばピーチ姫のamiiboを使えば、キノコを取ってピーチ姫の姿に変身できるのだ(能力は変わらない模様)。これまでに、ルイージ、キノピオ、ヨッシー、リンク、マルス、しずえ、Wii Fitトレーナーなどの姿が公開されていたが、手塚氏いわく「発売されているamiiboには対応する予定です」とのことで、具体的にどこまで対応するのかはわからないが、“大乱闘スマッシュブラザーズ”シリーズのamiiboだけでもかなりの数があるほか、任天堂作品以外のキャラクターも登場しているだけに、どこまで対応しているのかが楽しみだ。
宮本氏のステージの後、VTRで登場したのは、『レイマン』シリーズなどで知られるMichel Ancel氏。Ancel氏は、このJAPAN EXPOのために、『スーパーマリオメーカー』でステージを作っており、それに手塚氏と宮本氏がチャレンジするというものだ。Anchel氏が作ったステージのテーマは、“パックマリオ”。ステージにはあちこちにテレサがいて、ブロックで挟むように作られた道には、コインが敷き詰められており、四つ角にはスターの入った“?ブロック”が配置されている。ステージのテーマと、このステージ描写でおわかりだろうか。そう、これは『パックマン』をモチーフにしたステージ。ゴールはすぐに見えているものの、テレサにやられないようにすべてのコインを取らなくてはいけないのだ。手塚氏、宮本氏が交互にプレイし、大量に出てくるテレサに道をふさがれつつも、パワーエサならぬ、スターを取ってテレサたちをつぎつぎと倒していく。とくに宮本氏がいいところまで行くものの、すべてのスターを使いきってしまい、テレサにやられてしまうのだった。
『スーパーマリオメーカー』の紹介後、手塚氏から『スーパーマリオメーカー』のブックレットの紹介が行われた(『スーパーマリオメーカー』のパッケージ版に同梱。ブックレット単体の発売予定もあり)。こちらは、再び手塚氏のお言葉を引用して紹介させていただく。
手塚 我々がこのゲームの開発と並行して力を入れていたものがあるんです。それは、『スーパーマリオメーカー』専用の本を作ったんです。作った理由がふたつあります。『スーパーマリオメーカー』は、自分で考えて発見を楽しむ遊びなんですが、ゼロから考えることに慣れていない人もいると思うんです。そういうときには、コースを作るためのきっかけがあったほうが楽しいですし、その助けになるためにこの本を作りました。この本と連動して、本に写っている写真やページにまつわるムービーが再生されるんです。写真などの側に4桁のコードがあるので、それを入力すると写真にまつわるムービーが再生されます。この中には、レベルデザインのヒントがたくさん入っています。
手塚 もうひとつの理由が、いつも私はゲームを作るときに、遊んだ人の記憶に残るものを作りたいと思うんです。できるだけ、そのゲームを夢中になって遊んでほしい。それで、この本にはいろいろなビジュアルや、絵本のような楽しいページがたくさん入っていたりします・敵の動きがラインで表示されて参考になるものや、過去の30年前に使っていたコースを作っていたころの資料もあります。当時は、オリジナルの方眼紙にコースをレイアウトして描いて、それをプログラマーさんに渡して入力してもらっていたんです。
宮本 だから、一日一回しか直せなかったんだよね。遊べるのはつぎの日だった。
手塚 ほかにも、遊び心のある隠しムービーも入っています。
ここで、『スーパーマリオメーカー』のコースを紹介する映像が流れる。すごいコースの連続に、見た目だけで、観客から感嘆の声が漏れる。
手塚 今年、『スーパーマリオ』の30周年を記念して、皆さんから『スーパーマリオ』に関するビデオを募集しています。見ていて楽しいんですが、もっともっと応募してほしいので、サンプルをお見せしますね。マリオやピーチの格好をして踊るもの、演奏をするもの、“30UP”という文字と“1UPキノコ”が書かれたケーキを映したものなど、さまざまな映像が公開される。これらの映像は、“Let's Super Mario”のサイト(→コチラ)でも公開されているので、ぜひ見ていただき、参加してほしい。